宗国史

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  可為士者常之覚悟之事
一寝屋を出るより其日を死番と可得心かやう
 に覚悟極るゆへに物に動する事なし
 是可為本意
一常々諸事に心を附嗜深き人ハ自然
 の時手にあへはされはこそ心がけ深き故
 士の本意をとけたるとのさたにあふ
 もし不仕合にて手にあはさる時も
 常に心がけ深き人なれとも不仕合是非

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 なしと取さたなり善悪の時外聞をすゝ
 く是徳にあらすや
一常に物毎由断に覚たる人は自然の時手
 にあひたるとも犬ののみたるへしといふ
 又手にあハさる時ハ常に心かけなき人なれ
 は尤嘲をうくる是面目なき事なり
一出陣の時敗軍すると覚悟尤の事なり
 勝軍の時ハ不入若負軍の時うろたへ
 間敷ためなり
一目に立過る具足万武道具心得あり
一上帯ハ布但前にて結ふへし同下帯布仕立
 やう有之
一刀脇指もの前にてすん袋可掛
一二重腹帯の事
一大きなる馬あしく
一陣道具柿あしゝ紺可然色々ありといへ共
 書付るにおよはす
   家来常々召仕様之事

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一第一情をかけ諸事みのかし候事肝要也
 大それたる事有之時は其身の因果
 たるへし理非を以可申付然れ共助ても不苦
 品あらは其儀にもとらし可然切ル手遅
 かれと申伝たり
一家人に禄をとらセたる分にてハ思ひつかす
 奉公する上下禄ハ相応に取へし是大
 体也とかく情にて召仕へは徳多し
 一言にて命を奉る是情なり禄多く
 とらするとも命をすつるほとの事ハ有まし
 きか深く情をかけむとおもふ主人ハ用にも
 可立歟第一本意たるへし
一人のさゝえ不可聞又横目ハわさハひの
 もとひ也たとへさゝへるもの有時ハさゝ
 ゆる人とさゝへらるゝ人と常の挨拶を
 聞へし惣而何事も不聞様に常に仕置
 の分別無他
一召仕ものに能者あしき者有間敷也

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 其人々の得たる所を見立それ/\に召
 仕へは人に屑なきなり得ぬ事を申付
 るによりて埓あかす結句腹を立なり是
 主人の目かあかさる故なり
一家来たり共異見申者あらは委聞へし
 世間の取沙汰を聞言と心得へし能聞
 届手前にて了簡して至極の所は
 用ひまたそはつら成所は捨へし必
 主人により内の者の分として主人江
 異見立する推参といひ機嫌あしき是天
 下一の悪人たるなり家頼(ママ)主の為にならぬ
 者ハ陰々にて指をさし他の家来に
 語り伝へ名を立ル者数人なり我も家来
 も非本意常に情深き主人ハ家来名を
 不立他の家来主人の作法尋れとも不語
 主人の心持肝要の事なり
一士か士を仕ふ是時の仕合なり常々言葉
 きたなくいふへからす無成敗すへからす

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 天道のかれかたし
一惣別人間たる者上下共心正敷して律義
 にして一言半句もうそを不可言人をうた
 かふへからす但時のはなし抔ハ偽ましりて
 も苦しからさるか是も人の害に成事
 いふへからす
一不断人の噂いふへからす人の善事ハ取上悪は
 捨へし人の悔も大形ハいふへからす深くいへハ
 悪口かましく可成
一主人より我にあたることく又其下々へもうつ
 すへし忝事あらは其ことくうつすへし
 無理なる事あらハ下々も迷惑に可存と
 心得尤の事也古人のいはく我身つめ
 つて人の痛さを知れとなり
一家来夫々に情をかけ目を明き召仕事
 主人の利口にあらすや主人情深きに
 下人邪の奉公ふりあらハ天罰のかれす
 たちまち悪出来て命を失ふ事眼

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 前なり
一主人たる者ハ不断内の気をかね諸事恥
 敷と思ハヽ悪事もなく腹も立へからす
 まして一人二人召仕者ハ猶以心得有へし
一主人目の明さるは必禍多かるへし奉公よく
 する者を不見付当座気に人かほ成を
 悦ひ禄をとらせ懇ふりするゆへに能奉
 公人気をかへ暇をとるもの也主人の難に
 あらすや当座気に入かほの者ハまいす
 たるへし
一悪敷主人ハ目にておとし気色しておぢ
 らるゝやうにうハつらにてする人ハおつへからす
 心もおくれ未練たるへし第一の草臥もの也
 善主人ハむさと人をしからす気に苦労
 なくして物いはすともくらひ詰に召仕
 ゆへ下人共由断ならすせつ/\といふ
 主人ハ毎の事のやうに下人覚へ不聞
 入ものなり

