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郷土かみしばい
大曲東通りの馬頭さん
1
「兄ちゃん、このお地蔵様、かわいい顔しているね。」
「これが、かわいいってか!手何本あって、オレきもちわるい。これ お地蔵様じゃないぞ。たしか、じいちゃんは馬の神様だっていってたけど・・・。」
「えっ 兄ちゃん、これが馬の神様!!」
2
実は、この兄弟のおじいちゃんがまだ若者たった頃のお話です。仲間と4人で札幌のお祭にでかけていった帰り、にわか雨がふってきました。
3
若者たちは、雨宿りのため石屋さんの軒下にとびこみました。ふと、足元を見ると雨ざらしの石の像がおいてありました。
「ご主人、何ですか?この像は。」
「これは、馬頭さんだよ。ちょっと鼻が欠けて売り物にならないんだよ。よかったらもっていってもいいよ。」
4
4人の若者は、思わず顔を見合わせました。そして、村の畑で一生懸命働いてくれている馬のことを思いだしていました。
4人は、声を合わせて「おれたちの村にください。」と叫んでいました。
5
当時、大曲の水田や畑の作業には、馬が活躍していました。
車のない時代、重い物を運ぶにも、遠くに出かけるにも馬が頼りでした。
6
「オレたちの馬の守り神だぞー。」
若者たちは心で叫びながら、馬頭さんを大切にコモでくるんでもらって、交替で、もっこのようにかついで夜道を急ぎました。
うれしくて、ちっとも重くなんかありません。
7
「子馬が丈夫で育つように」
「ウチの馬の病気が早く治りますように。」
「早く、こっこ馬が生まれますように。」
村の人達は、皆この馬頭観音にお参りにくるようになりました。
8
秋まつり、一年の収穫を祝っての感謝のまつりです。馬はきれいな鞍をつけてもらい、赤や黄色の服を着た騎手が、あちこちから集まってきました。
9
草競馬が始まりました。村中の子どもや大人の応援に、走る馬、いななく馬、ムチをふるう騎手、みんな大騒ぎです。
10
一等になった馬は、首に優勝のガラカケをつけてもらい、馬主のおじさんは誇らしげに馬の首をたたいてほめてやりました。
馬頭観音様の前は、おそなえ物が一杯。心なしか、観音様もほほえんでいます。
11
しかし、時がたち、農作業はトラクター、運搬は車がとってかわり、すっかり村には、馬の姿がみえなくなってしまいました。
12
「兄ちゃん、観音様寂しそうだね。」
「そうだな、馬がいなくなったからな。だけどじいちゃんは、この神様は村の守り神だっていってるぞ。馬が守ってくれたということは、人も守ってくれたということなんだと。」
「ふーん。」
「さあ もう帰ろう。暗くなってきたね。」
13
空には、一番星がまたたきはじめました。
その時、白い馬が二頭、真っ白いしっぽをなびかせ、遠い山なみのかなたへ走り去っていきました。」
おわり