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東源軍鑑巻第四目録
君嶋合戰之事附佐竹小田北条江馳加
事
藤澤落城ノ事附由良判官武勇之事
寄手評定之事附氏治公手分之事
行方刑部少輔貞久病死之事
土浦大手合戰之事
搦手寄手敗軍之事附守治勇力之事
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東源軍鑑巻第四
君嶋合戰之事附佐竹勢馳加事
北条ヘ向タル菅谷左衛門尉正光ハ君嶋川
迠寄セタリケル北条出雲守治高其勢ニ百
騎ニテ君嶋川迠打出防戰ケルカ菅谷多勢
ニテ短兵急ニクタカント攻立ル間片時ノ
戰死人上カ上ニカサナリ伏出雲守川ヨリ
向ヘマクリ立ラレ城中サシテ引テ入ケル
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菅谷續テ城ヘ入ラント既ニ山中迠カツトキ
連テ上リケル所ニ城中ヨリ大石餘多投掛
々々攻ケル程ニ菅谷勢流石大勢トハイエ
トモ不登得只徒ラニ城ヲ守リ扣タリ懸所
ニ佐竹勢二手ニ成テ押寄ル額田四郎ハ小
田山ヘ取登リ陣ヲ取簱幌ヲ風ニ翩翻トシ
テ其勢幾千万トモ不知見ニケリ塩井内膳
正信利ハ十三塚ヨリ東山ヲ打越北条ヘ加
リケル是モ勢ノ多少ハ知ネトモ簱幌數多
見ヘケレハ兼テ肝ヲソ消ケル菅谷左衛門
尉思樣先此勢ニテハ不可叶守治公ト一所
ニ成リ重テ大群ヲ以攻ン迚一矢迠引ニケ
ル守治モ山上ノ佐竹勢ニ肝ヲ消シ是モ陣
ヲ引テ一矢ニテ守治菅谷一所ニ成内談ス
ル樣ハ我々七八百騎ノ軍勢ニテ小田北条
攻落ン事不可叶一先土浦ヘ引皈シ籠城シ
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テ敵ヲ引受雌雄ヲ決センハ如何有ベキト
宣ヘハ菅谷モ其儀可然候トテ一ノ矢モ引
テ土浦ヘ歸陣シタリケル
藤澤落城ノ事附由良判官武勇之事
尒程ニ額田四郎義房塩井内膳正信利片野
入道三樂同梶原美濃守景國北条出雲守治
高眞壁入道道夢何レモ一手ニ成敵ノ臆病
神ノサメヌ内攻ン迚其勢二千餘騎先藤澤
ノ城ヘ取掛リ鯨波ヲソ揚ニケル其響天地
モ崩レテ金輪際ニ落入カト怖シカリシ事
共ナリ由良判官則綱戸﨑大膳亮長俊ハ此
由ヲ見テ味方叶ベシト思レス去ナカラ戰
スシテ引退ン事後代ニ人ノ嘲モ如何ナリ
身命ヲ抛テ一合戰シ敵味方ノ耳目ヲ驚シ
兎ニ角ニモ成ベシ迚由良戸﨑門ヲ開カセ
眞先ニ進テ出ケレハ宗徒ノ軍兵續テ出大
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勢ノ中ヘ掛入々々攻戰元ヨリ由良戸﨑勢
死ヲ一途ニ究メシ事ナレハ一足モ引退ソ
カシト勵ケル去トモ多勢ニ無勢ノ事ナレ
ハ由良戸﨑カ勢過半討レテ殘リ少ニ討レ
大將由良判官則綱戸﨑大膳亮長俊其外平
出伊賀守足立加賀守志筑左近横山彈正岩
﨑勘解由甲崎四郎左衛門八騎ニソ成タリ
ケル彼等八騎ハ死ヲ一途ニ究群ヲ扣ヘタ
ル眞中ヘ鋒ヲ揃打テ掛ル寄手ノ軍兵宗徒
ノ大將ト見ルカラニ我劣ラジ掛ケ出ル八
騎ノ者大勢ノ中ヘ切リ入蜘手十文字ニ掛
立ルサシモ大軍ノ寄手モ切立ラレヒルム
