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天保壬寅八月十二日於古郷塚
芭蕉翁百五十遠忌追福興行
脇起俳諧之連歌
みのむしの音を聞に来よ草の庵 祖翁
今も猶すむ池水の月 二石
帘のまつ眼にかゝる霧晴て 梅室
人よりはやう鳶の寄る市 遠水
ひわ/\と扱ひにくき竹はしこ 一志
自由に楫をきかす川口 鷺秋
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何所へやら時雨ハそれて松の風 砺山
柴胡の原も枯わたりけり 求古
ウ
よい馬を奥の山家へ買て行 杜鷲
壱升酒に車坐をくむ 金波
はしための分に過たる名古屋帯 賀岡
柴屋町ても見たる傘 魯月
夏草の夜店并へる格子さき 希声
蚊遣りなひきてくらき行燈 淡節
かな書て覚し経のしとろなる 芦岸
わさくれらしき呼水の戸樋 草子
樅檜もめあふ中にあけの月 梅價
囮にしてハうとき山雀 木容
狩衣の袖もちきれる野分ふく 桃渓
又一二軒観えし藁ふき 楓所
とれともに花も地を這ふ風土にて 其容
斤なくさみに五架和合売る 草居
ちか過てつゐに拝まぬねはん像 烏文
啌ハむかしにかはらさる爺 士逖
焚ハ飛ふ榛の割木を積立て 楓下
注連引まはす機屋むつかし 一東
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外眼にハ俄のやうな武者揃 凸凹
から入梅なれと曇りつゝける 九斎
先住の時代に合歓は伐れけり 若阜
嘔の相手になりてはてなき 杏菊
かくされた文箱出て有御錠口 寿堂
みたれし髪をうつす水鉢 政年
これといふ菜の好もつかぬなり 袋美
遊ひのつれハおらぬ底倉 郎水
月の出にそふて声すむ草雲雀 岱羊
やくそく多き瓜のかりもき 臥雪
二ウ
薮入のうちにいやかる灸すへて 月石
塔の九輪のよう見ゆるまと 霞洲
竹荷ひく牛を工合に逐まはし 秋杵
被の人にあふて肝けす 風光
手の跡の雪に残りてはつかしき 五橋
暮半時になりし年の尾 里柏
腰板の木地の出てある番はかま 梅亭
うまさうにのむ馬柄杓の水 春領
涼しさに月の木曽路を夜をかけて 惟草
施米のさたもきかぬ世直り 双鳧
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先操に兄のきものを着せおろし 鳳尾
二重猿戸にかうとうな家 如風
舁て来る根引の花の枝からみ 梅通
たしなき雨に蛙啼出す 千草
此春もしらすに仕舞ふ春土用 春坡
神事に遣ふ太刀磨す也 正木
小軍か有て人夫の払底に 瓢石
焚火に魚を投込て焼く 玉脂
積雪に窓から水を汲いれて 岳鳳
紙衣てなみたぬくふ侘しさ 九起
潮来にも流れとまらぬ古芸者 月坡
ちきれ草履を浪に曳るゝ 芦洲
灰葬のけふりあとなき朝あらし 照布
鶴のそはへハ下りぬ野からす 琴亭
口はかりきいて日雇の骨をしみ 風阿
知行も銀てわたる京方 不二雄
年により月に小寒き浅黄椀 其章
三寸にもたてる稲の大ふさ 乙鵝
茸山へ庭から直にあからせる 梅枝
ぬり杖つけハ顔を見らるゝ 永年
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丁子風呂毎日入れと香も添す 霞外
車軸かしても一念て逢ふ 草良
たゝまりし口舌を伯母の預りて 昇斎
馬も通らぬ満願寺むら 鳥乙
鋸てこそけておとす屋根の苔 芊丈
月の雫のにほふくすり日 梅㬢
込汐に迷ふてほたる群るなり 宇弘
配所の供に連るはやあし 北雄
花守に名札わたして花を折 林菅
筆にうつして祭る人丸 停雲
かへる雁行々列をふりかへて 鉄斎
二三日鮎の汲る下の瀬 余力
また空も晴ぬに糊をすらすおと 石鼎
不意と替つた声の恥かし 戦斎
とふしても奉公からしは遣ひよき いはほ
枝駅なれと自由なる宿 梅隣
つき過た硯の水を一寸とすひ 橘治
少しはかりの鉢のなてしこ 岡堂
さら/\と砂のこほるゝ瀬戸やま 竹山
屋根より高う上る干もの 双鵞
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茶を乞ふた礼に舞行越後師子 頼賢
持たる笠を飛はす辻かせ 卓丈
烏より鳶はするとく追かけて 其石
疱瘡神を送り出す宵 為一
細けれと月ハ暑さをつれて行 旦斎
露のなかれる庭の敷石 多轍
しら萩の隣にめたつ鶏頭花 五楓
から手振ても鳩のあつまる 松歩
買に来るほとにとうふも仕込れす 草也
あかめて通す御師の長持 梅井
倹約の世にもはやらぬ葛羽をり 清斎
つゝく日和に引払ふふね 蕩刕
尊さは花をあるしの化城品 虚白
長閑な道をみなしたふなり 拾五
(中略)
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俳諧連歌 伊賀上野連
咲かへてもてなせけふの花木槿 其容
座に居なしめハ竈虫啼く 梅室
盃の光リしはらくいさよふて 其章
結句はきよき竹の割下駄 草居
行年の隣ハ遠き車井戸 桃渓
奥へ静にはこふ鯉桶 容
両替ハ番頭ともにまかせおき 居
薬きらひな娘もちけり 章
うかれ来て夕かほ垣に押込れ 容
すつきりとせぬ白雨の跡 渓
けんとんの工合のわるき書物箱 章
鞠をすゝめに出入浪人 居
雁啼て乙鳥もちとは残る月 渓
たらいの水をすます秋風 容
良寒に立るけふりのふはついて 居
ちから有たけ振上る斧 章
こゝろなく花に懸たる牛の鞍 容
何所やら嬉し春の曙 渓
末略