- 著色武陵朝霞図
- 杉山雲洞画
杉山雲洞は明治25年(1892)の「改正全国書画一覧」の「画高名家」で大坂の田能村直入(1814-1907)らと同列で「東京 杉山雲洞」と掲載され、同27年の「大日本書画一覧」の「画之部」でも、同じく東京の猪瀬東寧(1838-1908)や大坂の田能村小斎(1845-1909)らと同列で「東京 杉山雲洞」と載るが、その伝を詳らかにし得ない。
ともあれ、本作の左上に記された「庚寅春日寫于客舎」から、明治23年庚寅(1890)の春、旅先の宿で描いたものであることがわかるが、落款「雲洞逸史」に白文印「杉山濤印」と朱文印「号雲洞」を添える。なお「雲」が下部「云」で刻されるのは通例である。
隷書で「武陵朝霞」と題記されるが、湖南省武陵の桃林の奥に戦乱を避けた人々が平和に暮らす仙境があったという陶淵明(365-427)の「桃花源記」を描いた、いわゆる「武陵桃源」である。穏やかな彩色で桃花が咲き誇る、のどかな桃源境の朝を表現しており、右下に捺された「山中無是非」白文遊印もこの絵にふさわしい。
解説: 森岡 隆(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2019.3
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