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一身に高慢する人ハ先近し
一言葉多くて品すくなしと古人いひ伝り
 誠に眼前なり
一女人若衆へハ深く遠慮第一なり老若共に
 嗜へし脇目より見苦敷ものなり
   主君江奉公之心持之事
一不断御用ニ逹へき覚悟心かけ由断不可有事
一主人之御前に出る共其時に応したる御挨
 拶見合肝要なり主人御顔抔悪敷ハもし
 我身に誤りや有と身をかえり見て慎へし
 主人余の人に機嫌悪敷事も有へし夫を
 我身の上に引請ふせうなるつらをする事
 ひが事なり常々主人目見せよく情ら
 しくは猶以身の慎肝要なり能キ次には
 悪敷事有へしと心得尤なりかやうに
 嗜ハ一代主人の気に不違なり
一古人ノ曰先忠の忠ハ不忠当忠の忠ハ本忠
 なり今日も新参今日も新参如斯二六

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 時中心に慎ハ悪事不可出也
一主人江奉公之事身をへり下り慾を捨て
 御為第一ニ可致人により心持あるへし
   家老の心持之事
一身の慾に離れ媱乱を止メ気隨を去リ我
 仕度事を止メいやなる事を可用主人之
 仕置を守り末つかたの者へ我定木を当て
 おとなしく心を持へし人ののだち候様に
 仕り人のわさハひおこる共異見をくわへ
 あつかふ事尤也主人の気に違ひたる人
 ありとも下ニ而理非を正し無如在において
 は身に咎をうけても人そこねざるやうに
 心得へし
一依怙贔屓不可有親兄弟一門成共善はよき
 にし悪敷ハあしきにしらする事第一の
 本意なりかならす主人ハ下々迄常に近付
 されハこまか成事ハ不知家老の役にあら
 すや十か七ツ八ツハ家老の口を真にする事

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 多し然にゑこひいき有ハくらやミたるへし
 第一我身の行ひをよくすれハ人も能手
 に付なり我あり度儘に有之ハ一ツとして
 不可調主人も頓而見かきるへし
一朝寝すへからす家老朝寝好むならは其
 下々共に朝の役に立間鋪なり
一身に応せざるよせいひが事なり但武具
 刀脇指鑓着類一通りハ可嗜其外ハ身代
 に応すへし
一世間を勤る事能程可然切々他所へ出ハ主人江
 之非儀たるへし主人御用の時度々留主
 と言事不可然主人も度かさなれハ心可替
 若不慮の事出来る時用ニ不立ハ是第一之
 不忠節也必天理に背ゆへ悪事出来す其
 てんに不合也可慎
一人の事悪敷口をきく出入之者ハ必心をゆる
 すへからす又先江行其家の事を可語当座
 の間ニ合する物也と心得心をゆるすまし

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 き事
一家老より下の侍も主人江奉公猶以心かけ第二
 には家老の心をはかり仕置を耳に聞留
 家老の気に入様にすへし是主人江之
 式法なりたとへ気に入とてもうそをつき
 まひすらしき事をいひ軽薄をつくし
 気に入へからす本意にあらす正道にて
 気に入は本意なりたとへハ能者なり共
 家老と仲悪敷ハ家に堪忍成へからす
一新参の者ハ古参の衆によく家の作法を尋
 其ことく可相守家により作法替事も有へし
 然レ共善道ハ何方も同意なり身の行ひ
 正しくしてたゝずミ不成時は悪敷家と
 心得立去へし長居ハ悪事のもとゐなり
一古参の者主人をたつとふハ新参の者を引
 立不知事ハいひ教へ家の作法を守らせ
 年をかさぬる様にすへし如何ニ古参たり
 共我儘を朝暮仕新参の者に異見申

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 とも聞入間敷也新参の者悪事多クは
 古参の者悪人たりと思ふへし古参の者
 作法第一たるへし家老につゝき不断よく
 可嗜
一数年昼夜奉公をつくしても気も不附
 主人ならは譜代なり共𨻶を可取うつら
 /\と暮し候事詮なし情深く
 理非正しくハ肩をすそにむすひても
 譜代の主人といひ情に思ひかへとゞまるへし
一よき主人善キ家老よき侍といふハ十ニ一ツ二ツ
 三ツ悪敷ハよきなり悪きをゆるすとてひ
 け有人か一心の不叶か口をたゝき人の中言
 或は手の悪敷ぬす人同前の事たらは
 以の外可成免しても不苦ハ立居の不調法物
 云こと葉のひくき事なと云ハ苦しかるまし
 きか此外ハ不可免
一媱乱なる人ハ風上にも不可置事
一親たる人に不孝行ハ人外也如何行末あし

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 かるへし主親ハ深くうやまふべし
一大身小身侍によらす理非を改へし理に二ツハ
 有へからす
一人間に生れ臆病なる者ハ有間敷也常に
 心かけなく無嗜なる大たるへし子細は詰
 腹を不切者ハなし然ハ臆病なる人ハかい
 もく無嗜ゆへ成へし用心ハ常に嗜深く
 先祖の恥をかなしみ命をおしまさる事
 是可為本意
一我しらさる諸芸ハ嫌ふ者多し我得たる
 芸能ハもてはやすなり無理なる沙汰也面々
 の数寄/\たるへし
一慇懃にするハ徳意多し慮外する人ハ損多
 かるへし
一大名大身小身侍下々迄諸事ニ付早しわるし
 大事なく遅しわるし猶わるし心得へし
一惣而人の落目を救ふ事尤なり
一我が贔屓成人言イ事する時善悪のひはん

