ラグビーのルールそのものを統括しているのは、インターナショナル・ラグビー・ボード
(注1)(以下IRBまたはIRFBと略す)であり、加盟国すべてのラグビーに関わる様々な課題を統括し、毎年のようにルールについても検討し、議論を重ねて、よりよいラグビーを志向してプレーを規定してきた。
7,9,12) 近年なって、1987年当時のIRFBが主体となり第1回のラグビー
ワールドカップが開催され、ラグビー
ワールドカップ定着化した。その後、アマチュアリズムの撤廃(1995年)など、現代の国際社会の中で大きく変動する価値観に応じて、ラグビーは、スポーツ競技自体として、時代に即した新たな取り組みを様々な領域に拡充してきている。国際的な発展を遂げているスポーツ競技全体の世界的な潮流の中にあって、「ラグビー競技」では、ランニング・ハンドリングゲームとしての魅力を一層拡大し、ラグビーの独自性を明確にするために、以前までよりも多岐にわたる多くのルール改正を実施してきている。
現在のラグビーのスポーツ競技における「ルール:競技規則」は、ラグビーの独自性と面白さ、安全性なども包括したラグビーのプレーそのものを規定するものであり、その制定とルールの適用(レフリング)の重要性については、1997年7月に、IRFBが制定した「PlayingCharter:ラグビー憲章」(2003年改訂)の内容からも明確である。加えて、ラグビーの基本原則としての位置付けも明らかに示している点においても注目できる。
ラグビーの競技特性やルール制定の意味、およびルールの適用の等については、この「ラグビー憲章」を制定したことにより、未来のラグビーがスポーツ競技として、ルールを制定する意味付けや方向性などを明確に示されていると言えよう。
ラグビーの発祥国である、英国の
イングランド協会(以下RFUと略す)が発刊したEVEN BETTER RUGBYによれば、ラグビーのルールは、LAWSと呼ばれるものであり、それはラグビーの本質を変えるものではなく、ラグビーの楽しさやおもしろさを追及する根本精神を含んだ規則であるとしている。
12)それを明文化したものが「LAW of the GAME」であり、わが国では、
日本語で表すとき、これまで「競技規則」として表記してきている。
したがって、過去のラグビーを継承した現代ラグビーを理解し、今後のラグビーの普及、発展をめざすために、ルール改正の歴史的変遷を把握することは、非常に意義あることとしている。
同様に、スポーツの歴史学、社会学的分野の領域において、中村
25)は、スポーツ競技のルールを考察検討する場合、過去のルールを研究することは、未来のスポーツのあり方をも展望することにつながると明言しており、また、守能
12)、菅原
34)らも、スポーツにおける過去のルールの歴史的変遷を整理することの大切さを述べている。
そこで、ラグビーにおけるルール研究等に視点を移して検討してみると、まず、英国におけるルールに関する研究は、過去数十年にわたるルール改正の内容について、ルールそのものの各条項について条項毎に整理した資料が存在している。
5,29)わが国においては、この資料をもとにして、ラグビーの競技場の条項に限定してルールの変遷を整理した1983年中村
24)の資料と、ルールの条項毎に整理した1981年池口、川田
7)らの報告が残されているが他の資料は見あたらない。
しかし、いずれの報告もローブックや競技規則の各条文条項の推移を中心に綴った資料であり、ラグビーのルール全体としての年次的推移に綴ったものではなかった。したがって、年度毎に変化するルールの全体像、それに関連して変化するプレーそのものの内容等も含んだ現代ラグビーの全体的な流れを把握することは難しかった。また、未来へ向けて現在のラグビーが何を志向しているのか、それを明確に示すことは意図していないものであった。
ラグビーのルール全般については、1990年代に
日本のラグビー界全体の傾向と関連させて安全対策の視点からルール改正の変遷に言及した齊藤らの研究資料がある。
32)しかし、既に資料作成から15年以上も経過しており、現在の世界ラグビーにおける変動と大きさを考慮すると、近年のルールブック等の構成や内容の変化は、あまりにも大きすぎるものがある。1995年、ラグビー競技では、アマチュア規定を撤廃しており、以後、世界各国でもプロフェッショナルのリーグ戦なども開催されて国の枠を越えて北半球、南半球ともに盛況である。この10年来の世界ラグビーを取り巻く周辺環境の変動は極めて大きい。わが国においてもトップリーグが開幕し、
日本ラグビー史上でも特に注目される動向が見られている。
4,31) したがって、今現在にいたるまでのラグビー競技のルール改正を変遷し、その意図するところを検討しながら、ルール自体に内在しているラグビーの基本的意志
(注2)について再考察することは、世界的にも普及、発展したスポーツ競技自体の発展過程について理解を深め、今後の世界ラグビーの競技そのもの、さらには
日本ラグビーのあるべき方向性を探求するためにも、有効な一資料となるものと思われる。
本編では、第二次世界大戦以降のわが国におけるルール改正の変遷について整理、検証し、今後のわが国ラグビーのスポーツ競技としての健全なる普及、発展の経緯説明のため、僅かながらでも寄与できるような一資料を提供することが主な目的である。
注1.1887年に設立。世界各国のラグビーユニオン間のトラブル調整や国際スケジュールの決定、さらにルールの検討改正など世界のラグビーを総括する機関の名称のこと。現在は、
イングランド、
スコットランド、
ウエールズ、
アイルランド、
フランス、南アフリカ、NZ、
オーストラリアの8ヶ国協会(ユニオン)で構成されている。
注2.ラグビーのルールに内在する基本的意志とは、イコールコンディションの獲得、ゲームの継続、そして安全確保の3つである。