親戚の息子で、俺と同じで馬好きがいたの。それが調子悪かったか知らんけど、その好きな馬に蹴っ飛ばされて死んでしまったんだ。馬を憎んでもどうもならんけど、その馬を持って行ってくれって親父が言われてね。ぶん投げて殺してもいい、金なんていつでもいいからって。葬式終わってから、その馬を連れてきたわ。
暗闇に見たら、俺に向く馬だもな。
蹴って人殺した馬だって看板背負った馬だけどな、そったらもん何でもないってよ、俺は三年も四年も使ったよ。大事にしたんだからな。
札幌に毎日その馬で通ってたら、札幌の連中には見れば欲しがるやつもいて、ここへ馬喰と二人で出たり入ったり出たり入ったりして、売って欲しいというわけさ。
荷物積んで札幌まで行ってた馬なんだ。二条市場の方まで道路もみんな覚えてるしね。今みたいな道路でなく、砂利道のところ四時間もかけて行くんだ。月寒の上りだって行くんだから。
馬喰の息子で、俺とたいして変わらんやつが買いに来た。
「この馬、誰それ殺した馬でないか」って言うから、「この野郎、俺は投げるんでねえんだからな、なんくせつけて買うんなら止めれ」って言ったんだ。「ばくれ」とかも言われたけど、「値段で売ってやる」って言ったんだ。ばくるなんてそんなもの好きでないんだ。値段で売るってんなら腹いっぱい取る気になるもんな。一〇〇円だったら一五〇円も取るぐらいの人間だから。俺は絶対おろさないって。
それで良いとか悪いとか一日相手になって、とうとう俺も売った。
親父も「売れ」って言ったんだ。「これだけ責められてな、おまえ、後からなんかあったってろくなことねえ。笑われるから、腹いっぱい取ったら売れ」って親父言うしよ、売ってやった。
その馬が、売って一ケ月もしないうちに、また飼い主を蹴って怪我させたって。
その父親が、俺が他の馬で札幌に通ってるところをつかまえて文句言うからよ、「ばかな、俺は隠して売ったんでねえんだから、分かって買ったんだから、くたばろうと蹴られようとすったらこと関係ねえ」ったんだ。
病院に入ってるっつうから、ざまみれったんだ。
そういう癖があるんだ。俺はそういう悪い癖は、絶対人に見せない。値打ち下がるから。俺はそういう主義だから。この馬手触り悪くないかとか、この馬荒くないかとか言われたって、いやなんでもねぇって言うんだ。
佐々木の兄貴の馬なら安心して手出せねぇって、ここにいた連中みんな言ってるもの。