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 に及ふ時ひいきなる人を大ニほめあい手を悪
 敷不可申あい手ひけをとりたると思ひ打はた
 す也ひいき成人を思ハヽ両方難も不付様ニて
 言あひてきつくひけ取たらハ不及是非
 事也
一少事ハ大事大事ハ少事と心得へし大事
 の時ハ一門知音中打寄談合するにより
 大事には不成なり少事ハ大事と言は
一言之儀にて打はたす也然ルゆへ少事ハ
 大事と可慎
一かりそめに寄合共座敷の衆の縁者親類を
 思ひ出し咄にも気を付害にならざる事
 のミ可咄
一窮屈なる所を好ミ楽成所を嫌ふべし
一我役目ハ武芸也作法勤ハ身の楽をも可致
 楽とても人の嘲事ハ可慎
一傍輩衆おとつるゝ時ハ何様の事あり共
 逢べきなり心易衆ニおゐてハ急用候間

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 調可申と断急用可達なり
一主人被召候時朝夕給かけ候共箸を置可出何様
 の急成御用もしれず食給仕廻出る事
 無忠節たるべし
一毎朝早天に起キ先髪を結ひ食を早く
 給可申事奉公人ハ何様之事にはしり
 出る事も有へし其嗜也
一夏冬共に不断帯堅くすべし急にはしる
 時尻をつまげ刀脇指うごかさる程に常ニ
 帯堅くむすび付べし常に帯ゆるく尻
 げたに掛ケ仕付れハ急にはしる時すね
 腹痛ミ出る先にて役に不立物也
一急に走り出る時三尺手拭はなすべからす大小
 指様有之刀をぬく共鞘落さる様に心得
 有事なり
一家来手討にするハひが事也理を以云付仕廻
 ふ事本意なり又一僕仕ふ者ハ格別なり
 能分別して仕そこなハさる様肝要なり

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一大酒すべからす無是非座敷にて大酒いたす
 共深く諸事に可慎人のうへにても
 酔の紛に言事ありとも互につのら
 さる内に挨拶して退出すべし
一惣別傍輩つき合の時物事を大耳に
 可聞軽口たてあしくあやまり多かるべし
一侍たる者ハ刀脇指可嗜拵ハ見苦しくとも
 ねたば成共よくあハせ可指刃などひけ
 さびくさりたる大小は其人の心見かぎる
 ものなり
一冬なり共薄着を好へし厚着を好めは
 くせになり俄にうす着の時かじける物也
 不断火にあたりつくへからす但病人
 老人ハ格別なり
一火事抔に出る共心得有べし火事に計心を
 付度々行当る儀もあり子細ハ我家に火を掛
 切出る事有左様の時思ひ不寄手負死人有之
 能心を可附

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一旅立に船渡の乗合馬次にて心を可付泊/\
 にて火事抔の時出る道筋可見及なり又不
 用心なる宿と思はゝ可心掛有明置へし
一不断食物ゑよう好ミすべからすくせに成也
 急成時節難成常に善悪を不嫌麤菜給
 つくへし急成時の嗜なり
一不断少の事に薬好ミ幷持薬気附の類何も
 不可好
一人に少の物にても必無心不可申心根知るなり
 可慎
一身代恰好に応し不入物も可嗜不及書付也
一旅にて一里二里遠く共川を越へし冬抔川
 を前に不可置朝川を越せば下々一日かじ
 ける物也朝も一里二里夜をこめて可立泊りへ
 早く可着との事也下々くつろぐ物なり
一泊りを立時一人跡に残し座敷其外を見
 廻り可出かならす道具わするゝ事あり
一急旅の時ハ自身もみだき銭を小さいふニ弐

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 三百も入腰に可付下々不附時喰物又ハ馬次ニ
 可入馬を替時馬牽来ル馬士の前にて最前
 の馬士に早く精出し候とて礼き銭を能程
 酒手に致し候へとて遣すへし替りたる馬士
 精を出す物なりかやうの儀手立に成へし
一夜中にありく時挑灯我より先へ持すへからす
 先キ見へぬなり我と同しことく並ひ持す
 べし先キよく見ゆるものなり
一不用心成所と聞時ハ夜寝る時宵に寝たる
 所をかへ刀脇指の下緒と下緒を結合せ枕の
 下にゆひ目を置大小両脇にわけて置急成
 時大か小か取上れハ二腰共に取道理也尤丸寝
 之事
一不用心なる道中を通る時錐を拵可持色々
 徳多しきりの拵やう心持有なり
一追駆者の時走りながら刀ぬけざる物なり口
 伝三尺迄は不立留はしりながらぬくむさと
 人に不可伝

