はじめて自転車にのった人【その壱】第十八話

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 自転車がいつごろ広島に入ってきたか分からないのですが、金子というお医者さんが、一番早く自転車に乗りはじめたのでないかと思います。それまでは金子先生が黒いマントを着て、馬に乗って往診にゆく姿をよく見かけたものです。それが自転車で行くようになったのは、大正のはじめころでしょうか。金子先生は昭和のはじめ、オートバイ一号に乗った方です。(明治四十二年広島に開業、昭和十五年に亡くなられるまで広島のために尽くされた方でした。)中谷完二(西の里)
 私が自転車屋をはじめたのは昭和十二年のことで、当時三戸さんが自転車店をしていただけでした。そのころ自転車はまだ高く、米一表(六十キロ)が十五円か二十円のとき、自転車は百円から二百円もしていました。谷口芳太郎(広島)
 大正時代自転車は値段が高く、なかなか買えなかったのです。自転車に乗った人といえば、金子頼太郎さん、戸木田宏さん、和田完吾さんくらいだったと、村の古い人は語っています。それでも便利な自転車は数が増えて、広島のまつりには競馬のかわりに、共栄の旧校舎(広島尋常高等小学校)グランドから今の東部小学校のグランドのあるところにわたって自転車競争があったそうです。赤や青のきれいなシャツを着て走る自転車競争は人気があったといいます。