軸としての蚕

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 この時代の多くの農家の経営の主軸は養蚕であった。同家の九町歩ほどの土地のうち六町歩が桑畑だった。自宅から遠い前沢分、久留米分、そして昭和病院のあたりの畑に桑を植えており、自宅に近い畑にはさつまいも、麦、野菜などを作付していた。養蚕を含めてどのような換金物があり、それがどれほどの収入をもたらしていたのか、その詳細を示したのが表2-5である。その中には、今からみれば意外な換金物も当時の農家の経営の一端を支えていたことがわかる。そしてその換金物が同家の農家経営上、どれほどの割合を占めていたのかを、表2-6及びグラフに示した。なおこの年の収入の総額は三千百七十七円十四銭である。この金額にはお祝金や小作料などの入金は入っていない。
 
表2-5 換金物の項目ごとの入金明細表(表2-1と同資料より作成)
入金項目取引先他摘要時期入金額小計項目毎の入金総額
赤芽芋信濃屋赤芽芋3駄が金額大赤芽芋1月
芋の子八丁〓市場信濃屋が取引大きい他6、8月
芋の芽馬橋市場16円15銭
里芋信濃屋9俵3月18円45銭
大麦前沢野村5俵24円20銭
孟宗竹 真竹竹は小金井の清水へ孟宗竹40本 真竹15本9月竹は30円也
椹の残金椹は下新井二上鶴吉へ椹(さわら)の木2本の残金8月椹2本は55円
杉の残金個人杉の残金6月
枯杉、折木、立木枯杉、折木2本、立木1本5月杉立木50円160円50銭
柏枝柏枝12本4月
当麻、大久保へ2駄 + 3駄4月4円50銭
甘薯信濃屋
小金井の平野信濃屋
立川□二竹印22俵他30円80銭1 / 15
 8駄32円1 / 9
 10駄39円1 / 23
16俵21円40銭3 / 12
竹21俵 梅2俵32円10銭3 / 25
竹 7駄 梅2俵32円90銭3 / 26
 15俵2円50銭4 / 18
花2俵 1円20銭4 / 18
15俵25円4 / 19
花2俵1円4 / 16
15俵25円50銭4 / 22
梅1俵、15俵36円40銭4 / 24
13俵 梅1俵 外7俵 = 21俵31円15銭4 / 28
(計149俵 + 25駄)328円95銭信濃屋328円95銭
小金井の平野
5駄18円50銭12 / 27平野18円50銭
立川□二
 竹10駄 梅2俵 花2俵44円40銭3 / 20
 竹6駄 梅2俵 花2俵27円60銭3 / 22
 竹5俵 梅1俵 花1俵23円30銭4 / 6
 竹20俵 花3俵33円13銭4 / 12
 15俵 梅1俵25円70銭4 / 18
 15俵25円4 / 18
70銭4 / 18
(69俵 + 16駄)179円83銭
(甘薯売り総量218俵 + 46駄)立川 179円83銭527円28銭
草箒保谷 岩崎市太郎草箒12,270本(@1銭7)208円59銭4 / 18209円59銭
草箒屑1円
209円59銭209円59銭
牛蒡埼玉漬物屋  10〆1円50銭3 / 29
  5〆75銭6 / 30
( 15〆 )2円25銭2円25銭
小麦
小川 加藤肥料屋3等26俵 4等8俵 等外甲29俵574円58銭7 / 22
中村岩吉小麦種4〆目2円50銭9 / 18
柳窪 浜崎多十郎小麦7〆4円29銭12 / 12
小麦えいな4円50銭7 / 15
(63俵 + 11〆目 + 外)585円87銭585円87銭
作物の芽?柳窪 浜崎多十郎41把3円1 / 23円也
養蚕東京社
春蚕繭
  53〆220匁239円49銭6 / 20
  2番蚕 本繭22貫650目101円92銭6 / 22
 80〆位の残金 東京社35円4銭7 / 16
  75910匁売上げ残金66円36銭9 / 10
(玉繭、中繭、選下)全部37円7銭
  (約100貫以上はある)479円88銭
(上記の売上げ総量?1〆付4円50銭なので割ると約106貫の収量はある479円88銭
初秋蚕
  本繭61貫256円20銭8 / 30
初秋蚕繭 撰下 4〆目100目9円43選8 / 22
繭 中屑 4〆200目7円77銭8 / 22
繭 玉3〆300目5円60銭8 / 22
繭 屑650目70銭8 / 22
(68貫 + 1318目 = 69貫 + 318目)279円70銭279円70銭
晩秋蚕
 後繭8〆300目33円20銭9 / 10
 玉中イリ下13円90銭9 / 14
繭29〆150目、2等1〆目当り4円45銭12円31銭9 / 20
繭渡し 2等1〆に付4円31銭諸経費差引残金2円34銭9 / 20
(37貫 + 450目 + α)61円75銭61円75銭821円33銭
桑の代金    7駄分4円7 / 14円4円
大根
大根
 大根10ハ外蓮草など3円24銭9 / 183円24銭
沢庵
埼玉漬物屋 沢庵 2樽8円20銭3 / 25
 沢庵 3樽12円5 / 3
小平漬物工場 漬物109〆400目+8〆900目9円15銭12 / 2029円35銭
干大根
豊田金之助 干大根 2反5畝売約定金30円9 / 13
豊田金之助 干大根 2反6畝の残金240円12 / 20
国分寺2回、府中1回 干大根 計 1624本41円37銭12 / 20
組合 早生干大根 11年度出荷15円40銭7 / 31
326円77銭359円36銭
秋津の機械生茶屋茶  6〆960目2円43銭6 / 8
共同売り生茶60円14銭6 / 4
夏芽生茶残金10円30銭7 / 28
72円87銭72円87銭
馬鈴薯埼玉玉一15俵(1俵に付き1円70銭)25円50銭1 / 25
西荻肉屋2俵 + ? + 2俵 計4俵 + ?7円80銭3 / 15 , 29
4 / 26
信濃屋20俵 + ?34円50銭4 / 18 , 22
高庄大中53 + 小玉7俵64円80銭8 / 11
馬橋の夜市8籠3円96銭
新馬鈴薯12〆 + 馬鈴薯25俵22円15銭7 / 1 5 / 14
124俵 + 12〆 + 8籠158円71銭158円71銭
八丁〓市場10本 + 10本 + 15本50銭 + 40銭
+ 45銭
8 / 14
ズイキ八丁市場20本 + 20本 + 10本60銭 + 60銭
+ 50銭
8 / 22
八丁〓市場55本1円8 / 24
ズイキ芋の子八丁〓市場20本 + 20本70銭 + 50銭8 / 25
20本 50銭8 / 29
200本5円75銭5円75銭
バカ(※)八丁〓市場2箱70銭8 / 24
馬橋市場一山1円26銭7 / 22
国分寺市場一山20銭8 / 11
八丁〓市場2山 + 2箱 + 2箱3円60銭8 / 14、23.
2箱×3 = 6箱2円10銭8 / 26. 28. 29
7円86銭7円86銭
トマト国分寺市場、八丁市場、2 + 3籠 + 1籠 + 2山 + 2山1円 + 1円 + 1円 + 40銭 + 1円10銭 + 50銭8 / 11. 18. 22, 2. 26. 28
八丁〓市場5円5円
別(?)八丁〓市場計 965ケ34円71銭8 / 14. 18. 23. 25. 26. 27. 28. 29.34円71銭
ミツバ杉並市場ミツバ、牛蒡、蕗、八つ頭5円12銭5 / 2
田無 海老沢ミツバ種1石2斗5升43円70銭12 / 12
ミツバ90銭9 / 15
49円72銭49円72銭
 