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一刀の下緒長きを可附仮初にも短を不可附
一仕者の時前に言葉不可懸刀打付る時一度に
 詞可掛
一旅道具かりそめの物にても可成程手軽くちい
 さき様に可致泊にて道具取ちらし不可置
 一所ニかた付可置
一敗軍の時まめ板壱歩腹中へ呑込可然強盗に
 はがれたり共先にて大便に下ル物也金のミ
 やう有口伝
一手負血留なき時ハ我小便を仕かけべし
一常々可心得男ハおとこの遣ひ物也女ハおなこの遣
 物也かそりめにも女の指出幷女の申事不可
 聞入悪事の基たるへし
一かりそめに寝ころひ候ても脇指はなすへからす
 むさと不可置
一不断善キ人としたしむへし悪き人なりとも
 そらすへからす心持可有
   高虎公御詠歌

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 友は只直なる人をむつましミいつハりなきを
 道と知へし
 此御歌に道春老脇坂淡路殿佐久間大膳殿
 佐久間信濃殿延寿院各和韻被成候
一我か人によくするに人悪敷事ハ有まじ古人
 歌に
 我よきに人のあしきかあらハこそ人のあしきハ我か
 あしきなり
 如此常々心得肝要なり又歌に
 山城の狛の渡りの瓜作りとなりかくなりなる
 はこゝろか
 兎角我心次第に能成り度ハ心なり悪敷成
 度も心なり可慎
一学文すき物の本集る共不学人ハいらざる物
 の本ニ金銀をついやす道理なり諺ニ論語
 読の論語読ずと嘲なり大形見及に心ハ
 邪にて景気計の学者して見せ顔なる
 人多し

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一物を知くさしたる人物しり顔にてそばつら成
 事を語る脇より聞ケハ笑止なり物を不知人
 の咄はるかまし也
一人の害に成噺ハ不及申害にならぬ噺にても
 咄聞る人により咄ても不苦か脇にてむさと
 不可咄人の偽我偽と成事多し心有人ハ
 知たる事も不知やうにもてなし嗜む是以
 はつかしき心根成へし
一無理を云ゼうのこハき人気の乱成人酒に
 酔ふ人には出合へからす但出合ハて不叶事
 あらハ詞やはらかにあらそふ事なかれ能程に
 して立去ルヘし
一何事によらす理つよに物事いふ間敷なり
 理のかうしたるは非の一倍と云たとへハ人の
 あつかふ時よき時分を不聞入ハあつかふ
 人も手をうしなひ立腹する也合点すべき
 所をこかし手持あらく石車に乗たる
 ことくにて止かたし分別肝要なり

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一朝夕を給る時腹を不可立百姓の昼夜作り立
 米給人江奉る我命を続くる米に向ひ怒る
 人を天道みのがし有間敷深く可慎
一我女房ニ無情あたる者あり大ニ道の違たる事也
 男を頼ミ共に乞食非人をする共附添事
 深き間也夫を不知常々中を悪ふして物事
 打解ざるハ非本意なり不便を加へ中よく
 すべき事なり根本ハ他人の寄合夫婦
 と成事過去よりの約束成べしそこ/\に
 する人は頼母敷なしと嘲可多
一主人江詑言申上ル共主人の機嫌を見及可申上
一応二応ニて免されさる事も可有也いかに家老たり共
 見合重て折を見及可申上一旦にむりやりに申叶
 ハぬと声高に成申事非義なり還て科人ハ脇に
 なり主人立腹して可免者も不免結局誓言を
 御立候か曲事に被成候事度々に及ひ扨家老も
 申掛不首尾にする上ハとて身代をやふり立退事
 もありかた口なる人の仕形成へし

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一家老たる人ハ傍輩の中に能者有て主人の
 重宝ニなる人たり共人の聞前にて取合せ不可申
 必人前の取合せの事ハ心もある主人ハ不聞入子細
 ハ心附の有共取合せ申たる家老の心附に成へし
 主人の心附には難成能家老は潜によき
 者に御心附も可有と可申上心附に逢たる
 人家老に尋れ共不存御心附たる事と感
 し申事可為家老の本意たり
一下として上を計ふ事有間敷と世間にいふ
一通りハ尤なり乍去心もあるよき主人ハ左様にハ
 不思主人のしらぬ事に為に成事多かるへし
 左様の時ハひそかに聞届可申上是以悪敷
 申さは下として上江教るなんどゝ取沙汰
 可有か主人悪敷心得立腹ひが事なり惣
 して主人を下よりあなどる事ハなき物也
 自然にあなどる事あらハ主人のうつけたる
 所を見付あなとるへしよき主人ならハあな
 どり度思ふ共成間敷也兎角あなどらるゝハ

