つづらの中の帳面

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 ここでは大沼町の一軒の農家に伝わる昭和十二年の「金銭出入覚帳」(以下「覚帳」と略す)から、かつての農家の現金の動きをとおしての暮らしをみていきたいと思う。この資料を見せてくださったのは同町の大正八年(一九一九)生まれの男性であるが、この覚帳自体はその父親がつけていたものになる。同家の父親の代は九町歩ほどの土地を持っており、畑だけでなく田も一反ほどあり、家の食べ量は作っていた。
 父親は家の経営の記録を厳格につけていたという。財布はいつも戸棚の定まった場所-昔の家で押入れがなく、二段になった戸棚の上段の左に置いてあるつづらの中-に入れてあった。父親は毎日野良仕事で真っ黒になって戻ってくると、まず風呂に入り、それから戸棚の中から財布を出してその中の残高を確認し、自分の知らない出費などがあると必ず家族に聞き、節約を説き、その上でこの金銭出納帳をつけていた。そのためこれは今から七十年ほど前の小平の一農家の一年間の現金の収支をみるのにかなり信頼性の高い資料になろう。ただ残念なことに現存するのはここで紹介する一冊のみであり、あとは焼却されたという。なお、この当時、同家の家族構成は記録者夫婦に子どもは七人。それに、作代、女中、子守の奉公人を雇っていた。
 以下、この「覚帳」を見せて下さった大正八年(一九一九)生まれの方からの聞書きをあわせて、この「覚帳」をみてみよう。