愛染院一日千句

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  第一
   聖像によせ奉る
  猶薫れ深衣の袖のこほれ梅       東周
  二十五日の春の曙           許昌
  探幽か雁はいづくへ帰るらん      逸民
  漆の色のさめぬ床ぶち         亀文
  墨うつたやうなる陰の初の雪      
  

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  宵の雫の落る手拭           
  石台の松に淋しき玉兎         素柳
  鹿と砧は遠い程よし          東周
 ウ
  漸寒く此草庵を立出て         許
  どふでも昼ハ寝られざりけり      逸
  こまざらへにてかくやうな物思ひ    亀
  ねち上戸なるお傾城さま        六
  恋もあり喧嘩もありし大家中      画
  
  常美しきうへの力量          素
  四角なる字ハむつかしき玉かつら    東
  月ハ真上に見台へむく         許
  秋茄子小サけれとも名にしをふ     逸
  赤蜻蜓の遊ふ村雨           亀
  手習子画はかりかいて居たりけり    六
  はつちり炭に火のうつる音       画
  酒中花の花のいろ/\解尽し      
  

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  蕨揃ふてかしこまる膝         東
 二
  養父入といふうつくしゐ人かある    
  書てたもれと頼みける文        逸
  水のやうに思ふて飲んて漂泠      亀
  今朝ハ私か朝起の先          六
  ぬつくりと梶原殿にだまされし     画
  櫓々に鷺の真白            素
  吉田のや橋御普請の月の友       東
  
  二石入る壺うつむけて有リ       許
  菌付て東雲深き頬かふり        逸
  鎌隼にあひし黒髪           亀
  身帯の邪魔に成たる恋をして      六
  古道具でも親子三人          画
  水底の月を濁らす烏賊の墨       素
  紅葉々々と書て年ふる         東
 二ウ
  片鶉声の淋しき寺隣          許
  

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  連哥のやうな発句なされた       逸
  隙な医者あんまり隙で病づき      亀
  真新しなるゑひす大黒         六
  しぶ/\と濡たる柴の夕煙       画
  笋ぬいた跡は埃かけ          素
  毎朝の手向も清き翁塚         東
  幸イ月にうけのよき庭         亀
  廻国を此秋思ひ立て候         逸
  
  三里の灸かいぼゐ迷惑         許
  吟すれハ空に景気のきら/\と     素
  押絵をとりし金屏に跡         画
  此ごろハ朝寝のならぬ花の庵      六
  右に海ある東風の塩梅         東
 三
  百千鳥鉄炮かたげ通る人        許
  見かへる女物ハありまの        逸
  踏辷る程たまりたる恋の文       亀
  

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  さて/\是の藪ハ能イ藪        六
  ほうろくにすこし入たる豆の音     画
  三代富キ四代目ハ唖          素
  川音の奇麗さを見よ福智山       東
  酒顛童子の礎の跡           許
  物語聞た事をハ今も亦         逸
  例の甲陽軍の抜書           亀
  四方とも窓を明たく思へとも      素
  
  鵜の真似をする烏てハある       画
  月見酒下戸を肴に又一ツ        素
  日暮しの鳴く比の学問         東
 三ウ
  葉か落て弥桐かびよろ長し       許
  巨釈な娘年聞ハさて          逸
  嫁入の長持迄も手作にて        亀
  いかさまけふハきつゐ震動       六
  己か名ハみごとにじりて余ハ無筆    画
  

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  瀧にうたれて頭痛さつはり       素
  二童子に見限れたる蝉の声       東
  九度の枕月うつす袖          画
  あら巻と草鞋そなへる山の神      素
  旅の心ハ分別の外           亀
  嫌なからとふやら河豚を喰覚      六
  もはや出家を思ひとまらん       許
  鎌倉ハ花そ昔の春ならぬ        逸
  
  わか身一ツの独活の和物        東
 名
  川逍遥せんと思えハ冴かへり      許
  日に/\瘧屁とも思ハす        逸
  六十になれとも止ぬ罪深し       亀
  至極大キな革のどうらん        六
  焼飯のから/\したる暮の旅      画
  あはれに沈む古池の亀         素
  高祖ゟ千百年の松の色         東
  

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  此妙薬ハたつた一つけ         許
  名の高き小野小町か筆の跡       素
  お姥さまへと勧進の声         亀
  転寝の耳へ入たる馬の鈴        六
  田舎道かや富士か見え止ミ       画
  嘸月も面白さうな蔵屋敷        逸
  芋の広葉のいさぎよくのび       執筆
 ウ
  柿の下で冠直ス物しらず        素
  
  汝元来猿か見て居る          許
  品玉もゑて雨夜の物語         逸
  袖をいたゝく程に寄添         亀
  宗任に詠かけられて藻塩焼ク      六
  むかしを思ひ出す世盛         画
  花鳥や神鳴門の午の時         東
  色あさやかに鮒鱠もる         執筆