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 主人の覚悟なきよりおこる成へし
一家来の悪敷事を聞共家老を呼ひひそかニ
 異見を加へさせ作法直させ可然何事も
 聞ぬふりにて居る事肝要なりなま心得
 の主人理発だてにて不入吟味すれハ夫々
 の科におこなハされハ不成家のさだちたるべし
 大それたる科の外ハきかぬにしかし
一云事などといふハ外様付合にてハ稀也不断心
 安き内に度々有之互に打とけ過言ぞこ
 ないもあり又慮外もあるべし能可慎
一余り大にたりふそく深く云べからす
一人之芸能又ハ諸道具抔こなすべからす面々
 数寄/\成へし
一盤の上の慰に助言いふべからす能可慎
一かりそめにも誓言立べからす
一女若衆の中立すべからす幷奉公人の口入請ニ不可立
一総而にがざれ深ざれすべからす向の人の心不浮
 時ハ必無挨拶成へし結句返答悪敷とて

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 腹を立る是云事の基成へし
一少の物も人の物ハかるましきなり仮令かり候とも
 追付戻すへし久々留置打忘必失ふ事
 あるへし近頃不念成儀なり
一人に物をかし候とてさい/\取返しに人やる事
 以の外なりかさぬにはおとりたる分別なり
一人の盃さし候時のむましきと云べからす必盃の
 口論数度有事なり人と人の盃口論あらハ差
 出あいを呑挨拶肝要なり
一人の物の本借り候共追付返すへし仮令留置
 とも可入念鼠に喰れ候へば近頃不念成事恥
 辱たるへし
一人の愁ハかなしむへし又よき事ハ悦へし愁も
 かなしまず悦も不悦は不可為本意
一人の心をも不見届頼もしだてすべからす必命の
 禍たるヘし
一仮初にもむさと仕たる人のつれに成へからす人の
 悪事を身に掛る事必可多

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一人のあつかひ事同詑云に掛るましき事なり
 首尾調ハよし不調時ハ結句身のひしに成事
 数度あり是非無了簡頼まるゝ時は大かたに
 云能時分を考へ可立退うか/\と掛り居て及
 難儀事歴然なり
一人より構の奉公人不可置若置掛り構ある時ハ
 早速𨻶出すへし首尾により侘を入帰参
 する事も可有
一他へ奉公人大かたならハ不可構若構ハて不叶
 とも向の一門か知音衆へ談合のことく和かに可頼
 理運に不可言向より構の断あらハ品ニより
 可免つよく構ふ程ならハ我召仕時情をかけ
 堪忍成様にいたしたるかよしならぬ様に
 していよといふハ無理なり其上構事無理
 の上の無理成へし堪忍いたしよき様にして
 情をかけ召仕に無理に立さらバ吟味をとげ
 成敗より外ハ無他
一いか程あしき者共とも其身の立身するに

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 おゐてハ外聞よき様にして𨻶可出侍ハ互事
 なれハ能仕立可遣以来のたりに成事及度々
一侍ハ後生心有へきなり必仏になり度との事に
 あらす心のやハらぎのため成へし
一侍ハ大小によらず我のなき人ハなたの首のおれ
 たるかことし但我を立るとて愚痴なる人理も
 なき事に我を立る是本意にあらす正道に
 て我を立る人可為本意
一人の隠密ニせよといふ事他言有べからす尤主人
 のひそかに御意の趣ゆめ/\もらすへからす
 深く可慎
一人の言事を早合点すべからす殊に人の咄の
 先折へからす
一物さハがしき時可乗馬ハ両の耳へよき程
 にして布の切レ水にても湯にてもひたし
 しほり両耳に押入可乗馬不驚もの也
一大事の聞書ハ文字ふとく可書年寄て
 重宝なり若キ内ハ細字にても読なれ共

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 年よりてハ不見故詮なき事なり
一若き内ハ諸芸何にても習ふへし捨ハ可安
 盗人の仕様をならへはぬすまれぬ用心の
 為に成へし
一諸芸習ふとも一旦にすべからず自然に不絶
 すへし一度ハ仕覚へし必芸珍敷思ひ
一たんに習ふ共捨る事可早いつも不絶す
 れバ上手に成もとひ可成
一物事急成ハ後悔多しねれたる思案
 尤の事後悔有へからす
一人をだます事なかれ真の時無承引仮初
 のされ事成とも大事の節も筈にあふ間敷也
 是深く可慎
一惣而人をあなどるべからす一寸の虫にも五分
 の魂有といふいかやうの知者をもしらず
 ふかくを取事多し第一人を大小ニよらす
 見下すへからす
一徳意計を好むもあた損する道も可有

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 むさと損を好むハうつけ成へし徳する
 道あらハ徳にましたる事あらしさあれ
 ハとてしハき計にて世は不立損すへき
 道にて損をいとふへからす折品によるべし
一常に身不省を堪忍すへしされ共物による
 へし一篇に心得てもあしかるべし
一人よりの異見ハ悦て可聞よく思ハねハ不可言
 我か人に異見を言心さし可成かまはさる人にハ
 異見言べからすさあれハ深く敬ひ用る事
 可為本意異見不用ハ二度いふへからさる
 ものなり
一人に物を言共繰返し/\くと/\いふへからす
 聞にくきものなり
一人前の咄に我手前をならぬとて必悔事いふ
 へからすたりに不可成結句嘲に逢事多
 かるへし其身のふかひセうハ不云人の知たる
 様に聞にくし心ある人ハ人より悔とも能程ニ
 返答してよき咄に可直

