回想の少年時代

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 系譜学では、一世代の目安を三十年とすることが多いが、家業の継承などにおいては、しばしば一世代二十五年が目安とされる。いずれにせよ一世代の目安は二十五年から三十年ということになろう。
 大正時代の半ばから同末期にお生まれの方々が、現在、小平において「古老」と位置づけられる世代になろうと前述した。これはあくまで、この『小平市史』の調査に基づく実感的目安であるが、この世代を基準としてそれより一世代後、昭和二十年前後に生を受けた方々は、子どもから青年へと育っていく時期と、小平がめまぐるしい変化をとげていく時代とがほぼ重なる世代ということになる。年齢的にいえば現在六十代半ばから後半にかけての方々になる。実は、聞書きでお世話になった方の最も若い世代は、この世代でもある。
 ここでひとつの資料を示すことにする。昭和二十年生まれの上水本町におられるある男性の描かれた絵である。
 彼は平成十二年十二月に一歳下の弟を亡くされたが、それ以来、自身の幼少期から少年期にかけての暮らしを記憶をたどって絵に書き始めた。これは亡くなった弟への思慕の念からごく自然に描き始めたのだが、ある時期は憑(つ)かれたように夜が明けるまで描き続け-元々絵を描くことは好きだった-家族が心配するほど集中していたという。平成二十三年五月現在でその絵は四百枚近くになっているが、まだこの作業は続けられている。

図1-22
思い出の中の風景。「家の庭での梅ぼしほし」本文参照

 記憶をたどって書かれてはいるものの、必ずしもすべてがそのまま往時の暮らしを語る資料として利されるものではない。たとえば雑木林の中で遊ぶ子どもたちを描いた絵には、満開の桜と実をつけた栗の木が一緒に描かれている。これは雑木林の豊かさが、季節を越えてシンボリックにあらわされているのだが、往時の暮らしを写実的に伝える意図を第一義として描かれたものではないだけに、こうした絵柄のものもある程度含まれているし、また回想画以外の絵柄も散見する。ただ、記憶にもとづいて描かれている絵は、圧倒的に彼の幼少時から十代半ばまでのものが多い。それだけに往時を探る資料となりうるものもまた多い。
 ここでとりあげるのは写実性の高いと思われる絵のなかのひとつで、かつての同家の屋敷とその周辺を描いたものになる。ただ、この絵を写真としてそのまま示しただけでは描かれている個々の事象が判じにくいため、図柄をなぞったものを二種類作成し、それに即しての聞書きで補って往時の暮らしの一端を述べてみる。