上三川町デジタルアーカイブ

上三川の民話

きつね塚

昔ナ、上三川の上蒲生、今の日産自動車の近くかな
その辺は、森や林にかこまれて、追いはぎでも出て来そうなところでよ、小高い塚がたくさんあったんだト
その一つに、狐の夫婦が住んでいたので、村の人らはきつね塚と呼んでいたト

狐はナ、よく人をだまして面白がって悪さばかりしていたがナ
この狐は気持ちがやさしくとっても親切だったト
村の人が夜道を帰って来ると提灯さげて先に立ってくれたり、怪我した人を助けてやったりと、村の人らと仲良く暮らしていたんだト

八龍塚のあたり、今の役場がある南の方かな
そこに赤ん坊を取り上げる産婆さんがいたんだト
ある晩のことその婆さまの家の戸をたたく者がいて起こされたト
出てみるとナ、小雪の降る中、提灯さげた若い男が立っているんだト
「女房が産気づいた、悪いけど来てくれないか」と言うんだト

婆さまはいっぺんは断ったんだけどナ、おろおろしてる男の姿を見て、目こすりながら若者のあとついて行ったト
おかみさんははじめてのお産らしく、婆さまは腰をさすって励ましてやったト
だんだんと夜があける頃、やっと子どもが生まれたト
ぞろぞろぞろぞろ、なんと七人も生まれたト

おかみさんは泣いて喜んでナ
「助かりました、お礼の気持ちです」と紙包みをくれたト
婆さまは人助けだからと断ったんだがよ、無理やりふところにおしこまれたト

さて、七人も取り上げた婆さま、どこどう帰って来たやらわからず
疲れて疲れてぐっすり寝こんじまったト
昼近くになって目覚ました婆さま
「はて、あの辺は人の家あったかな・・」ともう一度小高い塚に行ってみたト
なんにもなかったト
それではと思ってふところ見ると包みの中に木の葉が二枚あったト
「あ、きつねにだまされたんだ」と思ったト

狐の夫婦はよ、人をだましたことを悪かったと思ったのか、住みなれた塚から移ったのか、それっきり姿を見せなくなったんだト

おしまい