躰ニ見ニケル爰ニ佐竹勢ノ内速水彦次郎
ト名乘テ戸﨑長俊ニ打テ掛ル長俊得タリ
應ト長刀ヲ押取延打程ニ速水カ正靣眉間
ノタヽ中迠打割レ犬居ニ伏起モ不立首打
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落梶原景國家ノ子梶原平左衛門木村兵庫
兩人長俊ヲアマサシト打テ掛ル由良判官
是ヲ見テ梶原平左衛門ト切結フ木村兵庫
ハ長俊ト渡シ合シカ梶原木村兩人ハ則綱
長俊ニ討レタリ寄手是ヲ見テ安カラヌ事
ニ思叫キ喚テ攻立ル八騎ノ者一足モ引退
ジト勵ミケル間半時計ノ戰ニ死人累々ト
シテ上カ上ニ重リ伏ス兩陣互ニ引退キ暫
ク息ヲソツキニケル寄手ノ軍兵手負死人
ヲ數ルニ七十餘人ト聞ヘケル味方ニモ足
立加賀守甲崎四郎左衛門兩人ハ討死ス其
時大膳長俊申樣今一度大群ヲ掛散シ大將
額田梶原北条塩井眞壁カ首ヲ取カ取ルヽ
カ有無ノ安否ヲ究ント思ハ如何ニト申ケ
ル何レモ此義二同シ六人ノ者共又大勢ヘ
掛入ル寄手ノ者共思樣彼等ハ一期當千ノ
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痴者打物ハサニテ叶マシ弓矢ヲ以猿攻ニ
セントテアヘテ近付者モナシ由良カ乘タ
ル馬ノ膝ニ矢二筋迠ソ立タリケルサシモ
俊足ナレトモスクンテ動得ズ犬居ニトウト
伏タリケル其時則綱歩立ニ成敵ニ近ツキ
何トソ馬ヲ奪ント思手負タル風情ヲシテ
斃伏テソ居タリケル掛ル所ニ佐竹勢ノ内
小寺將監岩城孫六兩人馳セ寄リ首ヲ取ン
トスル所ヲ則綱起上リ孫六ヲ馬ヨリ引下
シ四五間投出ン孫六カ馬ニ乘ントスルヲ
將監後ヨリシタヽカニ打則綱心得タリト
將監ヲ取テ伏セ首ヲカヽントスル所ヲ孫
六馳寄ヲ平出志筑馳來テ則綱ヲ討セシト
孫六ト切結孫六終ニ平出志筑ニ討レケリ
則綱ハ小寺將監ヲ左ノ腋ニカイ挾ミ馬ヲ
引寄セ打乘テ將監ヲサゲ切ニシテ敵ノ方
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ヘソ投ニケル此勢ニ辟易シテ寄手ノ軍兵
進不得六人ノ者共一所ニ成亦大勢ヘ掛ケ
入七八度迠敵ヲ御散シテケリ其後平出伊
賀守ハ矢田邊ノ城ヘ引籠志津久左近ハ志
筑ヘ落行タリ横山彈正岩﨑勘解由左衛門
ハ討死ス由良戸﨑兩人ハ大勢ヘ掛入死生
ヲ不知成ニケリ嗚呼是天正元年霜月十九
日藤澤ノ城攻落サレケレハ寄手ノ軍勢ハ
即城ヘ入替ル
寄手評定之事附氏治公手分之事
尓程ニ小田佐竹ノ軍勢藤澤ヲ攻落シ討取
所ノ首共實撿シテ夫ヨリ直ニ土浦ヘ取掛
ント云モアリ又人馬ヲ足ヲ休メテ其後取
掛ント云モ有評定一途ニ不究所ニ北条出
雲守治高進出テ被申樣ハ土浦ノ城ト申ハ
坂東一ノ名城ナリ北ハ馬蹄モ不及沼ヲ懐
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岸ハ一仭ノ青壁釼ニ似テ登カタシ西ハ大
河テ千丈ノ碧潭藍ヲ染タリ南ハ滄海漫々
トシテ飛鳥モ難翔東方ハ陸路ニ續テタヤ
スク難攻要害ナレハ忽尓ノ取掛ベカラズ
先敵ノ位ヲ窺要害ノ虚實ヲ知リ又ハ味方
ノ軍兵ヲ四五日モ休セ其後取掛ト思ハ如
何ニト申レケル諸大將此理ニ歸服シテ四
五日ハ藤澤ニ逗留トソ聞ヘタリ是ハ扨置
