県内の古式古墳

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茨城県の古墳時代も、以上のような政治的動向の中で、その黎明を迎え、古墳文化が開花するのである。
 茨城県の前期古墳は、大和及びその周辺地方の前期古墳よりもかなり遅れて出現したとみられている。本県の前期古墳は、明らかに県域における、出現期の古墳であり、少なくとも五世紀代における天皇陵を含む巨大な高塚墳が登場する以前の性格と特徴を有している。現在まで、前期古墳として知られているものに、狐塚古墳(岩瀬町)、勅使塚古墳(玉造町)、原一号墳(桜川村)、丸山古墳・佐自塚古墳(八郷町)、山木古墳(筑波町)などがあり、このうち佐自塚古墳と山木古墳は前方後円墳であるが、他の四基は前方後方墳である。本県の出現期の古墳の半数以上が前方後方墳で占められていることは、注目すべき現象である。このことは、栃木県域でも群馬県域でも同様に指摘される点であって、古代東国における出現期の古墳の中に前方後方墳が多いことは、四世紀前後における大和朝廷と東国首長との政治的結合関係のある種の表明ではないかともみられている。
 

県内古式古墳分布図(『古墳時代の茨城』)

 
県内古式古墳一覧
古墳名形 式所在地規模
全長
内部施設副  葬  品
丸山古墳前方後方墳八郷町柿岡55m粘土利用鏡・銅鏃・勾玉・管玉・丸玉・小玉・大刀・刀子等
孤塚古墳前方後方墳岩瀬町岩瀬40m粘土利用短甲・銅鏃・小玉・大刀・鉄剣・刀子・鉇・土師器等
勅使塚古墳前方後方墳玉造町沖州64m粘土利用鏡・管玉・小玉・鉄剣・土師器等
原1号古墳前方後方墳桜川村浮島38m粘土利用管玉・小玉・鉄剣・鉄斧・鉇・土師器等
鏡塚古墳前方後円墳大洗町磯浜106m粘土利用鏡・勾玉・管玉・刀子・鉇・鎌・鉄斧・石製模造品等
佐自塚古墳前方後円墳八郷町佐久58m粘土利用勾玉・管玉・小玉・刀子・竹櫛・土師器等
山木古墳前方後円墳筑波町山木48m粘土利用勾玉・管玉・小玉・鉄剣・土師器等


 
 

丸山古墳実測図(『丸山古墳』)


鏡塚古墳実測図(『常陸鏡塚』)


丸山古墳出土勾玉


鏡塚古墳出土滑石製模造品

 以上、列挙した本県の出現期(前期)の古墳は、いずれも全長四〇メートル~五〇メートルという等質的規模を有しており、埋葬施設も、共通して粘土塊・あるいは粘土槨に木棺直葬という方式がとられ、副葬品も丸山古墳を除いては量的に簡素であるが、いずれの古墳からも、葬送儀礼の祭祀と関係が求められる土師器や底部に穿孔を施す壺形土器を伴っている。これもまた出現期の古墳の特徴となっている。さらに分布についても、霞ケ浦周縁部とこれに注ぐ恋瀬川・桜川の流域に点在しており、県域のごく限られた地域に築造されていることも興味のある点である。
 このほかに、前期的様相をそなえる古墳としては、長堀二号墳(八郷町・前方後方墳・未調査)、上出島古墳(岩井市・前方後円墳)、鏡塚古墳(大洗町・前方後円墳)などを加えることができよう。