木綿 結城郡結城町
茶 結城郡 豊田郡 岡田郡
蚕種 結城郡 岡田郡
紬 結城郡結城町
紬かすり 結城郡結城町
干うどん 結城郡結城町
右の産額をみると、茶は七〇万斤(一貫当り上等が銀二四〇匁、中等が一〇〇匁、下等が五〇匁)、蚕卵紙一三〇〇枚、結城紬が五七〇〇反(一反四円~五円五〇銭)、結城かすり三〇〇反(一反六円七五銭)である。
これらの物産が、当時の産物をすべて集計したものでないことは明らかで、むしろこれらは富国強兵、殖産興業の政策立案のための基礎的調査の結果で、銘産品とか特産品が掲出されているとみるべきである。しかし、維新後初めてなされた大がかりな物産調査の結果として、それなりに意味をもつものである。
これに対して、内務省勧業寮が編さんした「明治七年府県物産表」には、すべての産物の産額と価格が府県別に網羅されている。この時期石下町域は千葉県に含まれていたので、千葉県の数字により、大まかな推論を下さねばならない。千葉県は安房国四郡、上総国九郡、下総国九郡からなる広大な県であるが、さらにここでは、後に茨城県を構成することになった新治県(常陸国六郡、下総国三郡)および茨城県(常陸国五郡)の数字とともに検討する。
Ⅰ-3表は、「明治七年府県物産表」に掲出された千葉、新治、茨城各県の諸物産をほぼ七〇に分類し、産額と価額をみたものである。産額は単位が区々にわたり、合計値を出せないものが多い。
三県に共通していることは、当然のことながら、農作物、とりわけ米の構成比が高いことである。もともと全国の数字をみても、米の構成比は高く、総生産物価格の三八%、農作物価格の六三%を占めるのであるが、千葉県では、産出高において新潟、滋賀、秋田、新川(越中国)の諸県についで第五位に位置している。千葉県は、前に述べたように、安房、上総、下総の二四郡を含む広大な県であり、常陸五郡を擁するにすぎない茨城県と比すれば、総生産物価格において三倍にもなることからしても、この事情はうなずける。したがって、米に次ぐ重要産物である麦も、産高で熊谷、名東(四国)、愛知、栃木諸県についで第五位、大豆については、熊谷、新潟につぎ第三位を占めるのである。これは、醬油特産地としての銚子、野田地方をもつ千葉県が、その周辺部を原料供給地たらしめている結果である。因みに新治県が大豆産額において第六位に位置づけられているが、これも霞ケ浦周辺部、とくに土浦地方に広汎に展開した醸造業の原料供給地が然らしめたものとみてよい。
三県における農業生産の優位は、工業生産の低位として現出する。雑工業の構成比の低さがそれである。千葉、新治両県において、一%前後、比較的高い茨城県では四%近くになるが、ここでは飲食物類、紙、細工類で産額の半ば以上が占められる。茨城県の飲食物類の内訳は、製茶、鰹節、漬物、塩であり、工業というには原生的でありすぎる。また、紙、細工類は、久慈、那珂地方に展開した和紙生産地帯の特産品が計出されているとみられる。
Ⅰ-3表 明治7年県別物産 |
千 葉 県 | 新 治 県 | 茨 城 県 | ||||
価 格 | 構成比 | 価 格 | 構成比 | 価 格 | 構成比 | |
農作物計 | 円 7 020 437 | % 71.7 | 円 4 368 269 | % | 円 2 489 428 | % 70.9 |
米 | 4 844 926 | 49.6 | 3 289 267 | 49.8 | 1 726 859 | 49.2 |
陸稲 | 9 294 | 1 786 | ||||
大麦 | 760 532 | 17.3 | 389 309 | 13.2 | 256 300 | 16.9 |
小麦 | 193 065 | 99 612 | 91 058 | |||
雑穀類 | 738 062 | 381 491 | 245 357 | |||
澱粉類 | 23 502 | 16 837 | 20 808 | |||
園蔬類 | 331 957 | 3.4 | 120 192 | 1.8 | 91 671 | 2.6 |
種子類 | 88 212 | 64 438 | 53 140 | |||
果実類 | 30 887 | 5 287 | 4 232 | |||
