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東源軍鑑目録
巻之一
佐竹義信公與小田天菴公確執之事
梶原北条真壁謀叛之事
手葉井山合戰之事
北条出雲守真壁入道乗取小田城之事
信田和泉守重成籠城之事
於鳥出䑓懸合之事
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巻之ニ
蝦鹿嶋被討事附稲石長澤同士軍之事
梶原美濃守北條出雲守敗北之事
田戸部合戰之事附北条犬五郎討死之
事
石嶋駿河遁虎口事
多賀谷修理太夫攻豊田城之事附金村
䑓軍之事
小貝河戰之事附多賀谷敗北之事
氏治公攻信田和泉守評定之事
巻之三
信田菅谷月見之事附信田和泉守最後
之事
菅谷左衛門尉攻落土浦城事
藤澤合戰之事
河井弥五郎射落鈴木半藏事
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氏治公詠歌之事附守治夜討之事
土浦合戰之事
小田合戰之事
巻之四
君嶋合戰之事附佐竹勢小田北条江馳加事
藤澤落城之事附由良判官武勇之事
寄手評定之事附氏治公手分之事
行方刑部少輔貞久病死之事
土浦大手合戰之事
搦手寄手敗軍之事附守治勇力之事
巻之五
久留間丹波守後誥之事附江戸﨑降参
之事
海上主馬五郎行方幸菊丸討死之事
氏治公御自害之事附野中瀬入道追腹
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之事
土浦陥落之事
蛇沼合戰之事
豊田治親與多賀谷重經和睦之事
白井善通参雷宮之事
四郎將軍將基奥州阿武隈河先陣之事
豊田安藝守治親滅亡之事附飯見大膳
縛首之事
多賀谷左近太夫正經居豊田城主之事
後録
東源軍鑑目録畢
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東源軍鑑巻第一目録
佐竹義信後與小田天菴公確執之事
梶原北条真壁謀叛之事
手葉井山合戰之事
北条出雲守真壁入道乘取小田城事
信田和泉守重成篭城之事
放鳥出䑓懸合之事
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東源軍鑑巻第一
佐竹義信後與小田天菴公確執之事
倩以レハ國家熈々トシテ一度盈一度ハ衰
所以然ハ天ノ時変化自然之理也爰ニ本朝
人皇之始神武天皇ヨリ百七代ノ帝正親町
院ノ治天ニ當テ常陸國之住人讃岐守小田
天菴源朝臣氏治公ト申ハ清和天皇ノ苗裔
陸奥守八幡太郎義家公ノ嫡流八田四郎武
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者朝家ヨリ十五代後胤トシテ源家嫡流ノ
名家累世無雙之弓取ニテ小田城ニ居住シ
テ常総ノ兩國ヲ掌ニ握リ武威八州ニ震御
嫡ハ彦太郎守治公トテ血氣強盛ノ猛將タ
リ御家執権ニハ信田和泉守重成菅谷左衛
門尉正光片野入道三樂同梶原美濃守景國
トテ何モ武勇ノ譽レ世ニ隠ナシ爰ニ又同
國住人修理太夫佐竹侍從源朝臣義信公ト
テ是モ清和天皇ノ苗裔新羅三郎義光ノ後
胤佐竹常陸介義照公ノ嫡孫ニテ源氏貴族
ノ名家坂東一ノ弓取也佐竹大田ノ城ニ居
住シテ常奥兩國ノ守護タリ御家ノ執権ニ
ハ久留間丹波守忠次塩井内膳正信利トテ
