大沼枕山書 七言絶句「春游」


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 漢詩人大沼枕山(名は厚、字子寿、1818-91)が行草体で自詠の七言絶句「身臨大邑事紛挐。偶拉閒人趂物華。従此勸農無少暇。暫時歌妓又看花」を揮毫したもので、添えられた「春游呈行斎兄 枕山厚」から「春游」と題する詩を坂野家12代当主行斎(1821-93)に進呈したものであることがわかる。欠字とはしないが「行斎」を大きく書き、敬意を示している。
 この詩は「身は大邑(だいゆう)の事に臨み紛挐(ふんだ)す。偶(たまたま)間人を拉(ひ)き物華に趁(おもむ)く。これより勧農少暇無し。暫時妓と歌い又花を看る」と読み下せるが、「紛挐」は入り乱れ争うこと、「物華」は景色や風景のこと。また「間人」は閑人、「少暇」は小暇と同義である。よって「行斎さんは大きな村の名主として日夜奮闘しているが、これからの時期は村民の農業支援で多忙を極め休む間もなくなることとて、たまさか暇人の小生と物見遊山に連れ立った。しばし芸者と歌い、花見をしてリフレッシュ!」といった意に解せ、楽しかったひとときの思いを託したのであろう。
 落款印は「大沼厚印」白文印と「厚枕山」朱文印だが、引首印は虫損で判じることができない。
 
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
 
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