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一人の手前の不成を余り悔へからす深く悔程の
 中ならハ一廉合力をして可悔口にての悔ハ
 役に不立結句手前不成人の不戒なると名を
 立ぬ計なれハ害を付るに似たり
一人に余り悪人ハなきもの也かゐもく懸(ママ)らざる
 人と云人も稀成へし人には添て見よ馬
 には乗て見よと云伝へたり
一盗人に逢共大方に吟味いたすへし結句由断
 者と嘲を請る事有へし盗人知れたり共
 せむへからす子細ハ若人の家来を同類に指事
 あり大かたにして成敗可然人の家来を同類
 といハせ付届いらさる事なり兎角盗まれ物
 捨ると覚悟して強く吟味すへからす慾に
 離るへし
一屋焼人殺徒党を立る歟公儀に対しだひ
 それたる科におゐてハ強く責メ同類を言せ
 可然訴ねハならぬ事なり
一死人か不吉成事江見舞共人遣す共少おそきハ

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 不苦可聞合必早立て不首尾成事度々に及ふ
 心得へし
一可歓事は早見舞ても人を遣ても可然人の
 うへを悦により後悔有へからす
一惣別いや成事を可好必いや成事ハ能事多し
 すきたる事ハ棄へし悪敷事のミなり乍
 去諸芸抔ハ格別なり嫌ふハ芸の外なり
一武士と生れ武芸を不嗜うか/\と日を暮す
 事ひが事なり武芸を能勤てハ身の行も
 よかるべきかたとへハ出家町人の武芸を好む
 事ひが事なり出家ハ経念仏をやめ町人ハ
 商売をやめ候事非本意武士か経念仏
 商売の事もてあつかふもひが事なり心に
 物なき人の作法成へし
一身深くかざり薫ひふん/\とするハくせもの成
 へし女若衆ハ格別なり惣而男たる人は
 さのミかもふへからす人によく見られ思ハ
 れんとするハ心根いたつらのもとひ成へし

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一仮初にも人に物毎のかふばり不可成可慎
一人と申合する事を出しぬくへからす自然出し
 ぬきても不苦事ハ一戦の砌か取籠者か追かけ
 者之時ハゆるしも可有其外ハ可慎
一我先祖の功を云女房の理発刀脇指の切の威言
 又ハ何にても安く求め貴く存したるいげん
 云へからす聞にくき物也身の自慢より発る
 事なるへし
一千石より上の侍ハ自身の働稀成へし内の
 者に情をかけ能者あまた持ハ用に可立第一主人江
 の御奉公成へし
一小身成人ハ可成程諸芸を習ひ何の道にても
 御用に可立と覚悟尤の事自身のはたらき
 可為眼前
一我内にてハ如何様の衣類も不苦出仕抔の時ハ能物
 を可着世話にけはれを知らぬ侍ハ必出仕に恥
 をかくと云
一人の脱て置たる衣類むさと不可見ぶしつけ

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 たるへし
一物やぶりすべからす必思ひ当る事度々に及ぶ
 可慎
一侍の不断可嗜は武芸多しといへ共第一兵法
 たるべし不断大小脇に絶る事なしいらぬ
 様にても日ニ幾度も可入ハ刀脇指たるべし然る
 上ハ能稽古尤の事又曰兵法不知とても
 用に立もの有も云無理成へきか用人の兵法
 達したる時ハ一入たるへし昼夜心にかけ
 嗜へし
一群集にてせり合時脇指苦労に成事あり左様
 の時ハ前へ廻し竪に可指又右の脇に刀のことく
 も可指かせに不成となり
一主人の御前に人多き時ハ立去朝夕をも給自用
 をも達し人すくなき時ハ罷出可相詰人の
 退屈する時ハ猶以精を出し可詰是私の理
 発なるへし奉公に由断有間敷との嗜
 成へし

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一大事の仕者の時ハ壱尺に少余るはミ出し
 鍔の脇指にて突べし刃を上にして突く
 るべし鍔の無ハのりにてすべる事あり但柄ハ
 巻たる可然必刃を下へすべからすはやき者ハお
 さゆる事あり必切ル事ハ折によるべし大事
 の仕者ハ突につきそこなひハなし切には
 切そこなひ多かるべし
一大小の柄皮より糸巻よきといふ人あり皮は
 のりかゝりすへるといふ糸巻ハすべらすといふ
 何れ悪敷といひがたし兎角柄ハいづれにても
 古くあかしミたるハ血かゝりすべらんと思ハるゝ也
 昔ハ皮柄計なれ共数度の用ニ立来る然上は
 皮柄すべるともきハまるべからすとなり
一片手うちにする脇指裏の目貫はるか下げて
 可巻手の内一はいに当るゆへ手廻るへからす目貫
 上り過たるハ手のうちすくゆへまハる物なり
一大小の柄の長き短きハ面々の数寄/\可成
 然共刀ハ両手を掛柄頭左の手すり払可然