何レモ仁義ノ侍上ヲ敬下ヲ撫日夜忠義懈
サレハ佐竹御弓勢日ヲ追テ盛ナリ此時ニ
當テ四海大ニ乱テ國土不穏就中東國一日
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モ静ナル事ナシ狼煙翳天鯢波動地一人ト
シテ春秋ヲ樂事ヲ不得万民無所措身飢人
骸ヲ路徑ニ横淺猿カリシ世ノ中ナリ此義
信氏治兩將ハ智仁勇ノ三徳ヲ兼縦ハ牛角
ノ等キニ不異然ニ兩虎ニ龍ハ必争ト云ヘ
リ義信ハ氏治ヲ失ン事ヲ巧ミ氏治ハ義信
ヲ亡ント互ニ心意ニ含ム所存コソ久ケレ
倩其濫觴ヲ委ク尋ルニ去ル永禄元年ニ氏
治ノ所領府中ト義信ノ所領小河ノ百姓境
ヲ論シ闘諍ニ及ヘリ此時府中ノ百姓氏治
公ヘ訴フ氏治公聞召サレ時ノ代官職ニ仰
テ小河ノ百姓十餘人打殺ス小河ノ百姓共
此事ヲ義信公ヘ訴フ義信公以ノ外ニ怫リ
久留間丹波守ヲ召サレ此事如何スヘキト
宣フ丹波守承リ申樣氏治行跡法ニ過タリ
然ハ此方ヨリ騎馬ヲ遣シ府中土民原一人
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モ不殘打殺シ候フヘキコト然ベウトソ申、
上義信公間シ召シ則騎馬二十騎遣サレ府
中百姓共數住人切殺ス氏治公此事ヲ聞テ
以ノ外ニ立腹シ宗徒ノ侍五十騎遣シ小河
ノ百姓悉ク切捨テケリ因茲小田佐竹一戰
ニ及ントセリ雖然扱ニヨツテ一度ハ和談
ニ成ニケリ
梶原北条真壁謀叛之事
讃岐守小田天菴氏治公ノ旗下真壁ノ城主
真壁入道道夢ト云者或時佐竹義信公ヨリ
真壁入道ヲカタライ小田天菴氏治退治ノ
内通アリ真壁入道義信公ト一味シテ何ト
ソ氏治ヲ亡ント晝夜心ヲ砕ケトモ氏治公
名將タルニヨツテ不叶然ル所ニ梶原美濃
守景國ハ真壁入道道夢カ聟ナレハ真壁入
道思フ樣梶原父子ヲカタラヒ氏治ヲ討ン
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ト思ヒ梶原美濃守カ居城柿丘ノ城打越梶
原對面シ此事如何有ント内談ス梶原申樣
ハ親ニテ候入道ニモ相談イタサントテ軈
テ片野ノ城ヘ便立片野何事ヤラント柿丘
城ヘ來リケル真壁梶原對面シテ隠謀ノ企
ヲゾ語リケル片野入道聞テ打頫夫コソ能
キ折ニテ候御存知ノ通當家ハ氏治公ノ御
親父左京太夫成治公迠ハ信田梶原トテ代
々御家ノ長臣タリ然ルニ氏治公ノ世ニ至
テ菅谷左衛門尉ヲ令昇進當時ノ成敗信田
菅谷ニ任シ當家ハ有カ無カノ樣ニマカリ
成候フ事數年噴恚ノホムラ晴ヤラス然ル
ニ此度佐竹義信公ヨリ氏治ヲ亡ヘキノ旨
幸ナリ我々モ義信公ヘ與シ申ントテ謀叛
ノ計畧ヨリ外ハ他事モナシ其時梶原美濃
守申樣我々父子簱ヲ揚可申其時氏治直ニ
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出陣有ヘシト存候其跡ヘ真壁入道押寄小
田ノ城ヲ乘取ヘシト申セハ道夢入道モ此
義尤ト同シケル片野入道申サレケルハ小
田城ヲ乘取ニハ御邊ノ手勢ハカリニテハ
不可叶折節北条城主北条出雲守治高氏治
公ヘ遺恨有ル人ナレハ北条出雲守ニモ内
談然ルベウトテ軈テ北条ヘ使ヲ立出雲守
治高何事ヤラント取物モ取アヘズ梶原方
ヘ参リケル真壁對面シ酒肴ヲ調樣々モテ
ナシ四方山ノ物語モ過ヌレハ各申サレケ
ルハ加樣々々企候御辺義モ兼テ氏治公ヘ
恨アル人ナリ殊ニ我々トハ年比ノ好深ク