藤澤ノ城攻落サレ土浦ヘ急ニ取掛候由聞
ケレハ氏治公ハ諸大將ヲ召シ軍ノ手分ヲ
ソ被仰付ケル先大手ノ持口ニハ行方刑部
少輔貞久海上主馬五郎武經ヲ大將トシテ
行方軍ノ軍兵五百餘騎ニテ堅メタリ搦手
ノ持口ニハ由良信濃守丘見中務少輔ヲ大
將トシテ牛久足高ノ兩勢五百餘騎ニテ堅
メタリ南ノ手ハ海中ヘ乱杭ヲ打江戸﨑監
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物寺嶋掃部片丘七郎左衛門星宮又右衞門
中ノ平藏等二百五十騎ニテ堅メタリ北ノ
手ハ難所ヲ頼菅谷カ手税ニ野中瀬鈍齋入
道沼尻又五郎其外天野中村小野小造木村
沼﨑吉原等諸國浪人集リ勢以上百五十騎
ニテ堅メケル其外宗徒ノ軍兵五百騎ハ搦
手ヘ向ン迚本城ニソ指置給扨乱杭逆茂木
ヲ引散シ矢倉カイ楯カキナラベ寄來敵ヲ
待居タリ唯兩陣ノ安否此一戰ニ有トソ見
ヘニケリ
行方刑部少輔貞久病死之事
祇園精舎ノ鐘音ハ諸行無常ト響ラン老少
不定ノ娑婆世界熟無常ヲ観スレハ人間ノ
身ハ芭蕉葉ノ如ク無常轉変ノ風ニ破易シ
長キ月日ニモ脆ハ人命ニテ電光朝露ノ火
ノ光夢トヤ云ン現トヤ云ン生死ノ煩悩ハ
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三明六通ノ羅漢モ不遁病ノ兆ス所ハ三世
通達ノ釋尊モ遁サセタマハネハ今更驚ヘ
キニアラサレト爰ニ不意ノ事社アリ行方
二十四城ノ大將行方刑部少輔貞久ハ天正
元年霜月廿三日ノ早旦ヨリ風ノ煩迚取伏
時ヲ追病苦盛ニナリケレハ本道外科ノ良
醫秘術ヲ盡シ治スレトモ次第々々ニ重ク
成病苦五躰身分ヲ責テ煩亂ス今ハ早和氣
丹波ノ良術モ及サリケルトソ見ニケリ氏
治公行方病氣ト聞召レ以ノ外ニ驚キ行方
カ病氣如何有ト一時ノ中ニ兩度迠社問レ
ケル其比ノ名醫高松宮内範政ヲ召レ行方
カ療治被仰付範政承リ候ト刑部カ方ヘ打
越脉ヲ診テ申ケルハ御脉既ニ替リ候ヘハ
神農黄帝ノ靈藥モ不及候思召事候ハヽ被
仰置候ヘトソ申ケル貞久聞テ申シケルハ
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醫禱兩術ノ力ニサヘ及ネハ是非モナキ事
ニテ候ト答申サレケル扨又貞久ハ舎弟幸
菊丸ヲ枕近ク招寄遺言ヲソ被致ケル我既
ニ病死候共氏治公ヘノ忠義ヲ疎カニ有ベ
カラズ亦家ノ子郎等ヲハ一子ノ如ク憐ヘ
シ五常ノ道ヲ正シテ家安穩ニ治ヨカシ侍
ハ死スヘキ所ヲ知可退所ヲ知ヲ仁義ノ勇
者ト申ナリ一郡ヲ守ル身ハ學文ナクシテ
不叶物ニテ有殊ニ當家ハ代々弓箭ノ譽レ
世ニ隱レナシ然ルニ今度ノ一乱出來シテ
毎度人ノ耳目ヲ驚ス働目前タリ抑今度ノ
一戰ハ敵味方ノ安否相究ン軍ナレハ骨ヲ
碎テ勵ミ諸人ノ居睡ヲ覺ント思所ニ貞久
天運盡果早世スル社口惜シケレ其方モ當
家ノ門葉タル間我ニ劣ヘカラズ此度ノ合
戰ニ粉骨ノ働シテ名ヲ世上ニ觸ヘシ且ハ
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父兄ヘノ孝行タルベシト無キ跡迠ノ庭訓
ヲソ貽サレケル幸菊丸ハ兎角ノ返答ニ不
及涙ニソムセヒケル懸ル所ヘ氏治公御入
