《同志社ラグビーの功績と存在感》


 日本ラグビーを語るとき創始校の慶應義塾とともに大きな存在感を占めるのが西では同志社大学である。確かにラグビー創始という点では慶應義塾、三高に次いで3番目ではあるが、部成立の遅速に価値が問われるものではない。問題は日本ラグビーの発展にどう関わってきたかという点だろう。
 ここで思い起こすのは孤立に苦しんだ慶應蹴球部の悲哀である。もし京都でも三高蹴球部の単独時代が長くつづいていたとしたら、京都ラグビーの開花が頓挫とまではいかないまでも、はるかに遅れていたことだろう。同志社ラグビーが時をおかず発進したことは三高ラグビーの孤立化を防いだばかりか、京都を西のラグビー拠点に育てあげる基盤ともなった。
 もちろん、これには三高有志の強い働きかけがあったことも見逃せないが、同志社サイドにもラグビーへの土壌が備わっていたことを評価しなければならない。明治39(1906)年5月25日付けの同志社時報によれば「ラグビー式も用意はしてあるが、之は危険で困る」とあり、また同志社ラグビー蹴球部創立二十五年誌「同志社良久飛以」にも「明治41(1908)年同志社にラ式蹴球行はれ始む」と題する本多虎雄(明治42年同志社普通学校卒)の次のような記事が掲載されている。いずれも日本ラグビー史からの孫引きであることをお断りしておく。
 「明治四十一年の秋、ラグビーのルールを翻訳したことがある。そうして神戸の町中を探し廻ってやうやくラグビーのボールを買って来て研究した。その唯一のボールが破れると靴直しに修繕させたものであった。又当時は蹴球靴を使用するものなどは一人も居らず皆足袋裸足であった。自分はルールを翻訳説明したのみで、自らプレーしたことはなかった。」
 日本ラグビー史は本多虎雄の記述を「これも珍奇な伝聞…」という表現で片付けている。しかし、同志社ラグビー蹴球部が創部25年記念誌という公式の出版物に掲載しているということは、同志社大学という公的組織内にラグビー活動の土壌がすでに存在していたことを認める一種の証しともいえるだろう。慶應義塾や三高とは異なった環境がそこにはあったわけで、このことが創部をいち早く現実のものとし、活動へと進展していった最大の理由といえるだろう。同志社大学ラグビー部の創部は1911(明治44)年11月となっている。
 京都ラグビーの勃興は三高、同志社大学並立の形で進行していく一方で、これら上級学校の活動を支える重要な役割を担ったのが京都府立第一中学校(京都一中=現洛北高校)であり、同志社普通学校(現同志社高校)である。
 京都一中のラグビー部は1912(明治45)年に香山蕃(日本協会第3代会長)によって作られた。「偶然に見た慶應対三高のラグビーマッチが頭にこびり付いて離れない私は、五年生(明治45年)になって到々時の森外三校長の許しを得て、京都一中にラグビーチームを作ることになった。あのラグビー試合の、而も田辺キャプテン(田辺九万三)の颯爽たるプレイぶりを見なかったら、京都一中にそんなに早くラグビー部は生まれなかったろうし、又生まれたとしても私自身はやっていなかったかも知れない。こうして同志社普通部、京都第一商業学校(通称京一商=現西京高等学校)と共に日本の最も古い中等学校のラグビーチームが生まれたわけである。」と田辺九万三追懐録への寄稿の中で述懐している。
 この京都勢に刺激されたのだろう。大正年代を迎えると中学のラグビー熱は大きなうねりとなって近畿一円の中学校へと広がっていった。大阪では天王寺、北野、兵庫では神戸一中、二中、そして奈良でも天理中学と、いまでは名門、古豪といわれる高校ラグビーの前身の多くはこの時代を創部とし、関西ラグビー興隆の一翼をになってきたわけだが、ここでもうひとつ発展の支柱となったのが1918(大正7)年1月に大阪毎日新聞社が主催した「日本フートボール大会」の開催である。
 この大会はいまも「全国高校ラグビーフットボール大会」の名称で引き継がれているが、東京で始まったラグビーというスポーツがまず京都に根をおろし、やがて全国化していく過程でこの新聞社主催の大会がはたした役割の大きさは何ものにも変え難い。スタートの時点では全慶應、三高、全同志社、そして京都一商の4チームだったのが、昭和、平成と時代が変わるとともに出場校の数は増えつづけ、ついに2005(平成17)年度には51校にまで達した。87年の長きにわたって日本ラグビーを側面から支えてくれたこの大会の未来に思いをはせるとき、一貫したメディアの協力がいかに重要な発展の要素であるかを再認識させてくれる。戦前、戦後を通じて同一の新聞社が同一のスポーツ大会を主催もしくは後援してしてきたのは、毎日新聞社の全国高校ラグビー、全国高校選抜野球と朝日新聞社の全国高校野球優勝(戦前はいずれも中学)の3大会だけである。高校ラグビーについては後に詳述する。