候一味同心可然候ト他事モナク申ケル出
雲守治高シハラク思案シテ申ケルハ某ハ
氏治ト先年氏族ノ末ニテ簱下ト言ナカラ
由緒有之者ナリ然ルニ氏治致シ方聞ヘサ
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ル事ノミ多シソレノミニ不限折々ノ對面
ニ目見セ不宜候ヘハ日比心意ニ含怫リ此
時散ゼスンハ何ツヲカ可期能キ折柄ニテ
アリ某モ同心可申トテ評定取々ナリ其時
梶原美濃守進ミ出テ申樣先達テ内證申通
我々父子簱ヲ揚申サン然ラハ氏治公直ニ
打出ンハ必定ナリ其時各ハ小田城ヲ乘取
ルヘシ氏治城ヲ乘返ントテ旁々ヲ攻ムル
ナラ我々後ヨリ攻懸氏治ヲハサミ討ニ可
討ト手ニ取樣ニ申ケレハ弥此義ニ相究リ
何レモ居城ヘ皈ラレケリ
手葉井山合戰之事
去程ニ片野入道三樂梶原美濃守景國ハ與
力ノ勢ヲ招寄セ軍ノ用意ヲコソシタリケ
ル此事四方ニ隠ナク氏治公ヘ急キ告ル事
櫛ノ齒ヲ引カ如シ氏治公聞召サレ討手ヲ
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ヤ向ン亦直ニヤ出ント思案一途ニ不究所
ニ信田菅谷申サレケルハ此度ノ御合戰ハ
一大事ニ候子細ハ梶原父子元ヨリ武勇ノ
者一命ヲ軽ジテ可勵ニテ候間直ニ御發向
然ヘウトソ申上ル氏治公聞召サレ尤ト仰
ラレ其ニテ有ラハ軍勢ノ著當ヲ付ラレヨ
ト下知スレハ畏リ候ト軈テ著當ヲソ付ニ
ケル在城ノ兵一千三百餘騎トソ記サレケ
ル先信田和泉守重成ニ三百餘騎ヲ相添ヘ
先陣ト究メ氏治公守治公兩大將七百騎ヲ
引卒シテ打出給菅谷左衛門尉正光ニ三百
餘騎ヲ相添後陣ノ大將トシテ天正元年三
月二十五日小田ノ城ヲ打立テ手葉井山ニ
陣ヲ取梶原父子此由ヲ聞テ左アラハ手葉
井山ヘ押寄セ雌雄ヲ決セント其勢五百餘
騎ニテ手葉井ヘソ寄セニケリ程ナク手葉
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井山ニモ成ケレハ兩陣時ノ声ヲソ上ニケ
ル時ノ聲モシツマレハ梶原美濃守景國大
音聲ヲ上名乘ル樣只今是ヘ押寄タル者ハ
鎌倉權五郎景正カ後胤片野入道三樂同梶
原美濃守景國ニテアリ日比ノ遺恨遣ル方
モナク何ノ日カ此鬱憤ヲ晴サント思所ニ
佐竹義信公是ヘ寄セ來ル速ニ切腹有レト
ソ申ケル其時河合源五郎進出テ申ス樣只
今是ヘ押寄タル者ハ梶原父子トヤ汝天命
不知ノ愚人カナ譜代相傳ノ御主天菴公ヘ
對シ弓箭ヲ引事言語道断ノ曲者汝モ先祖
ハ覺タリ氏治公ノ御先祖八幡太郎義家公
ノ執権鎌倉權五郎景正カ後胤ト名乘社竒
怪也御屋形氏治公ハ源家ノ嫡流汝カ爲ニ
ハ永々譜代ノ主君タリシカルニ逆心ノ企
天罰イカテ遁ンヤト散々ニ欺ケレハ梶原
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大ニ威リアレ討取ト下知スレハ鈴木半藏
承候ト三人張ニ十三束シハシカタメテ兵
ト射ル其矢アヤマタス河井源五郎カ眉間
ニ葛巻攻テ立タリケル河合タマリ兼馬ヨ
リドウト落ツ是ヲ軍ノ始トシテ敵味方入
乱火花ヲ散シ戰ケル梶原父子元ヨリ武勇
ノ者身命ヲ輕ジテ攻ケル間先陣信田重成
掛立ラレシドロニ相見ケル所ヘ氏治守治
入替リ息ヲツカセス薙立ル梶原勢少シヒ
ルム躰ニ見ヘケルカ守治元ヨリ血氣ノ勇
