上梓のことば

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(図)

 このたび六年の歳月を費して、ここにようやく水海道市史上巻の刊行を見るにいたりました。
 一九六〇年代以降の、この地にも及ぶ社会経済的大きな変動は、一方で開発等による郷土の文化遺産、古蹟、文書等の発掘、移動、埋滅等の契機を生み、他方、市勢の発展等とともに新しい市民の皆さんをお迎えするなど、私たちの郷土水海道市がどのような歴史をたどりつつ今日を迎えるにいたったのかを、今にとどめ、明日に残していく必要性を痛感させていたのでありました。
 時あたかも明治百年を迎え、その記念として市史編さん事業にとりくんでまいったわけでありますが、今回の上梓は時間等の制約もあり、次のような特徴と限度を余儀なくされざるをえませんでした。
 即ち、基本的には、編年体による通史として刊行したということであります。これによって、遙か原始、古代から今日にいたるまで、水海道市を中心とするこの地域がどのように歩んできたのかを概観しうる利便を持つことになったわけであります。
 しかしある意味では、北関東平野部の一小地域でしかないこの地方の歴史――人々の世すぎ、生きざまを解明するためには、編年的把握のみでは網羅しきれないさまざまな生活事実、側面があり、その憾みがこの書を一種平板、皮相なものにせざるをえない限界をも生じているということであります。
 したがってその弱点は、今後、紀伝的――テーマ、事項、地域立て等による研究、調査、記述によって補い深めていかなければならないと考えるのでありますが、ともあれここに、関係各位のなみなみならないご努力によって、通史の上巻が刊行できましたことを心から喜び、そのご尽瘁に対し、改めて厚くお礼申しあげる次第であります。
  昭和五十八年三月
                                水海道市教育委員会 教育長 松本功