軍法侍用集 三

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侍用集第五
道具軍礼の巻
 
夫武士軍に用の兵具其数多しかも四家の説あり加
持種々秘密あり具なる事は別に巻をなして相伝
するものなり是は自由に披見せしめんため大方をのみ書
きものなり
 
  第一幕の事
 夫幕は軍旅の宝器也張良籌帷帳の中に廻して勝
事を千里の外に決したり帷はかたびらとて幕ちいさ
きものなり幄は幕と同じきものなり此中士卒をいさめ
怨敵を退治する事如志可叶されば是を作に吉日
 

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良辰をえらび加持封をして所持するなり出陣或は
兵具・小屋どりにも是を用れば悪日・悪方・悪時・不
浄をもきらはず災難をまぬがれ武運長久成べし
一乳の長五寸但し布に八分付て四寸二分を手綱通とするとなり
又六寸にして布に一寸付といふ横は八分又布一幅を三ツにわり
それを二つ折にしてくけるもありといふ是言葉長きによつて不
一乳数二十八は二十八宿也然ども今二十七にする事は丑父といふ除
牛宿子細は周霊王の時天下に有疫病あり人民の死事其数
をしらず然はかせをめしよせ占はせ給へば勘て云幕に牛宿ある故
也とて除之其後天下の病人悉く活より以来幕のもとより
二十一目の乳を二十目に重ぬる事是をのぞく心得也
 
一乳二十八は天の二十八宿をかたどる故に天幕は陽幕ともいふ乳
三十六は地の三十禽をかたどる故に陰幕とも夜幕とも云也
兵所の幕に乳四十八あるは四十八天をかたどるなり
一乳数二十七の時の名
 角・亢・氐・房・心・尾・箕・斗・女・虚・危・室・壁・奎
 婁・胃・昴・畢・觜・参・井・鬼・柳・星・張・翼・軫
一乳の色白は天青は人黒は地なり又地白の幕は乳も手綱も
白くすべし但し白きは染乳は用ゆとも染幕に白乳付事あるべからず
一三帖の幕の事 本幕は家の紋あり是常に用る幕也中
幕とは水色夜幕と云是をば矢懸にうつべし箭懸とは
串より内に打つ儀也小紋を雑幕と云但し日月の物見に口伝あり
 

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一、幕は根本白色也近代紋を以てしるしとする也紋五
つは仁・義・礼・智・信の五也
一手綱の長さ五丈八尺は五部八教をかたどる三色に染事は
金剛界・胎蔵界・大日軍神の三つをかたどるなり
一幕五段にすることは五波羅蜜・五智・五仏・五大八尊・或ひは地・
水・火・風・空を表也然間布を体とする也又白を本とする
事は恭も摩利支天則ち白幕と生れ給ふと也是天竺
曼珠生と云都にての儀也尊天生給ひて三日に丑寅角の
天に声僅かに小虫が鳴くがごとしと云彼のみやこに久礼と云
者其産甲のためにとて五布の絹を降也誰と問ば吾
是天の帝釈也と答給と云也故に白を妙也とするまた霞
 
の幕は帝釈・修羅の戦の時摩利支天得ニ帝釈勅八陣を下
知在給ふ時件の霞のまくをはしらかし給ふと云也故に今も
陣取に幕懸の木を本とする也陣の図はいかやうにとるとも
幕は鋒矢の形に走らすべしされば幕始をば丑寅の方に当
ては戌亥の角に幕の面を向也大方如此仕後は意に随べし
一布の名は天布・物見布・中布・勝布・芝打布と云
一物見九つは九曜を表天布にある二つの物見をば日曜星月
曜星則月日の物見と云是昼夜にとる尤大将の外この物
見おり見る事あるべからず昼は日の物見より見夜は月の物見
を用給ふべし左の日の物見一尺二寸は十二時を表也右月の物見
一尺二寸は十二月を表残り七つの物見を八寸二分する事は一時
 

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八尅二分を表と云也
一幕串は八本八頭と突くとの間三寸地に入分は一尺余也又幕
のすそと地の間六寸
計也其の上は布幅次第
八頭の下より丸して
地に入所は八角也さき
はつるはしのごとく
也又云大将の幕
串拾本たるべし
 
(幕図)翻刻省略
 

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一乳の針目
      表の針め如此也
      裏の針め如此也
右本幕の図常式旅宿等にても用之幕也加持し
たる幕をば氏なき人など卒爾にうつべからず氏なきき
人は氏をゆるされてうつべし加持する幕布は十
四さいより内の女に織らする也然ども作る人なき則市
場にてとゝのへつくるべし
一幕を仕立てはじめてうつとき大将はえぼし・しやうぞくをたゞしく
したまひ或は具足よろひ等武具を帯して左右の手
を合せいかにもつゝしみて
   唵・黒・呂・室・駄・吠・梨・耶・娑・婆・訶
 