煙草・食品計 | 1 466 271 | 15.0 | 1 188 839 | 18.0 | 578 355 | 16.5 |
煙草類 | 21 391 | 0.2 | 27 643 | 0.8 | ||
製茶類 | 120 430 | 1.2 | 35 081 | 1.0 | ||
醸造物類 | 1 219 067 | 12.4 | 1 095 165 | 16.6 | 458 147 | 13.0 |
油類 | 105 383 | 93 674 | 57 484 | |||
繭糸・織物計 | 263 488 | 2.8 | 326 961 | 5.0 | 117 216 | 3.3 |
蚕卵紙類 | 169 | 0.05 | 1 951 | 0.1 | 1 188 | 0.1 |
繭類 | 4 396 | 2 928 | 1 740 | |||
生糸類 | 867 | 1 646 | 954 | |||
真綿類 | 81 | 100 | ||||
綿類 | 118 242 | 1.2 | 116 671 | 1.8 | 58 605 | 1.7 |
木綿糸類 | 28 291 | 0.3 | 21 475 | 0.3 | 1 376 | |
麻類 | 627 | 112 | ||||
縫織類 | 108 715 | 1.1 | 181 400 | 2.7 | 53 141 | 1.5 |
縫裁類 | 2 100 | 890 | ||||
網縄・氈席計 | 27 709 | 0.3 | 19 961 | 0.3 | 1 908 | 0.1 |
網類 | 13 453 | 6 543 | 570 | |||
縄類 | 4 996 | 3 148 | 645 | |||
氈席類 | 9 260 | 10 270 | 693 | |||
林産物計 | 193 292 | 2.0 | 101 631 | 1.5 | 62 846 | 1.8 |
竹類 | 8 655 | 2 609 | 1 355 | |||
木材類 | 15 769 | 12 007 | 7 962 | |||
植物類 | 436 | 946 | 27 | |||
皮葉類 | 18 021 | 7 523 | 17 086 | |||
菌葷類 | 219 | 607 | 444 | |||
臘類 | 487 | 830 | 110 | |||
薪類 | 92 013 | 57 315 | 25 210 | |||
炭類 | 53 202 | 19 794 | 10 652 | |||
畜産物計 | 182 969 | 1.9 | 47 890 | 0.7 | 49 611 | 1.4 |
牛類 | 41 141 | 85 | ||||
馬類 | 42 943 | 10 036 | 33 269 | |||
禽獣類 | 97 349 | 37 762 | 16 103 | |||
皮革類 | 1 536 | 92 | 154 | |||
水産物計 | 293 169 | 3.0 | 95 927 | 1.5 | 56 289 | 1.6 |
魚類 | 247 987 | 68 991 | 52 386 | |||
甲貝(虫)類 | 34 882 | 21 402 | ||||
海藻類 | 10 300 | 534 | ||||
鉱産物計 | 19 144 | 9 196 | 0.3 | |||
玉石礦土類 | 19 144 | 8 590 | ||||
金銀銅鉄類 | 606 | |||||
雑工業計 | 112 104 | 1.1 | 72 329 | 1.1 | 135 372 | 3.9 |
飲食物 | 42 603 | 1.2 | ||||
製薬類 | 16 | 5 | 296 | |||
金属細工類 | 11 225 | 2 052 | ||||
諸器械類 | 18 258 | 14 573 | ||||
化粧具類 | 14 681 | 50 | 1 213 | |||
文房具類 | 249 | 134 | ||||
染料類 | 14 681 | 0.1 | 4 277 | 8 878 | 0.3 | |
塗具類 | 40 | |||||