將ナレハ短兵急ニ取ヒシカント掛立ル梶
原父子ハ何トソ時ヲ移シ氏治ヲ小田ヘ皈
サヌ樣ニト敵掛レハ退キ亦引ケハ追テ懸
リ假粧軍ニシテ時ヲ移シケル兩陣戰草臥
ケレハ互ニ引退クスデニ其日モ夕陽ニ及
ケレハ信田和泉守重成申ス樣先今日ハ此
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陣ヲ御引候ヘテ小田ヘ御皈陣可然候子細
ハ今宵是ニ野陣ヲ召レ侯内如何成逆心者
カ夜内ニ城ヘ乘入ンモイザシレス宗徒ノ
軍兵ハ召連ラレ城中ニハ葉武者少々指置
セ候ヘハ心元ナシト申上ル其時守治宣ハ
信田ガ申条其一理アリトイヘトモ氏治守治
兩大將直ニ馬ヲ出シ梶原如キノ奴原カ首
ヲハ子落サテ城ヘ皈ラン事努々不可有ト
宣ハ信田和泉守重成重テ申ス樣若屋形ノ
御事ハ血氣ノ勇者トヤ申サン大敵ヲ不可
恐小敵ヲ不可欺勝テ甲ノ緒ヲシムルト申
候油断大敵ノ基也太公望カ三略ノ書ニ曰
柔モ設ル所アリ剛モ施ス所アリ弱モ用ル
所アリ強モ加ル所アリ此四ノモノヲ兼テ
其宜ヲ制セヨト云ヘリ端末イマダ顯サレ
ハ人能知事ナカレト申ナラハシ候ヘハ理
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リ至極スル所ヲ御用有ヘシトソ申ケル守
治聞テ是非討取ラデ不可叶ト宣フ重成申
ケルハ若鳶天狗ニ不成ト云ヘリ其時守治
大威リ梶原メカ首ヲトラズシテ小田ヘ皈
ラン事且ハ他國エ聞モ氏治守治武勇ノツ
タナキニ似タリアレ躰ノ小敵ニ軍法モ智
略モ入ヘキカ只斧鉞ノ下ニ蹈ミ殺サント
宣ケル其時重成ハ無興氣ニテトカウノ返
答ナカリケリカヽル所ニ梶原勢打掛ル氏
治軍兵モ是ヲ見テ真一文字ニ切テ懸レハ
梶原勢又引退キ假粧軍ニスル程ニ其日モ
ステニ暮レケレハ氏治勢ハ手葉井山ニ陣
ヲ取夜明ナハ梶原ヲ討取ラントテ其夜皈
陣セサリシハ氏治運ノ極也
北条出雲守真壁入道乘取小田城事
北条出雲守治高真壁入道道夢兩人逞兵ス
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クツテ五百餘騎ヲ引率シマダ篠ノ目ノ明
サル小田城ヘ取掛ケル城中ニハ思モヨラ
サル事ナレハ以ノ外ニ周章シテ上ヲ下ヘ
トカヘシケル所ヘ真壁北条声々ニ名乘樣
北条出雲守治高真壁入道道夢兩人佐竹義
信公ノ御下知ニヨリ發向ス速ニ城明ケテ
相渡サレヨトヨハワリケル其時城中ノ軍
兵ハ御屋形御皈陣ヲ待テ戰ント云モアリ
或ハ此勢ニテモ打出戰ント云モアリ評定
一途ニ不究所ヘ大手ノ門無二無三ニ打破
切テ入城中ノ者共爰ヲセントヽ防ケトモ
小勢ノ事ナレハ真壁北条ニ切立ラレ叶ヌ
センニ成ニケン御簾中ヲイサナイ奉リ搦
手ヨリ上ノ山路ヘ引ニケル真壁北条討取
首共掛ナラベ即城ヘ入替ル氏治父子ハ此
事ヲ聞シ召サレ扨ハ無念ノ事共カナ先梶
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原ヲハ指置キ城ヲ乘返サント手葉井山ヨ
リ城ヘ取掛ントス其時菅谷左衛門尉正光
申樣城ヲ乘返ントテ攻ルナラハ梶原父子後
ヨリ攻ン事必定ナリ然ラハ前後ノ敵ニ圍
マレ八十梟ニ勵ムトモ不可叶候其欲スル旨
ハ先某カ居城藤沢ヘ御引ナサレ遠方ノ御
簱下ヲ召寄セ重テ大軍ヲ以テ梶原北条真
壁共ニ討取ン事何ノ疑カ有ヘキト申上レ
ハ氏治公モ此理ニ擬定シテ夫ヨリ藤澤ノ