此文をとなふ
べし
 
(幕図)翻刻略
 

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   アン・カク・キン・サクワン・アク・ウン・キリニ・キウ・ソワ・カ
右如此調則摩利支天又氏神を本尊にしてをこ
なふべし重々口伝
一幕言葉の事 軍の幕をうつと云敵をうつ心得也船幕
をはしらかすと云物見座敷の仮粧幕をかこふと云敵
の幕を引と云そうれいの幕をはると云也又幕旗をば
おさむると云たゝむとは云べからず幕はあぐると云しぼると
は禁句也
一幕うちやうの次第の事 串立る穴をほるに先まく串
の石つきにて左の方へ一度廻し又右の方へ一度廻しそれ
よりはいかやうほどたとへば鍬にてもほる也但しまくくし
 

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七本迄はさきをとがらしても置一本はかならずつるはし
のごとくにする也串を立てる時は内より外へむかひて立
もの也幕一帖の時は串七本片幕には四本也一本
を両方へ用てうつにより一帖の時は七本也
一幕は本より末の方へうち留める也まくうつときは外より
内へ向て打つ也きりこと折釘の間にかもうさぎにむ
すびべし二重むすぶ也扨末の方にては右のごとく
しるしつけを二重にして又上を一結びむすぶ也但旅な
どに一夜とも逗留の時如此又昼休見物遊山などの
時は本末のとめ同前にすべし又念のとめとて陣小屋・
城などの幕のとめ之ある也
 
(幕うちやうの図)翻刻略
 

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一うちきらざる幕の事 見物の所或参内などの時にうつ
幕也是は幕を裏は表或ひは壁の方へうらをする也子
細は御通の道を座敷に用るための也これをけしやう
幕と云是をばかこふと云又御通りの時幕をあぐるた
めにこまり幾所にもあるべし此時はいづれもこよりたる
べし幕の表裏うちやうのことは所のはれがましき
方へ表をすると心得給ふべし
一まくおさめやうは外から内にむかひ末より次第に納る也
一幕継様の事 左前にならぬやうにつぐべし両方より
乳を五つ宛入合せて真中の乳にて一結又両方のはしにて
二結以上三所にて結び其手は下へさげて置何帖つぐとも如此すべし
 
一出入の事 先軍門三のをしへとは片幕に串四本立は間三
つ也中門をば大将の出入と心得必平人出入あるべからず平
人は下座の方出入しぜんには上座の方出入あるべし努々中
門出入あるべからず但大将の御供に御腰の物等の御道具持た
らば又各別也又春夏は右の門秋冬は左の方通べし心得口伝
一大将出入の事 まづ幕をあぐる役人両人下座の方より廻
中門の幕を外より内にむかひ我前の方へまきあげべし
此時は右脇の人は左の手にて左方の人は右の手
にて指上両人むかひ合ひてかた手はひざの上に置中腰
に也て居べし御つぶりにつかへざるやうにすべし又こまり
あらばこまりにてあげ両人地に手をつきてあるべしいづれ
 

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も近習の人のやく也さて中より出ざる御供人は御腰物持人
御団扇持人御再拝持人御鞭・御ゆがけなど持たる人の外は
皆下座の方より出らるべき也御幕あぐる人も御
幕をなほして下座の方より内へ入るべし
一出入の作法は大将の御出の時は右のごとく幕をあぐる人
両人さきへ行あぐる也扨幕をなほすとは跡をうちへ芝
打ちを折こむ也但幕なほす事は送て出たる人の役
也惣別御幕のうちにては外迄は送人出まじき也是
日月の物見用捨のため也扨平人出入の作法は先出る
時は左のひざをつきて左の手にて幕を外へまきあげ右
の足より出るあとをうちへ折こむやうにすべし入る時は右の
 
膝をつき左の足より入まくは入る時も左にて巻あぐる也
跡をおさへて入るべし又こまりにてあげたる幕也とも中腰
に也て通べし立ながら通ことは無礼也殊更加持したる
幕など平人無礼の作法冥加おそろしき事なるべし
一こまりとはまくあげるものを云日月の物見に二つ中
に一つ以上三つたたみもといのごとくにして手綱にむすび
つけ内外へ五寸づゝほどさがりをすべし是大将の御出入
の所也平人出入の所は木曜の上に一つ土曜の上に一つ
こよりにしてむすびさぐる也是をこまりと云右片幕に
五所付くる也又幕何帖ありとも中は大将御通りと心得べき
也必/\幕と串との間不通子細は死人又不浄の
 

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者を通所也何時も大将の御前日月の物見の所はひき
さきにてあくる此の所をば平人不通と心得こよりの所
より通べし物見の儀昼は大将日のもの見より外を
御覧じ夜は月の物見より御覧ずる也平人は此二つの物
見用捨あるべし残七つの物見より見る也秘云軍
にては我姓に相生の物見より見ると也口伝
 
  第二旗の事
 夫旗は軍場の荘厳又軍兵教行自在徳依之仏
閣秘法の道場にも之を立然間城郭・出陣・合戦にも
之也人家遥雖隔有軍鑑見知之也神武天皇日
向国宮崎郡初造給御旗也されば旗の表裏には金胎両
 
