頼鴨厓書 七言絶句「墨陀」


高精細画像で見る

 安政の大獄で35歳の生涯を閉じた頼鴨厓(名は醇、字子春、1825-59)は、三樹三郎の通称が示すとおり頼山陽(1781-1832)の三男。父山陽に似た書風で自詠の七言絶句「萬樹籠堤歩々香。江都勝景有斯衑。紅服青傘人十里。即是天然響屧廊」を揮毫し、落款「鴨厓」と「頼醇之印」「子春氏」の白文印を捺す。引首印の「古狂」朱文印は、古狂生とも号したことによる。
 題は「墨陀」(すみだ)だが、承句の「江都勝景」が、それを画題とした歌川広重(1797-1858)の絵のイメージを喚起する。結句の「響屧廊」は屧(しょう、靴の意)の音が響く廊下のことで、春秋時代の呉王が寵愛する西施のために、歩くと音を発する廊下をつくった故事による。日本の鶯張りが想起されるが、この聴覚へのはたらきのみならず、起句「歩々香」は嗅覚、転句「紅服青傘」は視覚に訴えつつ、隅田川のほとりの衑(れい、道の意)すなわち墨堤を行き交う人のにぎわいを活写している。
 
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
 
目録を見る

坂野家美術品一覧を見る