絵本大変記

[絵本大変記]

[君か為をしからさりし命とは地震津波に出合ぬ人]

[序文]

[明畑の仮屋の軒をもる霜に都てや子供の尻は冷つつ]

[ゆる迚も起してくれる人はなしなか/\しよを獨案じる]

[田子にみ豆いれて城下へ出て見ればたヽ丸焼の灰はふりつつ]

[やまも岩もくつれておつる大地震はけしかれとは祈らぬものを]

[潮江の河原に出ておく荷物しろ/″\と見れは大汐のなみ]

[恩をしそあみ数々のあまの命とられし浪に見れば拾ふて]

[わがいへはほりたつばしらしかも騰ま地震によきとひ柳もいふなり]

[浪の心直りにけりといふうちもむたひ七度ゆらぬよそなき]

[本の家に移りにけれないふもののわが身おもへは寐られこそせね]

[妻や子か汐と火事に別れては命有るやと又泣もかな]

[わかからたいつも汐干て有ものを地震のかけのはらに満けり]

[哀ともいふべきひとは死うせて身にほどしらぬ破我ぞ残れり]

[潮江にわたせるはしの中程であかきを見れば余ほど焼けり]

[土佐なだは遍ろふ道へ汐が来てまづおとまりとしばし留めん]

[其時は死ぬ覚悟にこ屋をたち踏あらしたる麦をしぞおもふ]

[ふた親を野に負ひ出して介抱す我身ばかりに雪は降つゝ]

[這わかれ小高坂山の峯に出る汐干と聞ば早帰り来む]

[思ふへは今機織りてなにかせむ綿は高ふてあはんとそおもふ]

[ゆるからに数人々の死ぬれば安うりにして逃んとぞおもふ]

[此度は負つかたひつ提さして人におくれな逃よとぞいふ]

[源のきれて流れぬいづみ口苗代水にこまるかといふ]

[春雨の降夜淋しさまさり鳧人魂も出りや幽霊も来ぬ]

[浦家屋の軒による浪よるならて夢ならなくに人や流れん]

[汐こぬといふてもきかす逃たよとたゝ子供等をづきそ福ふ]

[心あてに逃しやにらむ機屋にもおり捨て有しら糸のくだ]

[あた呼ひになるともしらす大汐と麓の町へふれる高声]

[山道は去年の地震に岩こけてたちんもあはぬ物と成鳧]

[誰もかもしる人そなき宝永の汐のはなしに記録出しつゝ]

[其已来また大ゆりと人毎に乕の住居にすむよしもかな]

[冬の日は唯ゆりなから明ぬれと春めきもせて家やめりつく]

[白粥の釜をかけたる大手筋取巻人を餓鬼かとそ思ふ]

[わらはるゝ事はおもはす飛ひ出ん人よりも我命をしけれ]

[ゆすらるゝ身をはおもはす近付のうたれて死るこゑそかなしき]

[立出るかならす家内残人声に汐こんとわめいて逃る]

[木に敷れ焼る人こそかなしけれ我身計の事にあらねど]

[わか家は汐干/\に見ゆれとも人の住居のなるよしもかな]

[弟来て焼たる跡を尋れば只兄姉の骨そ残れる]

[北風に棚曳火事の絶間より逃出る人の影の黒さよ]

[高岡も町の家蔵さけにけり其侭にしてたてすも有哉]

[床下に汐満来ればかれきすこ鱧鯵も来てさより/\と]

[思ふゑはまた此頃も恐ろしやうしと見しよの大地震かな]

[我家は戸島の沖へ流されて潮見えたりまた隠れたり]

[浪のおと絶て干塩(底)に成ぬれば津浪恐れて山の間に/\]

[百鋪や古き軒端は崩れても人の命の有ぞ目出たき]