漆器類 | 214 | 2 381 | 2 852 | |||
陶器類 | 3 571 | 2 444 | 6 678 | |||
戸障子類 | 3 403 | 2 348 | 5 142 | |||
指物類 | 5 728 | 3 220 | 1 377 | |||
篠竹葭器類 | 12 096 | 7 985 | 453 | |||
桶樽油物類 | 5 401 | 4 311 | 3 124 | |||
紙細工類 | 3 437 | 42 279 | 1.2 | |||
雑貨,玩物類 | 4 412 | 702 | 1 439 | |||
履物類 | 14 732 | 6 066 | 2 297 | |||
雑計 | 159 594 | 1.6 | 266 560 | 4.0 | 11 714 | 0.3 |
飼料類 | 2 466 | 772 | 10 335 | |||
肥料類 | ||||||
薬種類 | ||||||
物産合計 | 9 792 571 | 6 601 847 | 3 511 644 |
(1) | 価格は円以下を切捨ててあるので,計数の合計については整合性を欠く. |
(2) | 千葉県は,安房国4郡,上総国9郡,下総国9郡(印旛,結城,葛飾,千葉,豊田,猿島,相馬,埴生,岡田)の合計.新治県は常陸国6郡(新治,筑波,信太,行方,河内,鹿島),下総国3郡(匝瑳,香取,海上)の合計,茨城県は常陸国5郡(那珂,茨城,久慈,多賀,真壁)の合計である. |
(3) | 「明治七年府県物産表」(明治前期産業発達史資料第1集)149~185ページによる. |
Ⅰ-3表では、雑工業以外の工業生産物として、醸造生産物を含む煙草・食品ならびに繭糸・織物が掲出されているが、この二類は、全国的にみて、明治前期における主要工業生産物であり、ここで立ち入って考察を加える必要がある。
さきに農業生産物とのかかわりにおいて醸造業をみたが、千葉県と新治県は、醸造業生産額が全国的に上位を占めている。生産物のうち、第一に注目すべきことは、醬油について、千葉県が群を抜いて、全国一の産額をみせている(全国の生産量の二六%、価額の二四%)。さらに新治県では産額で三位、生産額で二位を占める(全国生産量の一九%、価額の一七%)。また味噌についても、千葉県が産高、産額において全国第二位、新治県は第四位を占めている。
元来、醸造生産物は、自給的色彩の濃いもので、醸造業は全国各地に展開し、比較的地域差の少ない産業とみられる。しかし、千葉、新治両県においては、醸造物類の産額は、それぞれ物産総額の一二%、一六%を占め、米に次ぐ地位を占める重要な産物であった。その背景には、江戸という大消費地からの食品工業生産物に対する需要があったこと、さらに霞ケ浦、利根川、江戸川をもつ両県の舟運の便を考慮に入れなければならない。
醸造物類の産額における酒、味噌、醬油の構成比をみると、千葉県においては、酒三四%、味噌一八%、醬油四一%であり、新治県では、酒三四%、味噌三一%、醬油三二%となっている。これによっても、野田あるいは銚子における醬油醸造の規模の大きさは推測できるのであり、石下地方も、おそらくはそれの原料供給地としてのいくばくかの役割を担わされていたとみてよい。
繭糸・織物類についてみれば、綿糸、綿織物も旧幕時代より自給用として生産されてきた。Ⅰ-3表によれば、千葉県において蚕卵紙、繭類、生糸類、真綿類など、養蚕にかかわる生産物が、三県のうちでとくに低い構成比を示している。「日本地誌提要」にいう結城郡、岡田郡の特産品とされる蚕紙は、統計の不備のためかどうか、産額で新治県の一〇分の一に及ばない。むしろここでは、実綿と縫織類が主流である。縫織類でも、木綿織物、縞木綿が産額の八〇%を占めている。「提要」にある結城紬、結城紬かすりの類は、産額で二万三九円、縫織類に占める比率は一八%にすぎない。表にみられるとおり、ここでは産量でなく産額で比較されているので、繭、生糸、真綿など、単位価格において、綿をはるかにしのぐこれら養蚕にかかわる物産が、総生産額において微々たるものであったことは、明治前期における衣料生産の主流が、実綿の作付け、収穫、加工にあったことを裏づけるものである。