奉公に出る

168 ~ 169 / 204ページ
 
 その札幌の姉の家でね、弟子はひとりさ、私ひとり。私ひとりであとね、義理の兄貴の親戚。親が死んでしまって義理の兄貴が面倒みるあれだったのかな。九歳の時に引き取ってさ。弟子にするつもりで面倒見とったんでないかな。
 
 一七、一八、一九、二〇まで、札幌の姉の家に奉公にでたんだけどね、徴兵検査まで四年間。普通五年間の弟子入りということなんだけども、私は四年間で。
 そして私もその頃は欲も付いてるしさ。で、仕事習うのに対しても、仕事はとにかく誰の為にやるんじゃない、自分の財産になるんだからというね、気持ちを持ってきたでしょ。だからね、自分はこうだと思ったら夜の夜中でも起きてやったもんです。そして勉強して叱られるでしょ。「俺はね、研究をするためにするんだからね、かまわんでおいてくれ」って、こう言ったの。そしたら、それ言ったらもう何にも言わなかったね。
 で、四年間で徴兵検査を受けたの。
 
 私も徴兵検査が済んだんだし、自分の身の為なんだから、これから後はね、自分の働き方によってね、財産っていう物を作っていかんきゃならないんだからというね、希望が出てきたでしょ。でもね、小遣いも何にも貰えないの。
 買えなくてずっと履いてるから、足袋がボロボロになるの。昔は足袋だからね。それで足袋くらいは、自分で買うための仕事ないかなと思ってね。気が付いたのが新聞配達さ。これ朝早いでしょ、それを三年やったの。隠れて三年やってさ、その年になってね…私もいい馬鹿だったよな。満足に銭こ貰えないの。お金持って逃げちゃったの。その配達の一番上の人が。泣きっ面に蜂さ。
 一ケ月は貰ったの。だけども一ケ月や二ケ月分は貰ったんだけれども、約三年やったその分は、結局逃げられちゃったまんま。