部諸尊を勧請し奉る真に九万八千の軍神の住処也
故に代々の将軍請ニ勅命天子の御衣を以被調下頂戴之云々
然信之大将は有ニ諸尊三宝加護万端如意なるべき也又
旗竿責口は龍頭龍王蔵也故に武士欲闘戦先旗を
先立て勝負を決降魔を退散し強敵を切亡也誠に
天下泰平・国家安全・武運長久・息災延命の儀成べし
一綸旨 日の御旗と申すは地は錦にて日天・月天を金銀に
て織り付けられ又地には綾精好をなさる儀もあり此故に将
軍家には白布を本とする也然ども無紋の白旗将軍の外
之事なかるべし是清和天皇白布を用給ふ故に白旗
の天王と申し奉る也されば源家に白きを用ゆ又絹旗は紗な
 

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どにてつくることもある也一概には心得らるまじき也
一公方家大名家の御旗は長一丈九尺或ひは一丈七尺二分也又
竿の長さ旗一丈八尺の時は二丈也一丈七尺二分の時は一丈
九尺也此はたをば手長の御旗と申す也横手に家名・実
名書き入べし又難点の葉に龍と云字を書縫籠べし
又一説に旗の長三尺六寸或二尺六寸若は七尺八寸にもする也
横の広は二尺二寸八分也縫迦一尺八寸八分 纐纈は二寸也縫迦の
きはに家の紋あり神の御名之あり竿の長は旗によるべし
何も二幅なるべし鳩居の川は藍革を以押通縫裹也
一旗竿作事 根彫りにして竹に少しもあたらずひげばかり落
して九尺八寸八分にも若しは一丈二尺八分にも一丈三尺八分にも旗
 
によるべき也節の数十か十二あるべし余ふしをば洗べし条々口伝
一蝉口には三鳥の大事と云事 一には石令鳥の生羽一には
鳩の生き一には鷹の生羽を可副也綸旨の文をも黄牛
革の裏に書責口に添べし口伝
一蝉口の上下一寸宛間を置皮を洗糸にて巻黒塗べし巻
目の下よりとんばうがしらを出し旗を付べしとんばうを
も塗てよし藍革丸くくけてとんばうに結也
 
旗龍楯台の図          内の方にて
                 おとこむすび
                 たるべし
 

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 如此於ニ陣所前に旗を立る也春夏は左秋冬は右に立る但四
季ともに右に立てる事あり
一旗などの五姓を知る事 枝東へさしたるは木姓南へ指たるは火姓
西へ指たるは金姓北へ指たるは水姓也四方の角へさしたるは土
姓也是を能々勘大将の相姓を用給べし惣じて旗は軍
勢のしるしとせりさし物は一身のしるし也されば指物など
にも竿の入る事あらば是を吟味あるべし
一手長旗の図の事 手の内に九字文を書て副也緒には文龍
牛と書入又八幡三所其国の守護の氏神の名を書入る也
 
        (図)  紋如此付るもあり
 
        旗の図
(図)
 
旗柄の図
    陽の結
(図)
 

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    陰の結
(図)
 
うけ筒
           鷹の大緒のごとく結
           但女結男結あり口伝
(図)
 
竿の図
(図)
 
一旗を指出の儀先護身法如常次九字を切るべし扨掌を合て
   南無天照太神   南無八幡大菩薩
   南無鹿島大明神  南無諏訪大明神
   南無末吉大明神  南無天満大自在天神
と三返次に七所の加持をすべし
一門出の時旗さす人或は旗奉行の歌に曰
  指出す このはたさほの かげみれば 運敵もうつ 大敵もうつ
一旗をさしだして三町のうちにて跡を見げからず
一請取時は上手なるべし
一やすむ時は立て休べし肩などにもたせ又は物にもたせて休事なかれ
一さし行道に河溝ありとも跡に帰て道を求る事
なかれ先へ行廻はくるしからざる也
 

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一出陣には御旗竿の末より出し帰陣の時は本より入る也又
常に竿の末を西北へ向けべからず
一御旗挙時は余の手にて巻あげにすべし
一御旗をば中門・妻戸の前にて可差遠路の時は竿を此所に
て渡す蝉口をば紙にてつゝむべし御旗をば箱に入渡べし
又袋に入て持事ありいづれも肩にかけて持べし又出陣に
は蝉口より出し帰陣にはもとより内へ入る也心得べし
一、出陣には御旗出すと云べし働く時は進むと云また幕旗たゝむ
と云べからず挙と云べき也
一五色の旗馬験を相図に用る事 敵の色・馬験のかたち
味方にたつる事を凶むたゞ遠くても見知よく又は雑兵までにも
 
