汽車を止めたマツケムシ【その弐】第十六話

45 ~  / 80ページ
 
 昭和三年だったと思います。あちこちにマツケムシが出て困ったことがありましたよ。マツケムシは、カラマツの葉を食べるのですが、畑にまで出てきたんです。石橋(本家)の小麦の茎をわたって倒し、中に入ってくるので、畑の外側に溝を掘り、溝に入ったマツケムシの上から、ワラなどを燃やして殺しましたよ。ヒサン鉛をまいたこともあります。上野幌では、マツケムシが線路の上をわたって、一時汽車がとまったということです。マツケムシはたくさん出た次の年は、あまり出ないものなんですね。
(富ケ岡 石橋豊次郎)

 私が上野幌駅につとめたのは、この地にはじめて北海道鉄道がついた大正十五年のことです。それから二年たったときのこと、マツケムシが出て、汽車が止まったことがありました。長い時間ではなかったんですが、あのときは驚きましたよ。私たちは、ただケムシと言っていました。
(広島 谷口芳太郎)

 汽車を止めたマツケムシは、駅をはさんでカラマツ林の片側の葉を食べたマツケムシが別なカラマツ林に移るためだったんですね。昭和三年七月五日、四分から十一分まで、数回汽車が停車したと、『西の里小学校七十五周年記念誌』に書かれています。
(西の里 高橋喜一郎)