JSRAが立ち上がるとすぐに、我々はシドニーに本部を置くスーパーラグビー運営会社SANZAARとの緊密な情報交換を始めた。新参者としての我々はスーパーラグビーチームの運営については何の知識も持ち合わせなかったため、一から十までSANZAARの手ほどきを必要とした。我々の要請や要望に対して、SANZAARは実に真摯に向き合ってくれた。しかしながら、SANZAARから投げかけられる課題や条件は実に膨大かつ深刻なもので、条件を全て満足させることがスーパーラグビーへの参戦にあたって義務づけられていた。一つ一つを
日本の現状につき合わせつつ解決していくという作業は永遠に出口の見えない暗闇を進むようなものであった。SANZAARからの要求を整理すると、概ね以下の7つのカテゴリーに分けることができる。
(1)代表レベルの選手層の獲得
スーパーラグビーへの参戦は、スーパーラグビー経験者を含んで、他チームと伍して戦える陣容を整えることが求められた。世界最高峰のプロリーグでは、各試合のコンペティティブネス(競争力)の保証は必須で、大量得点差が開く試合によってスーパーラグビーの価値が損なわれることをSANZAARは最も危惧した。具体的な対策として、チーム編成はジャパンの主力選手を中心に、世界の有名選手(マーキープレイヤー)を十分に確保し、既存のスーパーラグビーチームの戦力に見劣りしないチーム編成が求められた。
(2)世界トップレベルのプロ指導者の配置
JSRAの設立当初は、エディー・ジョーンズ氏がすでにサンウルブズのディレクター・オブ・ラグビーとして就任していた。しかしながら、辞任を表明してからは、ヘッドコーチの決定と発表するまでには時間を要し混迷を深めた。我々が奔走する中、元
ニュージーランド代表で、スーパーラグビーにおいて選手や指導経験のあるマーク・ハッメット氏がサンウルブズの初代HCを引き受けてくれた。
(3)活動拠点の整備
SANZAARのフランチャイズには、活動拠点が求められる。しかしながら、サンウルブズには専用の施設は持ち合わせておらず、JRFUと協議の上、辰巳グラウンドを拠点とすることに至った。辰巳グラウンドには、プレハブを併設させ選手のコンディションの管理も試みたが、サンウルブズの活動拠点の確保については、より良い環境が必要で、現時点でも候補地の選定に取り組んでいる。
(4)ハイパフォーマンスプラン(強化戦略プラン)の策定
サンウルブズの強化戦略プランの策定は、選手のハイパフォーマンスの維持向上を目的に、育成にフォーカスして長期戦略プランが作成された。同時にクリス・ウエッブ氏(元
オーストラリア代表ハイパフォーマンス・マネージャー)を採用した。現在同氏は、ジャパンも含めたハイパフォーマンス・マネージャーとして活躍している。サンウルブズはジャパンの強化という重責を担っていることから、サンウルブズの様々なリソースをジャパンと共有および連携することは、今後も積極的に取り組むべきであろう。
(5)JRFUによる財務保証
スーパーラグビー参入を決定する時点で、SANZAARにとってJRFU
日本協会の財務保証が大前提であった。JSRAはJRFUの傘下の事業という点で合意し、活動を開始した。
(6)シンガポールにおける開催試合の事業運営
ホームゲーム8試合のうち、3試合がシンガポールで開催される。この試合運営はシンガポールスポーツハブ(SHB)との協力による運営が求められた。この点においては、サンウルブズのホームゲームとはいえ、直接的に集客のためのプロモーションやマーケティングに関わることができなかったために、思うように成果を上げることがでず、2017シーズンの大きな課題として残された。
(7)既存の国内試合の仕組みの見直し
スーパーラグビーの参戦にあたっては、JRFU、トップリーグ、大学、高校といった全ての関係者の絶大な協力を得て取り組んできている。しかしながら、SANZAARからの条件は、
日本国内の既存のラグビーシーズンの試合構成の見直しに対しても言及された。これは、サンウルブズの選手たちの試合出場における環境整備が目的ではあるが、RWC2019の開催やスーパーラグビーへの参戦を契機に、国内シーズンの試合運営が変革期を迎えているとも言えるだろう。
以上のように我々がスーパーラグビーの開幕に向けて様々な課題に取り組んでいる最中、国内外のラグビー史に刻まれるであろう吉報が届いた。