約束かたくしてたとへばうたん・扇などの人の見知りよきもの
にて相図あるべし敵のはたとはたとへば源平のたたかひに
源家の人あひ図のためにとて赤旗持用ゆるの事也重々口
伝惣別幕旗仕立る事よく/\軍法伝授の人ならでは
心得しるまじき也事長き故此にも略之種々作法・秘術あり
 
  第三 弓の事付り靭箙の事
 夫弓は根本恙と云蛇をかたどる也こゝに七張の弓と云
あり一にまんだら弓二にやうきう三にじやたい弓四
に御たらし弓五にほうゑ弓六に中弓七にうち弓
是今の世に所持の弓也
 

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(弓の図・矢の図 翻刻略)
 
 
一矢一腰とは矢数二十一の事也うしろの骨を表して
也其外は十六一把と云惣別うつぼの矢数は四季によってくばる也
   春は七つ上さしれうかい 夏は九つ上さしかりまた
 

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   秋は十一上さしとかりや 冬は二十一上さしけんさり
是は九曜七星二十八宿をかたどる也
 
(靭の図 翻刻略)
 
一矢数の事 矢一把とは数五十一の事也
一弦一ちやうとは七すぢ也外は一つ二つと云也
一弓一手とは的矢計り也其外はいくつと云也
一弓三国の名大唐にては上平と云天竺にては御多羅
枝と云日本にては弓と云也
一弓の弦ひゞかするに常には二つ軍にては一つ敵一うち
の心得也必ず三つ音を凶む也
一にぎりかわはふすべかわ軍にはごめんかわ又常にはしやうぶかわ軍
にも持也巻やうは弓のうち左かどより巻はじめうちの右の方
にてまき留る也
一、矢こしらへやうの事 せいをいとにてとりそれを四つ折
 

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一分にかみもきをし三つおり一分にかみもきをし四つ
折一分のけ跡三つわけにもとはぎをし二つに折て
ねたまきをしみなのべてくつまきをするねたまきの糸左也
一矢じるしとてかみにて右の糸をきより三つにおりて其
一分に書く也外がけの羽のとおり也名乗計書又主人の名
を書く其下に我名を書ことあり口伝
一同書様の事 先硯をあらふべしさて勝木の皮にて
硯水を入る硯を洗事は七月七日と矢じるしの時ばかり也扨
墨に耳の垢をまぜ書也子細は血のつきたる時も墨お
ちざる也故に硯に耳かきを置くと也此時筆のかさをぢくの
方へぬく起請の時も同前故につねに用捨する也又云くろ
 
ぢくは不吉也しろぢくにて書くべし
一矢送とて敵方へ射こしたる矢をもどす事あり其時
は袖ずりのふしよりおりかけてはしり羽一つもぎて返す
也其時返礼あるべし此儀敵の手柄をほめるの儀也
一本からをばにかわにて羽をつけず矢論の時のため也口伝
一矢跡の血を見るに猪をばぬかと云鹿をばしゝしるしと云
人をばはかりと云
一矢びらきの時猫・にはとり大いに凶む也
一家こしの蟇目とは家主心乱れ或ひは家にふしんのある時射
也射出七日精進をして重藤の弓にて昼三度・夜二度
二夜三日射る也棟を射こすにより家こしと云也
 

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一七五三と云事 にぎりより上二十八宿にぎりより下は地の三十六也
一ぬり弓に白つるかけ候はゞはつきぬ墨にてそめよし又白
木に染弦かけ候はゞ白紙にてまくべし
一弓はじめの時は豹尾のかしらをふんで黄幡の尾を射ると心
得給ふべし此時の足一案にひらくあしにてつぼむ足にて留める是
陰陽也
一ゆがけ一具とは押手・勝手也出陣には前にかけ帰陣に
はうしろにかけべき也
一しつひ長さ三尺六寸広さ一寸二分両方の端をけんさきにつめ
弓のとりうちをゆふべし弓たいに立る時も右同前
一、箙とはいさらと云魔王の首を表帝釈此魔王を二十五
 
の矢数を以殺害ましますによって矢数は二十五也然るに
しるしの矢とは大将の専度或ひは討死も此矢を射すて
たまはずゑびらに残す故に云爾也上ざしは鏑矢二つ
也敵孤の方より来たらば虚に向て此矢を射る也此矢敵の
旗本に落則敵を退治する事うたがひなし若敵味方
の中より前により落則利なし是をながれと云此吉凶を
見てまつりごとあるべし又体の矢は羽不付也二十五の矢をば此一つ
の矢を以かたむる也須弥の方によつて指方あり重々口伝
一悪方に矢を射の大事 敵白虎あらば朱雀より射べし
北斗にあらば戊己より射べし此外刻を以射る也秘に云敵孤の
方・九魔王神・天一神・破軍の方にある時は大将の馬の鼻
 

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旗の蝉口を敵のうしろにして射る也扨弦をはづし吉方に
むかひ弓を袋におさむる也口伝
 
