つづれ日記


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南をはからんと三子ひとつ
願の年月もふりて今歳
此花見にさたまるをのつ
からもれて配力袴を裁着に
かへ東耕もすみ染を旅衣に
やつし同し笠の書付にと
聞ゆされと又障事有て
共にとゝまるいと残多し
猿雖旧行をおもひいて猶
 

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うらやましなと文おこせ餞
ものありて
  菜の花の夜明新し
         町はつれ
荻子馬のはなむけ三句
  先花の初瀬に暮よ一泊
  花の山酔てこけたる趾見せよ
  みの巻て花見るまては
雨も来な
 
各脇もあるへけれと事しけき
にかゝはりたゝ行方のさくら
花手毎に折てつとにもと
おもふ斗なりけり
十三日
宵より梧桐の鐘聞はつすな
赤坂の鳥も鳴ぬへきなと
三合て半残か許により合ふ
こゝにて旅の用意し
 

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首途するとて
  月花のそゝろ嬉しき  非群
          出立哉
先こもりえの初瀬にとこゝろ
さす暁やみに大内川を越て
古山の陰明わたりけれははや
  一日の鳴出し涼し  半残
         朝雲雀
 
蔵持村にて
  隠〳〵や若菜の花に  苔蘇
          麦畠
名張の町に入ておもひかけ
さる風景又たくひなし
  華表より柳尽して  残
        したれ哉
爰は知人多く殊更桐水の
もとへはしたひよらまほしけれと
 

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いそかはしけれと鍛冶高田か
もとに硯かりてしらし置
  囀れと雲雀にたのむ  残
          旅路哉
  其まては見にも得いかす  群
          雉子声
簗瀬川は鱒魚多くのほりて
藤花盛なる比時節なりと
きく戯やらん事もあれは張安
国か河豚をくらふ事を約
 
して己報春洲萩争生ルと
云たりしふとおもひいてゝおかし
此あたり里々をみるに打かし
おほらてなつかしき事のみ
  松桃も三十年のふとり哉  蘇
川つらのつら〳〵椿さきすかり
けれは
  花つはき落ては水に  仝
         舞て行
 

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  つゝほりと泥に落たる椿哉  群
同し川辺にて
  橋つなく藤はいつ咲花  残
           かつら
大野の慈尊院に立より本尊
弥勒菩薩は岸上に自然の
巌を刻み淵を隔て山に
峙つ細みち伝ひ少行て本の
道筋に出る也此辺より無漏山
 
へは一里ありとそ小坂にて
杓子売に行あひいつくよりと
いへは芳野より出るといふ
嬉しくてまつ花の事を問
聞ぬ琴引は唐琴の里とて
伊賀国に入たる名所記あり
たつねきけは大和也社は今も
唐琴明神といふよし茶を
売翁かたり侍る初瀬に到りて
 

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大焔摩堂を宿坊として
観世音に参るおりしも
開帳にて先利益あるここち
したり手水する時
  花ちるや手に一雫〳〵 群
貫之の梅玉かつらの塚何と
かの社数々なれは板行の
小冊を求てこと〳〵く記さす
 
眺望して        蘇
  しら壁や花を重て暮兼る
尾上の鐘聞へて
  桜からこほるゝ月や  残
         はつ瀬川
宿坊に帰て
  すい風呂の煙うち込朧哉  群
十四日
人顔のみゆる比出て三輪の
 

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山もとを過る外山の里には我
古郷に沽おこす酒家あり
竹の葉さまより瓦ふく様
大かた見ゆ桜井の辺山水
にまかせて水車多し
  つはくらも打返れん  群
水車
  桃梨の間〳〵や水車  蘇
  あけるやら敷やら梨の  残
          水くるま
 
多武峯の坂にかゝりて
  五十町上て鳴たり   蘇
雉子の声
のほれはかたはらに     残
  山ふきを小瀧の上の枝折哉
幽谷を見おろして     仝
  鴬も一はりはるや谷の底
門を入てやゝ遠く行て人も
見へす金殿紫閣けたかく重り
 

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心すみて在スかことし庭なる
さくらは八重十重に咲みたれ
谷嶺の木末皆花にあらはれ
て景致いはんかたなし
  けつかうに照やさくらの  群
           四つ時分
  掃除する庭のまゝなる  蘇
           桜哉
経蔵新に造立てあまたの
画工彩居る何かしの院にて
 
篁の筆大職冠の御影を
拝す左淡海公右何和尚と
かや西の門より出れは増賀
上人の廟あり
  干鮭の太刀もかゝるか  残
           花の枝
吉野へと山越をたとる冬野と
いふ所家あり高取城むかひ合
けれは遠眼鏡取出て休み