鈴木其一画 成島司直賛 東籬図


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 東蘺図は陶淵明の詩「采菊東籬下 悠然見南山」からその画題がある。「菊を采る東籬のもと、悠然として南山を見る」という陶淵明の隠棲してのちの自然に身をゆだねた心境をうたったものとされる。
 鈴木其一(1795-1858)は江戸時代後期の絵師で、江戸の琳派を拓いた酒井抱一の弟子として知られている。最近では「夏秋渓流図」(根津美術館)、「朝顔図」(メトロポリタン美術館)など、優れた屏風絵を描いて評価が高い。絵は江戸後期琳派、酒井抱一の弟子である鈴木其一による。竹垣に沿って伸びる赤と黄色の菊の花が、濃淡を活かした墨線で生命力ある表現となっている。画中に「其一」と題し、楕円に朱字印で「祝琳斎」を捺す。
 画中上段に漢詩、五言絶句を載せる。「東蘺芳信早、数宋占秋光、未約登高興、先傾泛菊觴」続けて「七十六翁翠麓」とある。
 賛は翠麓の号から、成島司直(1778‐1862)が行ったもので、江戸後期の幕府儒官で1813(文化10)年に奥儒者となった。通称は邦之助,邦之丞。号は東岳,翠麓がある。大学頭林述斎の下で『徳川実記』の編纂に携わり、歴史、故実に精通し、著書に『改正三河後風土記』がある。漢詩の署名に「七十六翁」とあることから、この絵に着賛したのは1853-1854(嘉永6-7)年頃となる。したがって本図は其一晩年の制作となる。晩年には工房にて弟子に代作をさせたといわれる。本図も其一の晩年退潮期の制作と見てよいであろう。全盛期の完成度の高い表現からすると淡泊である。
 この時期は黒船が来航し、内憂外患の時代であった。耕雨はその成功から美術品としての亜価値を見出したものではなく、成島司直の漢詩、その意に価値を見出したといってよい。耕雨は儒学に傾倒し、経学をもって地域に貢献した人と言って良いであろう。したがって佐藤一斎、渡邉崋山など昌平黌に学んだ儒者、知識人を介しての収蔵であったと解釈できる。
 
解説: 守屋 正彦(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2017.9
 
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