  第四 唐笠袋の事
 夫傘は天逆鉾を表故に袋は草薙剣・十柄剣・村雲
剣等を専らにかたどる也依之日傘は上とする黒色を中と
す白色は下とする也口伝
一からかさの長さ上は八尺也是は八大龍王を表中は七尺天
神七代を表下は五尺地神五代を表也
一、袋の長さ一丈二尺五寸也此内さがり一尺五寸也とぢやうは
始めは四五三にぬひ其外はたゞはり也
一、末の余をば二七にもする也しやうぶかわをば七寸にするとぢやうは
 
とんばうむすびに留べし但かわの色は赤黒なるべし其心
勝々の二字口伝
一袋に紋を付事 其の家の紋なるべし但無紋は至上也
是を用捨すべし紫色准之口伝
一きくとぢは私故此に略
一常式の笠袋尺は長八尺二分布三幅を以すかりしやうぶ
の長さ一尺五分或ひは九寸二分うらはけんさき也
一、仕立てやう 三幅を取合いづれもふせぬひ也上は仮粧革の所
までぬふべし下は笠の長さによるべし一布のうちを二通りづゝ
ふくらのあたりより上へ空縫をすべし三布ともにぬひやう
同前但ふせぬひとふせぬひの間の事也
 

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一きくとぢ表裏に二つ又三つも用べし
一色上は白色中は水色下青色無紋至上例式の人は家紋を
付べし口伝
 
(図)            しやうぶかわ
 しやうぶかわ       (図)
 
 右大名家は白色其以下はあさぎ
一仮粧布の長さ一尺余也菖蒲革一尺さきを剣鉾に切べし
同ひろさ一寸半きくとぢの広さ一寸あまりの長三寸装束
革の付け所より一尺七寸下に付べし口伝
 
  第五母衣の事
 夫母衣は張良初造之となり張良夢中に独りの婦人来
て六巻の書を与てより出陣及時又婦人白嚢を持
来て云是を懸て敵にむかふに不勝と云事なし刀器身
にあたらずと云々張良重問是を掛て有利如何夫人の
云人母の胎内に居る時これをまとひある故に母三毒を喰へ
ども身にあたらず是を以汝に此縨を与とのたまへば張
 

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良再拝して是を懸て軍にむかふに不利と云事なし彼
六巻の書は鶴林山の石中にて童子出でて悉教給ふと
也此童子は摩利支尊天此婦人は観音にてまします
是母衣の初め也源平藤橘に文字替ると云とも其の
心得はひとしかるべし縨是を用は婦人のほろを与ると
仰られし時を用也母衣是を母の胎内にて母のきせし
衣と云心也母の衣是を用は楯に母の衣をなすとの儀也(くさかんむりに武)
薩是は彼婦人のゑなよとのたまひし時を用也更に樊
會は母の衣と云説悪敷儀也用之事なかれ
一仕立事 大小あるべし併縫目は九字更に返し針あるべから
ず乳手の長短も母衣の大小によるべし
 
一乳数は二つ上をば剣鋒にすべし是を手と云わなにしたる
を乳と云大方絵図にしるす也猶口伝あり
 
(図)
 

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一仏説には是を天蓋と云武家には縨と用る也されば僧用
之袈裟とする也故に武羅武者は長老と同事也死して
及引導即心即仏也然るに母衣武者を討捕雑兵
の如くせば武運よはく天罰を蒙る事うたがひあるまじ
き也能/\心得べし
一縨武者をうちとりてはかけたるほろの二番のきぬを切
取四重に折頭を包帝釈の緒にて結べし扨実検の所
に具に書によつて爰には略之若大将をうちとる時は
箙の矢の内にほろ持の矢二つあるべし是を死骸の
枕の方足の方に立て切のはしのほろを引きせ置べき也
其時唱文に云本覚法身本有如来と二十八返唱べし
 
一縨作秘術の事 先ほろをつくる時は道具を取あつめ壇に
置香花をそなへ下獅子の印をむすびて香炉の気を
見べし吉気は細天上して色白き也凶気は色青して
天上なき死火のごとし吉気を見て加持してつくるべし
一ほろ灌頂の事 四方に幕をうちて
  南無日天神   東強飯        南無月天神  西酒
  南無持国天   辰巳方(次に米 とぎ) 南無多聞天  未申鳥目千疋
  南無広目天   戌亥膳洗米      南無増長天  丑寅長鞍
  南無八幡大菩薩 木尊丑寅       帯鏡太刀刀弓靭
右はかざりやう也
一ほろをかけたる武者に吉凶あり春夏は手の左へゆがみて
 

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なびく事あらば其軍に討死すべし秋冬は右になびく
事あらば討死すべしほろの両手へたいやうして前
へかゝりをしつゝむ事必軍に勝不計高名あり
一君にうらみありて討死せんとおもふ時は母衣を胎より皆
とり出して日天・月天の緒を小手にぬき出して帝釈
の緒をよろひのほろつきに付ける也大将手すかた是をな
ほし望みをとげさせて手をなほすべし口伝
 
