工事に先行する本調査は、平成三年三月一二日から六月三〇日まで実施された。北側に傾斜する崖面であることから、土層を記録しつつ一部階段状に掘り下げを行った。セクションの観察によって、この傾斜地という特殊な状況での土層堆積の特異性が明らかとなった。すなわち、東側では各層の層厚が全体に薄く、谷頭に近づくにつれて標高が下がっていくとともにこれが厚くなり、層の特徴が明瞭に現れるようになるというものである。こうしたことによって、立川ロームの自然層が通常の台地上でのそれと同じように現れてくるのは、西側三分の二ほどであり、東側のグリッドでは特に第一黒色帯が肉眼では認められず、また第二黒色帯もⅦ層とⅨ層に区分できないという顕著な特徴があった。そこで複数の層をひとまとめにして、独自の名称で呼ぶこととした。すなわち第二地点では、第一地点と共通するソフトローム層(Ⅲ層相当)を第1層、以下、上からハードローム層(Ⅳ~Ⅵ層相当)を第4層、第二黒色帯(Ⅶ~Ⅸ層相当)を第5層、Ⅹ層相当の層を第6層と呼ぶこととした。各層からナイフ形石器、スクレイパー、ドリル、角錐(かくすい)状石器等を含む比較的多量の石器、礫が出土し、石器ユニットや礫群、炭化物片集中も認められた。特記すべき資料としては、第4層を確認面とする大形の土坑である。北半分が北側道路によって失われていたが、平面形は直径約三mの円形を呈していたものと考えられ、深さは約一・二m残存する。ナイフ形石器、石核、使用痕のある剥片が覆土内から発見された[図1-16]。
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図1-16 鈴木遺跡農林中央金庫研修所北側道路地点 |