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 脇指ハ猶以短き可然自然の時ぬく時も鍔
 ぎりならでハにぎらすさあれハ長くても
 不入事か第一馬の乗下りに鞍の前輪にかまひ
 悪し惣而脇指ハ長短共に片手討の物なれハ
 長柄好むべからす色々子細有事なり
一大小共に目釘ハ性の能き竹可然自然ハ蘇方(スワウ)の
 木も可然余りふときハ不可好付り柄ハほうの木
 然るべし昔より度々用に立来リ唯今に
 ほうの木の柄用るこしやくにて樫の木
 又ハ柚の木抔にてするも有昔も吟味有柄ハ
 ほうの木用ひ来る上ハ外の木ハ不可好柄の
 内くつろきたるハ切レおとると言伝たり可嫌
一仮初に刀持出る共左の手に持たるよりハ右の
 手に持たるに徳多し口伝
一刀の少ゆがみたるハ手洗に奇麗なる水を入刀
 の柄に縄を付切先を下にしさかさまに釣
 水鏡を見すれハ必直る物なり
一何時も手に逢べきと思ふ時ハ刀の下緒の

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 むすひめより下をニツに分ケ両方江取帯に
 むすぶへし鞘を落さぬなり又鞘前へ廻
 らぬもの也度々切合時鞘前へまハり馬乗
 に鞘へ乗りたをるゝ事度々に及ふなり
一仮初に寝ころぶとも脇指置やう心持あり
 たとへハ右を下に寝る時ハ身のなりに柄を
 我面の方江して可置又左を下にして
 寝る時ハ柄足の方江して我むねの通りに
 可置心持あり
一なまず尾の服指ハはミ出しの鍔掛る程の寸ハ
 不苦
一取籠者の時戸細目にてもたてて有をも
 先明ケさせ戸口の左右鑓の石突にても棒にても
 突破り左右ニ居所を能知り居る方江いかにも
 急に入へし切られさるもの也急にはいる時
 刀にても脇指にても抜持入リ其なりに突と
 心得へし又向に居る時ハ左の手に何にても
 持はいる事也自然楯にもすべき心なり

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一人をうしろより抱く事心持有急に強く
 抱へからす心得たる者ハ調子を請身を下へ
 しづむ必先江余るものなり若いだく共
 やハらかに能程に抱べし身を下る共先へ
 余る事なかれ兼而より下へはづれて下るへし
 と心得へし両ひちの通り可然
一先より幽によばハる時我両手をひろけ我両
 耳の後の方にあて前の方を明ケ聞ケハあら
 ましハ聞ゆるものなり又後より右のことく
 呼時ハ両手を耳の前に当て聞ハきこゆる
 ものなり
一闇の夜に先より人の来ると不来とを知事ハ
 我耳を地につけ聞ハ足音聞ゆる物なり用
 心のためなり
一大小の鞘黒ぬりにする事急の時又大事の
 使の時口上覚かたき時小刀の先にて鞘に書記
 すべきため也又夏の強暑に逢てしむる事なし
一陣刀脇指の鉏切刃下地をして厚く金をきすべし

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 むくにする事あしゝ子細ある事なり
一鑓長刀にて人を突時ハ其儘突込と一度に鑓にて
 も長刀にても捨候へハ突れたる者倒るゝ物なり倒れ
 たる時石突を足にてふまへ候へハ起上り兼る物なり
 うかと突込たる鑓長刀持て居れハたぐり
 寄事あり鎌鑓十文字ハ格別なり
一喧嘩の時取さゆる(ママ)とも我贔屓成者に取付へ
 からす子細有之事なり
一急ぐ事有て走るとも能頃にはしるべし
 少し急事遅くとも先にて役に可立息
 を切はやく走り付共先にていき切レ役に不可
 立心得肝要なり但道の近きハ格別也
一もし無是非事にて家来手討にするとも一刀
 打付たらバ二ツも三ツも続ケて討へし一刀
 にて不可見手廻る歟不切時ハ必手負事数
 度多し能可心得
一なまず尾の刀脇指大切先刃切大刃切すミ
 籠リの有刀脇指ひたつらの大焼の刀脇

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  差さすべからす
一樋刀ハ曲るとも折るゝ事なし子細ハきたいの
 うすき刀脇指に必樋をかくなり
一一戦の砌馬を乗入候共鑓先揃たる所へ乗込へし
 必番鑓持たる下人也鑓先揃ハさる所ハ面々得
 道具持侍共也
一敵川を越し来ルか不来かを知るハ足元を可見
 目はしをきく事肝要なり
一取籠者の時内より切出るといふ節ハ其家の
 門にても戸口にても我左の方にして身を
 塀に添鑓ならハ内より出る共少シやり過し
 突へし刀にても此心にて可切鑓付ても切付て
 も早ク言葉を掛へし取籠たる門にても戸
 口にても向ニ居へからす心得有へし
一馬上にて刀を抜共下緒前に書記ことく結ふ
 べし鞘落へからす馬上にてハ刀鞘に指に
 くき物なり逆手に取直し我むぬに刀の
 むねを当て指へし左の手には手綱持故也