  第六 決拾の事
 夫指懸と云は天照太神未此国大海にてありし時国土の
龍神を退治の時封神のはなつ流矢に太神二の中指を
射きられ給時帝釈天謀を以ゆがけをさゝせ給ひて御代
 
を切とりたまふによつて指の数は十家真空の名緒の
長さ主の指にて二尺八寸也諸の兵具を作軍に
士卒を下知するにも決拾をさす事此吉例也緒はゞ
主の指にて一寸八分さす時は左よりさしぬく時は右より
ぬく緒のとめやう左陽・右陰なるべし十空曰壇・戒・忍・
進・前・恵・方・願・力・智也
 
(図)翻刻略
 
一軍には幕・決拾・鞭この三つの物を大秘とする也
 

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一夜陰の緒をば一重まき大指の通りにてむすび引返し又
いつものごとく順に二重廻し前にて大指の通りに留陽は
手の甲にて留是を昼夜の留と申す也
 
  第七鞭の事 付り団の事
 夫鞭は宝剣を表忝も此剣の徳は敵に向て振ば万里
を隔とも其敵を殺害す或時天照太神は魔王と
戦の時魔王悪風を吹かけ火煙を出して八百万の神
達戦がたくおぼしめすに此の剣を振給へば向はせたまふ方の
草木切れたふれ火煙は魔王方にもえかゝるとかや故
に草薙剣と云と也されば武家是を兵枝と名軍に
用て強敵を退治し味方に来らんとする災難をはらひ
 
まことに自在の徳ありと云々
一鞭の木は勝木なるべし又熊柳も作べし
一竹の根の鞭軍にきらふ也
一長くは続短くは切と云事 陽の鞭先剣也短くは切れとは
陰の鞭先丸し
 
 (鞭の図)翻刻略
 

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一己が尺と云事 我左の手に脇の下よりくらべてあまる所を
一尺横手に切是一尺横手の鞭也又足のうらとうらとを
合ひざをわりくらべてあまる所を六寸横手に切是を六寸
横手と云陰陽也
 
 (団之図)翻刻略
 
一団作様は牛の皮にてねり物にする也柄は勝木にて葉を
両方よりはさみ梵字を中に入て皮の上何もぬる也又伝云
 
片面には十二星をあらはし片面には八卦をあらはし自由
に見之吉凶をしる也まりしきんりん此ぼんじをあらはし秘術文唱
此文は気の巻にあらはする疵は不負得勝利
文也君のため軍勢のため我ためと三返満也
一大将にむかふ時は主人の弓手になし左の足をふみうけ団
のさき我うしろにとりかえへし御用過は左に帰也等配の
人にも左かへるべし団をば持かへず大将の御前にては左に
持常の人には其まゝ也去ながらうちはのさきをばむけざる也
一士卒を出すには左より右へ勝なり
一士卒をあぐる時は右より左へ勝也
一敵をば右にて其まゝうちはのさきを以さしきるやうに
 

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すべし是敵を調伏の心得也
一味方をば左へとりうつしてまねくべし
一まりしきんりん 此のぼんじを書事はときの声をあぐる時甲のうえに
て右より左へまはし敵に向つて
 
 唵キブレイ/\イレハタヤソワカと三返唱へてときを
                 つくる是又秘伝也
 
  第八扇の事
 夫扇は十善を表骨十骨也長さ一尺二寸八分たゝみて
の広さ八分要は黒革にてよく結べしかなめのかわさきは
剣鋒なるべしおもては金にて赤く白を出すべし大きさ一寸八
分うらをくれないにして水にむかふ則龍と云字を書
木に向は金を書金に向は丙の字を書べし
 
  第九再拝の事
 夫再拝は伊弉諾・伊弉冉尊よりはじまり悪魔退散し
災難をはらひ吉事をまねくの貴妙也されば於神前用
之於武家宝器とする也誠に怨敵を退散し味方をいさむる徳あり
一串勝木にて作長さ二尺八寸是を陽の再拝と云是には藤
の数九つつかふ也是九曜を表又七つつかふ事あり是は七
星のかたち也
一串三尺六寸陰の再拝と云是には藤十六つかふ也十六善神を表
一串一尺二寸是は十二天を表くしをひらめにして横五分は五
行也藤をつかはずして黒ぬる也是は腰指の旄と云々
一封事 秘伝御付の穴より上には九字勝と云字をこむ
 

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る再拝のまきめには摩利支天の梵字を書串には
不動の梵字を書籠也
一旄・再拝・加持の事
ざい・再拝は怨敵退散の法柄は一時金輪の法を加持すべし
一再拝きりゃうの事 
紙は引合金紙也腰指は先手・中備へ私の旄也是は銀紙
たるべし薄を置九十八枚也九万八千の軍を表也但一枚
を其まゝ九十八枚重てきればおもきにより一枚を二つに
切ての数也是相伝也ざいのはゞ九分七分まぜて也玉女
の方にむかひきるべし
 
