大蛇神社

1

 このお話は、九十年(2018年現在:一二〇年)ほど前、つまり 広島の村ができて十才頃のお話です。
 そのころの広島は、大きな木や草が、あたり一面におい茂っていました。

 
 
2

「えいっ!」カーン カーン
「メキッ、メキッ」 ズシーン
 大きな木や草を切り倒し、乾くのを待っては火をつけて燃やし、作物を作るための土地を 広げていくのです。
ですから そのころは、草木を燃やす火けむりが、あちこちに立ちのぼっているのが見られました。
 武右エ(之?)門さんという男(ひと)も、毎日陽がのぼるよりも早く起き出しては、木を倒したり土地をたがやしたりしておりました。

 
 
3

 この武右エ門さんの家の近くに、大きなタモの木が生えていました。
それはそれは大きな木で、大人が四人、大きく手を広げてつないでも、かかえられない位い大きい木でした。
 年をとりすぎていたせいでしょうか、その木の中側は、からっぽになっていました。
何しろ あんまり ばかでかい木でしたので武右エ門さんは、その木に手をつけずに、まわりにいらない木や竹や、葉っぱなどをつみ重ねておきました。

 
 
4

 ある日、武右エ門さんは、そのつみ上げた葉っぱなどを燃やすことにしました。
「パチパチ」
「ボーッ」
火のはぜる音がして、赤い炎が立ちあがりました。
「パチパチ」
「ボーッ」
その火は、それから なんと、昼も 夜も、一週間も、もえつづけたのです。

 
 
5

 火は、まだ もえつづけています。
そんなある夜のこと
武右エ門さんの寝ているまくらもとに、しっとりとぬれた目をした、とても美しい娘が悲しそうな顔で立っていて こういうのです。
「火を消して下さい。」
「火を消して下さい。」
武右エ門さんは びっくりして とび起きましたが、娘は消えてしまいました。

 
 
6

 つぎの日の夜
今度は つかれはてた顔をした娘が現れて また、
「火を消して下さい。」
「火を消して下さい。」
とたのむのです。
三日目の夜
髪の毛がすっかりぬけ落ちてしまい、老婆のようにかわりはててしまった娘が、武右エ門さんに必死になって訴えるのです。
「火を消してください。」
「どうか 火を消して下さい。」

 
 
7

 そして最後の夜には
娘はとうとう白骨となってしまった姿であらわれ、武右エ門さんに一生懸命たのむのです。
「火を消して下さい。」
「お願いですから 早く火を消して下さい。」
武右エ門さんはハッと気がつきました。今まで赤々ともえ続けていた火柱の炎が、四日目ごろには、青白くかわってしまったこと、タモの木の根元から紫色の脂が流れ出していたのを思い出したのです。

 
 
8

 武右エ門さんは、タモの木の所へ急いで行ってみました。
武右エ門さんは、もえ残ったタモの木に はしごをかけて 中をのぞきました。
そして びっくり!あやうくはしごから 落っこちるところでした。
なんと、そのタモの木の中には、大きな口を天にむけて、とぐろをまいた一ぴきの大きなヘビの白骨化した死骸があったのです。
「夢の中に出てきた娘は、この大蛇の化身だったにちがいない。知らないこととはいえ、とんだことをしてしまった!」
武右エ門さんは、この骨を家に持ち帰り、一生懸命おまいりをしました。

 
 
9

 その話を聞いた近所の人たちも 蛇のたたりをおそれて、やけ残ったタモの木のそばにみんなで力を合わせて 小さなほこらを作って死んだ蛇の霊をなぐさめました。

 これが後に大蛇神社と呼ばれるようになり、おまいりをする人もたくさんいたということです。
 しかし今から六十年(2018年現在:九十年)ほど前、広島が大洪水にみまわれて、大蛇神社もすっかり流されてしまい、お話だけが、語りつがれて 残っているのです。

おわり


《補足》
 その後、平成十年九月に神社があったとされる土地の所有者により、「大蛇神社跡」の石碑が建立され、現在に至っている。