槇尾のサルとちえくらべ(まきおのさるとちえくらべ)

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 むかしむかし、善正(ぜんしょう)から滝畑(たきはた)までの山道に、人まねをするサルがおりました。サルは人をからかうのが大好きで、山越えをしようとする者がいると、かならず、そのあとをつけてきました。
 人が三歩すすめば、サルも三歩すすみ、人がとまれば、サルもとまります。

 大勢で山越えするときはいいのですが、ひとりで山越えをするときは、みんな困っていました。
 
 あるとき、ひとりの男が山道を歩いていると、いつものようにサルがあとをつけてきました。男はサルを追い払おうと、足元にあった小石を拾い、サルにむかって投げました。
 するとサルはおどろいて男からはなれましたが、すぐにまねをして、足元の石を拾い、男に投げつけてきました。
 男はあわてて石をよけ、走ってサルから逃げだしました。
 しかし、おもしろがったサルは男を追いかけながら、足元の石を拾い、つぎつぎに投げつけてきました。
 
 なんとか、人里までおりてきた男は頭をかかえました。
 帰りも同じ道を通って帰らなければなりません。
 またサルがあらわれて、男のあとをつけてくるかもしれません。
 男は一晩考えて、里を出る前にいくつかの小石を懐や袂にいれて、歩きだしました。
 山道に入ると、またサルがあとをつけてきました。
 男が三歩すすめば、サルも三歩すすみ、男がとまれば、サルもとまります。
 そこで男は懐にいれていた小石をサルにむかって投げました。サルは小石をよけながら、男をまね、胸の毛をちぎると男にむかって投げつけてきました。
 男が袂の小石を投げると、サルはわきの毛をちぎって投げつけてきました。
 けれど、サルの毛はふわふわで男までとどきません。
 男は懐や袂にいれた小石をなんどか投げると、とうとうサルを追い払い、そのまま山を越えることができました。

 そして、それからというもの、この道を通る人は、みんな着物の懐や袂にたくさんの小石をつめて、山を越えるようになりました。
(槇尾山町(まきおさんちょう)周辺のはなし)

 
【まめちしき】
◇善正と滝畑は、それぞれ、槇尾山の北側と東側にあります。
滝畑は河内長野市(かわちながのし)になりますが、隣り合っているため、人の行き来も多かったようです。