葵岡渓栖画 勝海舟賛 美人図


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 本図は浮世絵師魚屋北渓の門人で摺物、絵入りの狂歌本の挿絵を描いた葵岡溪栖が描いた肉筆の美人図である。溪栖は生没年が明らかではないが、画中に「雪香園溪栖筆」とあり、続けて瓢形白文印に「七十七翁」、白文方印で「溪栖」とあることから、溪栖の晩年であろう。溪栖の活躍期は文政から天保期(1818-1844)頃である。また、画中左上に勝海舟(1823-99)の賛があることから、おそらく幕末頃の制作であろう。
 画中の美人は唐風の仕女図の姿をしている。背景に竹、手前に衝立がある。美人は露地に立ち、筆を右手に穂先を口に加えるように見える。足下には硯、水差しが置かれ、衝立に移る竹の姿を描こうとしているようである。
 竹図には墨竹の画題がある。土井贅牙著『論画竹偶筆』に「李夫人竹窓描月影」(注)とある。また、新井白蛾著『牛馬問』に狩野常信が竹の絵を描くに父尚信の心にかなわなかったが「月は隈なくさえわたり庭竹の影、障子にうつりおのずからなる風情有ければ、大に喜び其姿を寫すに尤も筆力を得たり」とある。おそらくは李夫人の故事が、本図では具体的な形で描かれたものであろう。
 「李夫人墨竹図」を画題としてよいであろう。
 
(注)『百度百科』に李夫人(五代閨閣才女)、善描竹影開畫科、始創墨竹為世贊、命運哀戚空自憐、後唐大將軍草莽武夫郭崇韜、恰逢伐蜀將其虜、夫人鬱鬱寡歡、情寄筆墨、月夜窗前顯靈感、閨中愁緒、竹影描來、悲苦愈多、才藝愈驚世。
 
解説: 守屋 正彦(筑波大学教授・博士(芸術学)) 2017.9
 
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