思い出すこと
向山清子
主人が調査に出かける時は、前の晩にはすっかり行かれるばっかりにしておきましてね。用意周到の人でした。トレードマークのリュックの中には七つ道具の鉛筆・はさみ・眼鏡・万年筆・ナイフ・消しゴム等を入れましてね。万年筆はいつでも細書きのと太書きのと両方を持って行きました。これらはさし込みの皮のケースに丹念に入れておりました。
昔はね、テープレコーダーが大きかったので相当大きなリュックでね。それに着替え(下着類)・おむすび・果物・お菓子等も入れて背負ったわけです。リュックは山行きと同じように若い時代から愛用しておりました。このリュックも幾つ目かしてだんだん小さくなって行きました。大きすぎたり、重かったりで恰好も悪かったんです。景品でもらった子供用のリュックも使いましたよ。
調査に行く場所については前々から話してくれました。下伊那の天竜村の坂部とか新野(阿南町)はとても長いことよく参りました。そして向こうへ着けばすぐと家へ電話をくれたものです。こちらも心配しますしね。
「信濃」向山雅重追悼号42巻9号