-あとがきにかえて-
一 世相の断面を拾う
過ぎ去った時代の側面を索るために、古い資料のあれこれを尋ねる。幸にして目的の資料にお目にかかることが出来ると、何とも云いようのない
嬉びに浸ることができる。
愛媛県立図書館には、愛媛県の行政文書のうち、藩政期・明治期のものが保管されて、一般公開の資料となっているので、何かと利用しています。
このような公文書資料は一般的に堅苦しく、また形成主義であるといわれていますが、それでも、日常生活に直結した資料に出会うと、その当時の人々の実生活の様子を想定することができます。
今治市中湯屋渡世の者営業時限の件(明六・一)
○三十二号
凡人民聚落ノ地ハ諸事繁多ニ渉り侯ニ付、産業早旦ヨリ相励ミ侯儀ハ今更論ヲ待ス、然ルニ当今治市中湯屋産業ノ者従来ノ因襲ニテ、午後ヨリ焚
始メ漸ク晡前相開、専ラ夜中混浴シ大ニ雑沓致侯ヨリ自然失火ノ弊害モ可有之ニ付、以来ハ早朝ヨリ相始メ、夜分ハ成丈ヶ手早ク相仕舞可申侯事、
盆踊等禁止の件(明六・八・二九)
第六十五号
従来盆会中手踊り、にわかの類興行到来侯趣之処、右ハ男女混雑尤鄙猥を極め一般風議ニ関係致侯ニ付、自今一切不相成侯事、
また、明治三四年には、自転車取締規則が出されて、自転車の利用台数が増加してきたことが察知され、現在の自動車並の取締りであることに隔世
の思いがします。
第四条 自転車ノ進行ニシテ交通ノ妨害又ハ危険アリト認ムルトキハ警察官吏ニ於テ其下車ヲ命スルコトアルヘシ、
二 『遠山の金さん』がそこに居る-和綴じ本-
木版刷りした和紙を百十三枚、袋綴じした小型の本、縦一五・五cm、横一〇・五cm、今でいうポケッ卜版の本。
終りの頁に、喜永元戊申年(一八四八年) ・日本橋一丁目、江府書林・須原屋茂衛蔵版とある。約百四〇年前に刊行された本である。
初めの頁に、諸御役目録とあり、江戸幕府の役職、上は大老・老中から始まって、すべての役職に誰が付いているかが書いてある。
今でいう、職員録である。
その十四枚目に『遠山の金さん』が居る。
これを見ると『遠山の金さん』の姓名は、遠山左衛門尉景元で南町奉行である。先に天保十一年(一八四〇年)から四年間、北町奉行を勤めていた
景元は、再度、弘化二年三月(一八四五年)から十一年間は南町奉行として活躍したその時の役目録です。
当時の武士の役職を知るには、この本無しでは語られない。この意味では貴重な資料本です。
皆さんの身の廻りに、このような木版刷り和綴じ本があるでしょう。今一度、和綴じ本を見直して欲しいと思います。
(編さん室長 渡辺久夫)