宮澤雲山書 七言絶句「田家即事」


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 江戸時代後期の漢詩人宮澤雲山(名は雉、1781-1852)が染紙に揮毫した「田家(でんか)即事」と題する漢詩である。題の下に「庚戌夏五録似坂行斎賢弟。雲山澤雉時年七十(花押)」と添えるが、「似」は贈る意であり、雲山が嘉永3年(1850)夏五月に坂野行斎(1821-93)に贈ったものであることがわかる。雲山70歳の達筆の書だが、年少の行斎に敬意をはらい「坂行斎賢弟」を高く配している。
 七言絶句は「邨荘無事似陶唐。樹影深々風自涼。方悟坡翁詩句妙。一朝両日味偏長」で、木々の間を涼風がわたる村里の無事な暮らしは、陶唐すなわち中国古代伝説上の帝王尭(ぎょう)の治世のごとくであると述べた後、坡翁すなわち北宋の蘇東坡(名は軾、1036-1101)のすぐれた詩句の妙を悟る、と謳う。蘇東坡は晩年、陶淵明の「帰去来辞」に唱和した和陶詩を詠んだが、それを踏まえたようで、それは題「田家即事」からも窺える。
 なお、旧軸装裏面の上巻(うわまき)には「雲山老人所見似之詩」の墨書と「行斎字大年」朱文印が捺されており、行斎の字(あざな)が大年であったことを知る。
 
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
 
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