大沼枕山書 五言絶句「鷄」


高精細画像で見る

 漢詩人大沼枕山(名は厚、字子寿、1818-91)が、「鷄」と題する自詠の五言絶句を半切の画仙紙に行草体で揮毫したものである。承句の初字が判じ難いが「鬭罷丰姿老。単棲幽且清。雄心猶未盡。趂暁競先鳴」と解せ、とすれば「闘い罷(つか)れた丰姿(ふうし)老。単棲幽且つ清。雄心猶(なお)未だ尽きず。暁を趁(お)って先を競って鳴く」と読み下せる。「丰姿」は美しい姿のことであり、「闘い疲れたであろう姿のよい老鷄が一羽で静かに隠棲しているが、雄々しい心は衰えず、夜が明けるや先を競って鳴く」といった意に解せる。
 落款は「枕山生」としたため、「耕雨亭歌贈大来坂野君」詩と同じ堂号の「熙堂仙史」朱文印と「百華顚」白文印を添えるが、「華顚」は白髪頭のこと。枕山は明治の代になっても髪を切らずに髻(もとどり)をそのままにしていたことが知られるが、それを示していよう。引首印は「弌種人」で、「弌(一)」と「百」で対応させたのであろう。
 
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
 
目録を見る

坂野家美術品一覧を見る