むかしむかし、弘法(こうぼう)さまが槇尾山(まきおさん)で修行をしていたときのことです。
捨(す)て身(み)が嶽(たけ)のふもとを流れる川の音があまりに大きく、気になって修行ができなくなった弘法さまは、
「やかましい水音よ。」
と、思わずつぶやかれました。
するとふしぎなことに、そのあたりの川の流れは、とんと水音をたてなくなったそうです。
それ以来、このあたりの川は、「音無川」とよばれるようになりました。
いまではそこに目印の石があり、石の近くに立つと、水の音はきこえないそうですが、少しはなれた所では大きな音をたてて水が流れているそうです。
(槇尾山町(まきおさんちょう)周辺のはなし)
【まめちしき】
◇弘法大師(空海(くうかい))は槇尾山施福寺(せふくじ)の愛染堂(あいぜんどう)で仏門に入り、苦しい修行をしたといわれています。求聞持堂(くもんじどう)や捨身ヶ岳(すてみがだけ)、満願(まんがん)の滝などは、弘法大師が修行した場として、いまも語り継がれています。
◇音無川の伝説は奈良県五條市(ごじょうし)にもあります。榮山寺(えいざんじ)というお寺近くを流れる吉野川(よしのがわ)は、いまも音無川とよばれ、「芝崎(しばさき)の奇岩(きがん)」とよばれる場所があります。