アツテ仰ラレケルハ其方ノ事氏治カ左右
ノ翼ト頼シニ重病ヲ引受此度一大事ノ合
戰ニ出マシキ事氏治カ運命盡タル印ナリ
迚涙ニソ噦ハセ給貞久ハ氏治ノ仰ヲ承リ
兩眼ニ涙ヲ浮重キ枕ヲ擡テ起直リ舎弟幸
菊丸ニ抱カレ申シケルハ某カ病氣既ニ脉
症替リ候由高松宮内申ニ付後生善所ノ観
念ヨリ外ニ他事無ク候然ニ御屋形樣是迠
御入候御心馳ノ程生々世々難忘候貞久早
世シテ此度一大事ノ御合戰ニ逢不申候事
冥途黄泉迠ノ障ト存候申上度事ノミ多ケ
レ共某カ存命今日ヲ限リト存候ヘハ胸中
苦鋪候迚不被申上幸菊丸カ事而已奉頼候
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ト計ニテ其後ハ兎角ノ義ヲモ申サリケル
氏治公ヲ始一座ニ居合人々鎧ノ袖ヲソ絞
ラルヽ氏治公ハ可宣御言ノ葉モナク泣々
御殿ヘ被皈給ソ哀ナリ扨貞久ハクルシゲ
成声ヲ揚硯ヤ有ト申レケル家ノ子丘部藤
左衛門硯ト紙トヲ持テ來ル貞久筆ヲ染辞
世ノ詩ヲソ書タリケル
軍門横戟立君邊共議生民太平筵
二十九年睡裏夢一朝覺是本來天
ト書テ其奥ニ行方刑部少輔貞久朝臣天正
元酉霜月二十四日病死スト書留二十九歳
ヲ一期トシテ朝ノ露ト消ニケリ弟幸菊丸
ヲ始家子郎等打挙テ天ヲ仰地ニ伏悲歎ノ
涙不堰敢哀トモ無常トモ云ニ言葉ノ無リ
ケル扨有ヘキニアラサレハ葬禮ノ儀式執
行モ無常ノ風ニ誘テ夕部ノ煙ト立登ル哀
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ト云モ理リ過テソ聞ヘタリ此貞久ト申ハ
三綱五常ノ道正ク内ニハ佛法僧ヲ敬慈悲
深萬民ヲ一子ノ如ク憐文道ニモ武道ニモ
暗カラズ類ト稀成勇士成ヲ冥途ヨリ無常
ノ敵ノ來ルヲハ防ニ力及ハネハ哀ナリケ
ル事共也
土浦城大手合戰之事
額田四郎義房片野入道三樂梶原美濃守景
國塩井内膳正信利北条出雲紙治高眞壁入
道道夢ハ土浦ヘ取掛稲麻竹葦ノ如ク打圍
タリ大手ノ攻口ヘハ額田梶原塩井搦手ノ
攻口ヘハ片野北条眞壁ト相究リ大手ノ攻
口ヨリ太鼓ヲ打閧声ヲソ揚ニケリ閧声モ
静マレハ櫓ノ小間ヲ八文字ニ押開キ大音
声ヲ揚名乘ケル是ハ桓武天皇ノ後胤上総
介平忠經ヨリ二十三代ノ末胤海上主馬五
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郎武經ト云者也近歳流浪ノ身トナリ天菴
氏治公ヘ参リ扶持セラレ候然ルニ今度大
手ノ持口ヲ頼レタリ命ハ義ニ依テ輕シト
云ヘリ日來ノ報謝ニ身命ヲ抛テ勵ヘキニ
テ候少年ノ昔ヨリ弓馬ノ道ニ執心深シテ
下総國ノ住人桑嶋雲齊入道カ門弟ニ属シ
數年ノ稽古ノ犬笠懸加樣ノ時ヲソ期タリ
幸佐竹衆其道百餘里ヲ隔御出候間御馳走
ノタメ金精箭ヲ琢キ罷有候旦ハ覺ノ為ニ
海上カ矢先ニテ物具ノサネヲ樣レヨト四
人張ニ十四束トテツカイ引誥兵ト放其矢
額田四郎義房カ與力疇倉備中カ胸板ニ當
リ後ヱ四寸計射通シ矢先白ソ見ヘニケリ
疇倉タマリ兼馬下ヘ動ト落寄手是ニ肝ヲ
消所ヘ海上指誥引誥放矢ハ如何成樣ノ具
足モ裏ヲカヽヌハ無リケル是ヲ軍ノ始ト
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シテ兩方矢種ヲ限リニセリ合ケル矢喚ノ