(図)翻刻略
 

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旄・再拝ふりやうは同前也味方をいさませて懸と云時は
左より上へ五度味方をまねくには上より下へ七度味
方をあぐる時は左より右に三度也よく/\心得べし
一大将は目より高くふり先手・中備への旄は馬の三寸より
ふるべし是古法也云合はせ吉例にまかせ家によるべきい
づれもざいのさきさがらぬやうにすべし
  第十貝の事
 夫貝は役の行者よりはじめ給行者此貝を以九字・十
字を吹悪魔を退散して大峯の道をもとめ権現
の神前にをひて種々秘法ををこなひ国土安全・仏法
繁昌・神道さかんの代となしたまふとかや然によつて武
 
家於戦場用之味方の軍勢をあつめ切亡強敵と云々
一貝のまがりより下に十二符あるを用る事本意也符な
きは調の符を用左符は不之口伝又まがりを通したる
符を勝符と云尤も上吉也
(下に貝の図)
一貝のまがりの方には九字と勝       と云字を
書べし口二寸にはあ・うんの二       字五大
尊の梵字をかくべし            しかるに
まがりをば一字              金輪
の法口をば
怨敵退散の法にて
加持あるべし緒を青・黄・赤・白・黒の五つ
 

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を以うちまぜ八つうちなるべし梵字は勝木にて書べし
一貝吹様の事 時を定て吹く事はあるひは陣押し出馬の
用のため也たとへば一番貝に食をくふべし二番に身
をこしらへ三番に先手より次第にうち出る也此時は
一度に九つ宛ふく三度には三九二十七也時は合図次第
一出陣門出の貝は初め一つはゆりも一つ次五つはゆりも五つ次三つ
はゆりも三つおさめ次七つはゆりも七つ次(五)つはゆりも五つ次
三つはゆりも三つおさめつはゆりなきとしるべし
オン・ア・二・キヤ・マ・リ・シ・エイ・ソワ・カと吹く心得也
一小屋番衆へ心付けのために吹く貝をば用心員と云四つを
つゞけて二つ又三つ是は子・丑・寅の三刻に八度如此ふくべし
 
是九曜の心得也此時はゆりあるべからず
一軍をはじめよと備をかたむる時ふく貝をふれ貝と云也
五つ宛三度吹く是五大尊の五色を表する心得也
一軍兵を集時の貝は五つづゝ五度ゆりも五つづゝ也合せて二十五
度ゆる也是二十五菩薩を念ずる心得也
一夜軍に軍勢をすすむるにはゆりを七つづゝ吹く也十返
吹くべし是破軍の剣を敵にむかはするの心得十度は
七曜を十返となふの心得也又昼のかけ貝はゆり五
三七とふくべしたいこんがう過去七仏を表するの心得也
一夜うち入たるを味方にしらするには八つづゝ八度ふくべし
是八幡大菩薩・八大龍王を表する心得也
 

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一敵の負色を見て吹く時は四つ宛四度ゆりも四つづゝ吹次に
六つづゝ二度ゆりなしに吹く是もゆりなしに吹く此
時は拍子を合きほひを取闇のぬけざるやうにくり返
し〱吹て敵を退散すべし又味方まぼこりのふりみ
てはゆりなしに三度三つづゝ吹く也又味方あくる時ははじめ五
つ次に七つ次に五つ次に三つ次に七つ次に五ついづれもゆ
りなし此時は常よりも心をしづめ貝色あしくなら
ざるやうに拍子ほどを合人数そゝらぬやうにふくべし
一敵退治の時の貝初七つうりも七つづゝ次に五つゆりも
五つ次に三つゆりも三つ也此時はいかにもうちあげにほひ
をあらせていつよりもいき長にふくべし
 
一帰陣の貝ははじめ五つはゆりも五つ次にゆりなしに五つ
次に七つゆりも七つ次に三つゆりも三つ吹べし此時は猶以
音高くにほやかに吹但退治して帰陣には音高ひく
陣にはにほやかに威勢をつけて吹是習也
一物見約束の貝は三つづゝゆりて三つづゝふく也旗本の陣
にも右のごとく貝をあはする也是は敵来つげよなどや
くそくしてあるひは高所にあげをき又は其方はいづかた
よりまわれいづれの所へ来る時貝を吹べしとある時の事也
又あはする貝とは是まで来ると吹を心得たりと吹て
こたへるの事也此時はこたへる貝も同前也
 右貝はいづれもつまらずきれずはじめの音をしづかに
 

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中高音に終は猶以高音にふつきりなくしづかに
治る也是初・中・後の心得也双調・黄鐘・一越・
平調・盤渉此五を以四季土用相応の習口伝あり
 
  第十一太鼓の事
 夫太鼓は帝釈・修羅と戦ひの時須弥にのぼりて是を
うつ時修羅悉退散し帝釈のけんぞく戦のつかれを
やすめ又進時に至是をならして修羅を退治し給と
かやされば仏法にも用之武家にも是をならして以敵を
うつ也と云々
一太鼓の筒のうち封加持の事 筒のうちに南無
九万八千の軍神二千八百の軍天来臨影向強敵魂出滅
 
