小平-というより武蔵野の台地の畑作地帯の特徴だと思うのだが-の農業のひとつの特徴は、明確な農閑期がなかったことである。陸稲は五月中旬に播(ま)く。刈るのは十月である。陸稲を播いたあとはさつまいもの植付で、これはツルをじかに刺す。収穫は九月の彼岸すぎである。五月半ばには、畑の境に植えている茶の葉をつむ。出荷する場合もあるが、自家用の茶をホイロ茶でつくる家も多かった。六月後半からは麦刈りが始まる。麦は十月下旬に大麦を播き、次に小麦を播く。この五月から九月までの間に、二回ないし三回の養蚕が入る。五月五日の節句がすむと一気に休みなしの農事暦がはじまる。六月から夏休みまで、それに合わせて小学校の授業も昼までだったという。こうした農業についての詳細は第四章で述べるが、多少ひまな時間をもてるのは二月頃だった。それでもこの時期には麦の手入れがある。