メディカルコミッティ設立


 昭和63年7月(1988年)の理事会において「三地域協会における医療・医学に関する統括組織として、更に日本協会の正式の一委員会としてメディカルコミッティを位置づける」ことが認められ、初代委員長に高澤晴夫が、書記長に米沢博が就任した。特に、三地域協会におけるラグビーに関する医学情報の共有化と平準化を狙い組織化され、国際的なスポーツ医学の発展とラグビーの安全対策の急速な進化により、医学的アプローチの世界的交流対応などがメディカルコミッティの活動の基盤となった。
 特にIRBのルール改正に対するMedicalAdvisoryCommitteeの役割は大きく、1981年の「スタッド付きスパイクの禁止」は同コミッティの提言で初めてルール変更された。このMedicalAdvisoryCommitteeは1978年にIRBの正式な委員会として設立され、日本も1988年に演者として河野一郎(東京医科歯科大OB)が初参加し、1992年に日本は正式加盟国となり、現在15名(常任理事国12名、地域代表1名およびIRB2名)で構成され日本は理事国からの委員(河野一郎)として活躍しており、コミッティの基本的役割である現場での処置、アンチドーピング、文献収集、統計、感染症の対策等について各役員が分担して担当している。また同氏はIRB Anti-DopingAdvisoryCommittee(8名で構成)の委員としても大きな役割を担っている。
 1988年のルール改正(第6条A(7):注1)に伴い、競技区域内に入ることのできる医師、医務心得者の規定(わが国では医務心得者を新たに制度化する「メディカルサポーター」を以ってあてることを決定)が導入された。このメディカルサポーター制度新設に伴い、安全対策委員会の管掌として各地域協会医務委員会とレフリーソサエティの協力の下、認定制度として各地で講習会を実施し、講習会受講後認定書を渡すことにした。
 また、日本体育協会を中心とするアスレチック・トレーナー養成制度と現場からのニーズにより、ラグビー界でもトレーナー活動が重視されてきており、本メディカルサポーター制度と連携して、メディカルコミッティがその活動を推進している。
 現在、重症事故への取組みのなかでメディカル面においては脳震盪、頚髄損傷および熱中症が最大の課題であると考え、これらに対して他の委員会とともに多くの人的パワーを投入して取組んでいる。
 脳震盪を起こしたプレーヤーの措置等のルール改正に伴い、脳震盪の定義・取り扱い、報告様式の統一等、また出血しているプレーヤーに対する処置時の一時的交代(15分間)の規定についての医学的対応方法などの周知徹底を図ってきた。IRB定款第10条「脳震盪」に関する規定および脳震盪が起きたときの対処、報告や復帰についての詳細は協会HPもしくは機関誌Vol.56−1を参照願いたい。
 頚髄損傷については、事故発生起点となるスクラムの組み方やタックルについて他委員会とも合同で種々な研究や様々な取組みを行っているが、国際的にも未だ十分な予防策が確立しておらず、幅広い観点から更なる検討を行っていく。
 熱中症については、予防できる重症事故と捉え2003年のルール改正で「ウォーターブレイクの新設」でも理解できるように安全対策の観点からの措置であり、併せてウォーターキャリアーについてもプレーの時計を止めている間(トライ後およびグラウンド内での負傷者に対するドクターの処置時)の供給を認めた。
 また、マウスガードの装着についても医学的見地から推奨活動を展開し、平成17年度第85回全国高校大会出場選手の装着義務化を行い、平成18年4月よりすべての高校生の試合で装着が義務化となった。
 三地域協会の医務委員会を主軸に各都道府県での医務委員会の設置および委員会活動の整備・充実を図り、全国に完全設置されたのは平成6年であった。その後委員長は山田順亮、事務局長は岩本公和(慈恵医大OB)に引き継がれ、メディカルコミッティ総会時には各都道府県の医務委員長会議を併催して情報の共有化を図り、更には安全対策に関わる科学・情報部門やコーチ委員会とも連携強化を図り合同会議を開催し事故防止と安全対策面での提言を行ってきた。また、重症傷害(注2)のファイル管理等については密接な関係にある各地での安全対策委員会と合同で対応することなどが行われている。
 また、日本代表チームへメディカルコミッティより、ドクターとトレーナーを派遣する活動を継続的に実施している。現在、委員長に丸山浩一、事務局長に古谷正博が就任し、トップリーグ発足に伴うチームドクターとトレーナーの設置や試合中のピッチでの活動許可等の取組みを行い、オープン化された中でのメディカル部門のあり方を検討している。
 注1.第6条A(7):「競技区域に入ることが許されている医務心得者がプレーヤーをみている間でも、あるいはプレーヤーが負傷のためタッチラインの外に出ようとしている間でも、その負傷が軽度であればプレーを続けることができる。軽度の負傷が起きた際のプレーの継続は、レフリーが判断し、またレフリーはいつでもプレーを中断する権限を有する。」
 注2.平成18年度より重症傷害の定義が1.死亡例2.頭蓋骨骨折の有無に関係なく24時間以上の意識喪失を伴う傷害3.四肢の麻痺を伴う脊髄損傷4.開頭および脊椎の手術を要したもの5.胸、腹部臓器で手術を要したものに改訂された
写真・図表