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郷土かみしばい
みち
1
広島県を一ヶ月も前に出発した 十八家族 二十五人はようやく目的地にたどりつくところでした。
「おーい、もうすぐだ!仮小屋が見えてきたぞー」
「おーっ、やっと着いたか、明るいうちでよかったなー」
「ここだ、ここだ、よかったー、去年の暮れに建てもんで心配じゃった。まず 仮小屋でひとやすみしてくだされ!」
それは わたしたちの町 広島町のできる最初の日の明治十七年五月二十三日のことで、今から百年以上も前のことです。
2
大きな木に囲まれた 小さな仮小屋を見て驚いた子供は泣き出しました。
「ねぇ、おかあちゃん、このお家で寝るの・・・ねぇ、帰ろ! 帰ろうよ!!わーん 船に乗ってじっちゃんたちのいるところに 帰ろ」
「今さら何を言い出すの?ここがおかあさんやあんたの住む所なのよ。今日からはここで暮らすのよ」
「なんにもないよ なんにも・・・木ばっかり・・・」
「そう 立派な木だろう。土地がよく肥えているからなんだよ。いい畑ができるぞ!今にな、ここに町ができるんだ。さぁ!元気を出して木を集めて、たき火を始めよう!」
3
「とうとう 来たなぁ北海道へ、とうとう」
「広島県はどっちだ!そうか!おらたちの広島はこっちにあるのか」
「おじぃちゃーん」
「おばぁちゃーん」
「北海道に着いたよーっ」
「なんにもないよーっ」「かえりたいよーっ」
「あたいもかえりたいよーっ」
「帰りたいなんて言っているのはだれだ、ホラ月だ、月が出たぞ!ここで見る月も内地で見る月もおんなじだ、きっと内地でも見ているかもしれんぞ、泣きっつらしていると、あのお月さんに写って 内地のみんなに笑われるぞ」
4
そのとき森の動物(シカ)たちは、
「お おい見たか!」
「みた みた! どえらいさわぎじゃ」
「人間がだんだん入り込んで 開拓されちまったら、おれたちの安全なすみかがなくなることになる これは一大事だ!」
「そう困るわ、思い切り走られなくなるの?」
「何でも三年以内に畑にすると、自分のものになるんだってよ」
「心配いらんて!なーに雪が降ってくりゃ人間どもは逃げ出すさ!北海道の寒さと雪を見りゃ 一目散ってわけ!そうすりゃ 又わしらの天国じゃ それまで、見物 ケンブツ」
5
翌日からは木を倒し、笹を刈って畑を開くことと、札幌に残してきた荷物を運んだりすることでした。
でも、仮小屋からの道は、人が歩くのにようやくだったし、遠回りも多く、山道にはおおきながけがあってとっても危険でした。
大きな荷物を運ぶのは大変な苦労で、雨が降ると登れなかったりケガ人が出るしまつです。
冬が来て雪が降ると、薪を売りに行かないと 北海道の長い冬は暮していけません。
それで、馬も通れる道を作ることになりました。
6
「おい おいきいたか」
「きいた きいた アホか 人間という動物は、道を作ってあのガケを通るんだってよ!」
「おれたちも通られない あのガケをさー」
「まるで、命を投げにいくようなもんだ」
「そうよ ようよ、あのガケをとおれるのは とり(カラス・ワシ)だけよ それも 空からね、カァー カァー」
「まあ どうなるかみていようぜ!」
「人間達が、あきらめて帰ると 又おれたちの森さー」
畑が広くなるにつれ、森の動物(シカ)たちは少しずつ山奥へおいやられていくのです。
7
それから、みんなで道作りにも精をだしました。
大きな川には、川の側に立っていた大木を川にまたがすように切り倒し、縦に二つに切ると立派な橋になりました。
その橋を、一本橋と呼びました。
8
大きく曲がりくねった川には、二つの橋を作りました。
橋を渡って又すぐ橋を渡るので みんなは二本橋と呼び始めました。
9
うっそうと茂った山にはいると、どっちに道をつけていいか方角がわからなくなってしまいます。
そこで、道を作るずーっとさきのほうで太鼓を叩くことにしました。
方角が分からなくなると「おーい どっちのほうだ」とあきかんをカーン カーンとたたくと、ずーっと先のほうから ドーン ドーン「こっちだぞー」ドーン ドーン「きこえるかー」と太鼓がひびきます。
カーン カーン ドーン ドーン と木を切り倒し笹をかきわけ何日も何日もかかりました。
10
出来上がりに近づくころは、もう雪がちらつき冬がきました。
「さあ 最後に残った大きな岩だ」
「これを動かせば道ができるぞ」
「おらたちの道、札幌とおら達の村をつなぐ道だ」
「さ、みんなで さいごの大仕事だ」
「よーし、みんなたのむぞー」
「せいの!」
「せいの!」
「よいやさ!」
「よいやさ!」
「それおこせ!」
「それおこせ!」
「それひけ」
「それひけ」
おとなも子どもも汗だくで頑張りました。
岩はガラガラと音をたてて落ちていきました。
11
それから一週間たちました。
今日は、札幌へ向かう一番ぞりの出る日です。
「ハイヨーッ」
威勢のいい掛け声で 山積みにした馬そりは動き出しました。
馬の首の鈴は シャンシャン シャンシャンと快くひびきます。
村の人たちは その鈴の音が聞こえなくなるまで見送っていました。
その道は今の 広島 大曲の道です。
おわり