明治のはじめ、今から百年以上も前のこと、北海道には二千頭とも、三千頭ともいわれるオオカミがいたのです。お話に出てくるオオカミはいつも悪者ですが、北海道のエゾオオカミもなかなかの悪者で、明治九年(一八八六)には日高の牧場をおそって、百頭あまりの馬を全滅させました。それでオオカミには懸賞金がついて、一頭十円にもなりました。明治十五年のことで、そのころの十円はいまの二十万円にもなります。ひろしまでオオカミのほえる声を聞いたのは、明治十六年十二月、移住の準備にきた和田郁次郎さんと仲間の二人でした。たくさんのオオカミのほえる声におどろいた三人は、背負っていた米、味噌、鍋などを捨てて、輪厚川のところまで逃げて火をたき、朝を待ったのでした。これらのオオカミも食べていたシカもいなくなり、人に毒殺されたりして、明洽二十年代には死にたえてしまったのです。いま北大の植物園内にある博物館の中に、明治十年札幌の白石と、明治十二年豊平でとれたエゾオオカミの剥製(はくせい)がおかれています。そんなオオカミがいたという百年前の札幌の姿をみなさんは想像できますか。