声天地ヲ響ス計ナリ半時計ノ矢軍ニ寄手
數十人射落サレ色メキ立タル威ニ乗テ行
方幸菊丸海上主馬五郎門ヲ押開キ鋒ヲ揃
切テ掛ル額田四郎梶原塩井爰ヲセント戦
ケル命ヲ名ニ換テ引ナ/\ト下知スレト一
足モ引退ズ勵ケル程片時ノ内ニ敵味方ノ
死人山ノ如上カ上ニ重リ臥城中ノ軍兵入
込々々攻ケル間寄手引色ニソ成ニケル行
方海上勝ニ乘攻入程ニ寄手十餘町迠引タ
リケル城中ノ勢モ長追悪カリナント城中
ヘソ引入ケル
搦手寄手敗軍之事附守治勇力之事
搦手ヘ向タル片野入道三樂北条出雲守治
高眞壁入道道夢未タ人數立ヲモセサル所
ヘ由良信濃守丘見中務少輔門ヲ開キ打懸
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ル寄手モ抜連敵味方入乱蜘手十文字ニ馳
違戰タリ元ヨリ由良丘見敵ノ油断ヲ討ン
爲ニ矢合モナク打テ出切立ル程ニ寄手散
々切立レ右徃左徃ニ迯タリケル爰ニ猿生
太郎左衛門古塚治部右衛門ト云者迯敵ヲ
目ニ掛十八町迠追掛タリ迯ル勢ノ中ヨリ
半田與右衛門中吉賀兵衛ト名乘テ取テ返
シ猿生古塚ニ渡シ合小時切合タリ半田中
吉終ニ討レケル其内ニ寄手ハ七八町迯延
タリ城中ノ勢ハ討捕首共取持セ城中ヘ入
ニケリカクテ寄手兩度迠敗軍シタル事安
カラス思無二無三ニ塀ヲ討破リ城ヘ乱入
ント敗軍ノ寄手亦叫キ喚テ攻掛ル城中ノ
諸大將評定スル樣ハ寄手ノ奴原兩度迠敗
北セシ事ナレハ負ケ腹ヲ立テ今度ハ無二
無三ニ塀ヲ乘ヘシ然ルヲ城中靜リカエツ
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テ堀際迠近付セ撰打ニ討ヘシト評定シテ
居ル所ヘ案ノ如ク寄手搦手揉合塀乘ント
叫キ喚テ懸リケル城中兼テ期シタル事ナ
レハ静リカエツテ音モセズ思程ニ塀際ヘ
近付鎗長刀ヲ指出シ撰ヒ討ニソ討ニケリ
寄手大勢損スレ共夫ニモヒルマズ上カ上
ニ取登熊手投鎌鳶口ヲ塀ニ打掛エイヤ/\
ト引ケレハ城ノ堀破レヌベク見ヘタリケ
ル守治公安カラヌ事ニ思人夫三十人ニ仰
泉水之立石ドモヲ運セ日來ノ勇力何ヲカ
期サント人夫三十人斗ニテ動シガタキ大
石ヲ輕々ト引サゲ敵ノ中ヘ二三十續ケ打
ニ投出ス此石ニ中テ死スル者其數ヲ知ラ
サレハ此勢ニ辟易シテアヘテ塀ヲモ破リ
不得城中是ニ力ヲ得テ精兵ノ射手指詰々
々射ル程ニ寄手ノ勢ハ不叶シテ本ノ陣所
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ヘ引ニケル討ルヽ者ハ數百人ニ及ヘリ依
之寄手ノ軍兵忽爾ニ攻掛ラス遠攻斗ニテ
城ヲ取巻徒ニ日ヲソ送リケル其後寄手ノ
諸大將ハ一所ニ立寄評定ス額田四郎被申
ケルハ此城ヲ急ニ攻落ント力攻ニスルナ
ラハ味方之軍兵若干損シ申サン只遠攻ニ
シテ日数ヲ送リ城中ニ草臥ヲツケ其後惣
攻ヲ致ント思ハ如何ニト申シケル其時諸
大將一同ニ此行宜ク候トソ申ケル扨其後
ハ城ヲ取巻タル斗ニテ徒ニ光陰ヲ送リケ
レハ寄手ノ軍勢スル業ナクシテ或ハ碁雙
六ヲ打テ日ヲ暮ス者モアリ或ハ連歌ノ會
トテ寄合遊モアリ思々ノ慰ニテ軍ノ事ハ
打絶テ城中モ徒然成躰ニ見ヘタリ
東源軍鑑巻第四終