城ヘ入給ヘリ
信田和泉守重成篭城之事
信田和泉守重成ハ家子掛馬治部左衛門岩
田彦六兩人ヲ招キ申サレケルハ守治公始
終國家ヲ可保大將トハ不相見小田ノ家運
傾ケル時至リヌト覺タリ我ハ是信田三郎
先生義憲カ後胤トシテ俗姓賤シカラズ然
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ルニ代々武勇ノツタナキニヨリ人ノ下手
ニ屬スル事社口惜ケレ掛ル折柄多年ノ本
懐ヲ達セスンハ何ヲカ可期ト申サレケレ
ハ岩田掛馬尤宜ク候ト申セハ重成ハサウ
コソ有トテ手勢與力ヲ引具シ手葉井山ヨ
リ直ニ信田カ居城土浦ヘ楯籠ル氏治公此
事ヲ聞テサテハ信田モ逆心ノ企ニテ有ン
先梶原北条真壁ヲ指置キ信田ヲ討取土浦
ヘ入替藤澤ヲ出張ニシテ逆心ノ奴原ヲ退
治セント有レハ菅谷左衛門正光申樣信田
和泉守カ義ハ逆心ニモ一定不究如何成心
底ニテカ有ン定テ御屋形ト梶原カ簱色ヲ
窮罷在ン然ニ忽尓ニ取掛攻ンハ風無キニ
浪ヲ立ツルニ似タリ昔モ左樣ノ例アリ平
治ノ亂ニ左馬頭義朝ト兵庫頭頼政ト一味
シテ平清盛ト戰ニ義朝ノ嫡男鎌倉ノ悪源
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太義衡短慮成ル大將ニテ頼政軍ノ位ヲ守
リ居タルヲ心替ト思ヒ清盛ノ嫡子左衛門
佐重盛ヲハ指置キ頼政ヲ攻ケル故ニ頼政
忽心ヲ翻シ平家ニ與シカヱツテ義衡ヲ攻
ツ因茲義朝義衡討負亡ブル事ヲ存ズレハ
先其侭指置レ樣子ヲ窺其後逆心必定成ル
時討取事然ルヘウトソ申上ル氏治聞シ召
レ心底ニ服シケレハ信田和泉守ヲ攻ル事
停止タリ
於砦䑓懸合之事
片野入道三樂梶原美濃守景國モ小田城打
越軍ノ評定アリ梶原申樣氏治ヘ遠方ノ簱
下馳付ヌ内ニ取掛可攻ト申サレケル何レ
モ此義ニ同ケル片野真壁ハ小田ニ居住シ
討手ニハ梶原美濃守景國北条出雲守治高
逞兵スクツテ五百餘騎藤澤ノ城ヘ押寄ケ
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ル氏治方ニモ彦太郎守治惣大將トシテ由
良判官則縄戸崎大膳亮長俊其勢七百餘騎
砦ノ䑓ニ出張ヲシテ寄セ來ル敵ヲ待居タ
リ梶原美濃守景國藤澤勢モ砦䑓ニ出張ヲ
シタルト聞テ取カヘス敵ノ首砦䑓ト聞カ
ラニ今日軍ニ我ハ梶原トナン寄手ノ大將
梶原北条五百餘騎ヲ一手ニ成魚鱗掛リニ
打テ懸ル守治勢モ鶴翼ニ備ヘ敵ヲ取ツヽ
ンテ討ント身命ヲ輕ンシ防キ戰間梶原北
条掛立ラレ引色ニ社見ヘニケル守治由良
戸崎勝ニ乘息ヲモツカセス攻ケル故散々
ニ掛立ラレ尾高ノ麓迠社引ニケル守治勢
モ少引退キ互ニ息ヲソツキニケリ梶原北
条勢手負死人六拾餘人守治勢モ手負死人
四十餘人ニ及ヘリ既ニ其日ノ軍ハ梶原北
条打負安カラスト思今一度雌雄ヲ決セン
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ト叫キ喚テ懸リケレハ守治由良戸崎元ヨ
リ逞兵鉄氣ノ勇者眞先ニ進テ防戰間是切
先ニマワル者ハ天運ノ盡タル者ニテヤ有
ケン遁ルヽ者ハナカリケリ梶原北条一足
モ引退シト戰ケル間半時計ノ内敵味方ノ
死人數ヲ不知討レケル既ニ其日モ暮ナン
トスレハ雌雄ハ明日決セント大將守治由
良戸崎モ本ノ陣所ヘ引ケレハ梶原北条モ
引退キ陣ヲソ取タリケリ