本調査は予備調査の終了から二年後に、調査対象範囲の中央を東西に走る仮設道路の移設にあわせ三区に分けて実施された。Ⅰ区は平成七年五月一日から八月二五日まで、約一九〇m
2のほぼ全面をⅥ層上面まで、一部ⅩⅡ層まで掘り下げた。この地点ではⅤ層から良好な石器ユニットが発見されたため、調査を中断して標本の作製を行った。Ⅲ区は九月六日から一〇月六日まで、約一六〇m
2を対象に、ほぼ全面をⅤ層上面まで、一部Ⅶ層まで掘り下げた。Ⅱ区は一一月二一日から一二月六日まで、約一七〇m
2を対象に、全面をⅤ層まで掘り下げた。調査の結果、Ⅰ区Ⅴ層中の石器ユニットは、中央に平坦な面を上に向けた台石と考えられる大形の礫が、その両側には叩き石があり、この台石と接合する礫片とにはそれぞれ研磨した面が見られる。台石の周辺には比較的大形の剥片が散在し、台石と離れるに従って剥片は小形になる傾向がある。また台石を取り囲むように馬蹄形の遺物の見られないゾーンも存在する。周辺の剥片のほとんどは同一母岩の緑色凝灰岩(りょくしょくぎょうかいがん)である。これらの同一母岩資料の中に先端部を欠損したナイフ形石器と、その先端部とが離れて出土しており、さらにこの二点は七点からなる接合資料に含まれる。またナイフ形石器の主要剥離面に対して左側の基部から打面にかけてのブランティング〔刃潰(はつぶ)し加工〕は完了していないことが観察される。これらのことから、この石器ユニットは単一の緑色凝灰岩の母岩を剥離し、ナイフ形石器を製作する作業が一回のみ行われた石器製作址であり、製作の最中に先端部を誤って欠損させてしまったために、製作途中の石器が遺棄(いき)されたものと考えられる。また台石を取り囲むように見られる無遺物ゾーンは作業者の座る位置を示すものと考えられる。この調査地点は、遺跡の中心部に比べるとわずかな人間の活動痕跡を示すものではあったが、石器製作工程をとどめたきわめて貴重な資料を提供するものとなった。この石器ユニットは剥ぎ取り標本を作製し、鈴木遺跡資料館での展示資料(図中破線の範囲)とした[図1-19]。
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図1-19 鈴木遺跡あおぞら福祉センター地点 |