美しい我が故郷

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遠くに住んで故郷石下を思うとき、眼前に浮かぶのは東に聳ゆる筑波嶺と、西に流れる清流鬼怒川を一体にした景観である。江連用水の両岸のそこここを覆う花の霞も消えて、枝に若葉が萌えだしたころ、鬼怒の東岸、南北に広がる水田地帯は、一反ずつに整然と区切られた短冊形の田面に菜の花と蓮華の花が黄と紅の錦を織りなしていた。石下紬の織りなす秀逸な紋様もこのような風土のなかに育てられた美意識の結晶といえよう。
 今は農業構造改善事業の一帰結として、三反ずつに区切られた水田が遥かにつづき、春とはいえ、茶褐色の田面の果てに男体女体の筑波嶺が霞む。敗戦前から現在にいたる故郷のこの景観の変化は、敗戦・復興・高度経済成長という時代を画する事件が、私たちの故郷に与えた歴史的変革の一端を示すものでもある。かつての私たちの祖先は自然的条件の変化に順応しながら生活してきた。いつからか過去・現在の人間の営みそのものが自然景観をも変えてゆく。その変化のはげしさに改めて驚く。