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一介錯の時も又首落す埒も打付ル所ハ大形
 にして刀の打留る所に目を可付
一閙ケ敷時足袋をはくへからす雪踏ハ不及申
 厚着すべからす胴服ハ可着自然着共とう
 ぶくの上に三尺手拭帯にすへし心持あり
一組伏て首落す時ハ切べからず刀にても脇指
 にても切先を左の手に取りすり落すへし
 早業に能なり
一切合ふべきと思ふ時体巻すべからす但くさり
 手拭ならハむすひめをかけ結ひにかたくむすぶ
 へし
一大小共に柄さめ塗たるに徳多し旅立とも越中
 かけすべからす
一鮫鞘好むへからす
一闇の夜に追かけ者打留る其儘声高に名乗る
 へし人に早く聞する為又同士討の用心成
 へし
一闇の夜に追かけ者人組伏たる時卒爾に切へ

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 からす上下を能聞中取して突へし此心持
 肝要なり
一急なる追かけ者の近道あり両方ハかけにて
 細道なり此時三尺手拭我か首にかけ下りたる
 両端を両手に取引はり其はり合にて足
 早に行ハ心昜く通らるゝ物なり一ツ橋も
 同前自然三尺手拭無之時ハ刀の下緒にても
 縄ぎれにても同事なり
一昼夜共に我門を出る時又余所より帰る時も
 下人を我より先へ出すへし家来も不断心得
 へし
一人前にて家人に言葉あらく申べからす下々ハ
 何の弁なくむさと仕たる返答する物なり
 事により堪忍成かたき事のミ多し
一人の指料の刀脇指見るとも切ハよき歟と不可
 尋ぶし付成へし又我刀脇指見する共
 切の事此方ゟいふべからす
一ためし物なとの時我指料の大小の内を

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 ぬき切べからす手の廻る事も有へし時ニより
 若不切時ハ無嗜のやうにて面目なき事
 成へし可慎
一他の家来なり共情らしくものいふべし仇
 ハ不可成
一諸事に付爭事なかれもし物事あらそひ
 募らハ言事のもとひたるべし可慎
一人の見廻の時ハ前方にいか程おかしき事有
 共笑ふへからす尤咡へからす客人の身
 にして悪敷ものなり
一座敷にて我が遁れざる者知音衆の噂か咄ニ出る
 ならバ其儘私のがれす又知音なり余の御咄
 に被成被下候得と断べしむさとしたる悪口
 聞間敷との嗜なり
一追かけ者馬上より切付ハ鐙のふミ様有之
一取籠り者取まき居るともむさと口をきくへからす
 内より詞被掛間歇との嗜なり
一昼夜共に屋敷の内にても外にてもわやめく共

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 あら増聞居出へしむさと出へからす
一客を呼とも挨拶悪敷衆を不可呼吟味有へき
 事也
一走り込者有時むさと渡すべからす先隠し置
 子細をよく聞届其主人江常に念比成衆を
 頼談合ずくにして断を申とも又ハ渡す
 とも前後の首尾再三念を入埓を可明無
 首尾にして難をきる事あるへし
一武芸の内兵法鑓弓鉄炮馬可嗜兵法にてハ
 切合時手も負す相手を数度切伏るを上手と
 いふべし鑓にてハ人を数度突伏せ利を得る
 是上手也弓鉄炮ハよく中リあたやなきを
 上手といふべし馬ハ達者に片尻かけても
 落ざる様に自由に乗を上手といふべし
 いかに所作を能学ぶとも兵法にてハ切られ
 鑓にてハ突れ弓鉄炮ハひたとはづれ馬にてハ
 引つられ度々落るハ下手也調法にならず
 能々可嗜

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    以上
       弐百ヶ条
 右者
高虎公於武州江府昼夜御物語被為 仰聞
末品々雖被為成 御意久敷事なれハ失
念のミなり漸数年存知出し唯今迄に
書付ル隨分承違なきとは存候得共愚
痴第一之某なれハ承違可有之第二不
学にて言葉ひらく句読てには相違して
よき可為笑草
    私の腰折一首
 人は人なさけはなさけ仇はあたこゝろはこゝ
ろ慎てしれ
    寛文四辰年八月廿四日  太神朝臣惟直

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一物毎に不知事ハ誰人にも可尋問ハ一度の
 恥不問ハ末代のはぢなるべし
一大小の長短ハ人々相応たるべし少も空鞘
 ふうたい成事すへからす
一昼夜ともに大勢寄合之時我刀の置所に能
 気を可付不慮之時取ちがへ間敷ためなり
一物毎聞とも根問すべがらず
右四ヶ条一本ニ弐百ヶ条之外ニ有之爰に記