亡梵字(ソワカ)南無二十八宿太平梵字(ソワカ)此文字を太鼓の陽の
方へ字がしらをして書又南無九万八千の軍神二千八百
の軍天哀愍納受喼々如律令(梵字)敵消滅悪魔降伏
南無三十六童子梵字(ソワカ)此梵字を書也是陰の方へ字
がしらすべき也右いづれも勝木を筆にして
帋に書ぬるでのうるひにておす也扨だんの上に
置怨敵退散の法ををこなひ加持すべし
一太鼓は天地をかたどる或は日月陰陽也然るによつてびやう
の数二十八にて皮をしむる方は天の二十八宿陽として是は
寅の刻より未の刻までは此の方を用てうつ也一方はびやう
数三十六地の三十六禽陰として申の刻より丑のこく
 

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までは此方を打と也又ゑの日・陽の方を用との日・陰の方を用也
一太鼓寸法は筒の長さ一尺二寸十二天を表指渡し九
寸は九曜を表する也はりかけの皮一寸六分は十六善
神を表するりうとうのつぼの間五寸五智五仏を
表する筒とりうとうの間一寸二分十二神也皮は日月
也よく/\心得給
ふべし
 
(太鼓の図)翻刻略
 
 

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一太鼓うちやうの事 軍勢をすゝめ敵を追まくる時は
三つ拍子九度づゝ三度四度にはやめてかけどきを
作かけどきの数はゑい〱わうと二度也勝どきは
ゑい〱わうと三度つくる是のときのこゑの作法也扨敵
を追まくる時はかねの拍子と合せてしきりたいことて
いかにもはやめて三拍子也又みかたをあぐる時は五つ宛
九度うつ也人数のそゝらぬやうに心得あるべし
 
  第十二鉢巻の事
 一一重鉢巻をば背まで花結にして端終廻より少しみじ
かく引ちがへむすぶほどにする也地はあやたるべし
一半はちまきの事 くれないのきぬを以 一布を五重に折
 
縛也十文字の方を端をくけ地には蛸縫をこまかにし
て口緒扇の尺にて六長二分に作えし但其人のかしらに
よる本首巻は一丈三分也然ども其人のこのみ次第に作べし
 
 第十三袖しるしの事付り笠符事
一袖しるしの事 乳の真中より前に付也絹を二に折中を
たち二袖長に作べし何も折てぬひ裾を表になすべし
通例にはきぬを四に折てたつべし長さは袖長札二枚た
けにする口伝
一笠符は絹一幅にて裾縫を表になすべし黒革を細くたち
こしらへてむすぶべし手の間三寸八分竿は竹にても鉄にても可
一中のかさしるしの事 きぬ二はゞを以裾ぬひをすべし上下に
 

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くゝりある也上にはほそ竹を入下のくゝりにはほそくみを入風
前へふきまはさぬやうにすべしくみのはしに甲のふきかへし
の内へ付る緒之ありそれに付べし惣笠しるしには家の紋
あり長さ一尺三寸ひろさ九寸錦の時は金銀精好の時は
黒字用是又主君の好次第に長さあるべし云々口伝
 
 第十四武者出で立の名の事
一馬上三つ道具と云は弓・傘・文箱なり
一六具しめてとは母衣・小旗・箙・扇・鞭・決拾也
一七事とらのゆとは鋒・楯・甲・鎧・弓・矢・刀なり
一戦場にてはたゞ作意を以専一とする也ほろかさしるしな
ども船なんじよにてはそのしるし計にて是を用べからず
 
風あらき時などいづれもつかへある道具用捨あるべし道
具のこしらへやうなども人よく見知の心得あるべき事也
一鐘・太鼓・旄など作法よく覚えて拍子を合する事第一也
太鼓うつ人貝をもしらずは成まじき也いづれも/\役者は
軍法の道具品々の古法をしらずんばあるべからざるなり
一法をすてゝ約を用と云事 法とは作法の事たとへば太鼓は
いくつうつ物也貝はいくつふく旄は何方より廻はかゝる物也引
物也とは古しへの作法尤役者は心得あるべし軍勢皆々には
存まじき也されば雑兵人足までもしりよきやうに約束
をしてたとへばざい高く見えばかゝれひきくふらばひけ太
鼓早くうたばかゝれしづかならばひけ拍子にあわせよなど
 

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あるべし法をしるは役者の約束殊に貝・太鼓拍子ちがひ
てあしき也旄とる人うちはもつ人は猶以諸一味するの
心得大事也されば法をすてゝ約を用よと云也秘伝
 
 右武道具の沙汰家々によつて可相違たゞ主
 君の好次第又姓に合て作べし是はおこりの
 子細浅深の沙汰もなく又可作秘術もなし
 自由の披見のために出納作法抜書令相伝
 
侍用集巻五終