換金作物収入総額3177円14銭※バカとはミョウガの別称。どんな畑でも生えるので、そう称した

 
表2-6 換金物の項目別入金額(表2-1と同資料より作成)
表2-6
換金物のみの収入合計金額は3177円14銭 ※野菜=牛蒡、ズイキ、バカ(ミョウガ)、トマト、ミツバ、野菜の芽など

 この一年間の収入のなかで、百円以上の売上げのあった換金物とその売上金額を高い順にあげてみると、①養蚕(八百二十一円三十三銭)、②小麦(五百八十五円八十七銭)、③さつまいも(表中では甘薯、五百二十七円二十八銭)、④大根(三百五十九円三十六銭)、⑤草箒(ぼうき)(二百九円五十九銭)、⑥竹(孟宗竹、真竹)、木(杉、椹(さわら))(百六十円五十銭)、⑦じゃがいも(表中では馬鈴薯、百五十八円七十一銭)となっている。最も大きな割合を占めるのは養蚕で、その収入総金額は八百二十一円三十三銭であり、これに要した経費は蚕種と手間賃などで合計七十八円四十二銭。入金の一割弱である(表2-7)。養蚕収益が同家の全収入の中で二十五パーセントを占めている。
 
表2-7 養蚕に関わる経費(表2-1と同資料より作成)
費目と小計
単位は銭
項目摘要(内容と数量)経費月日
消毒
627
ホルマリン三封度69銭(5 / 5)
消毒費1円50銭(6 /31)
石灰石油缶3つ1円89銭(7 /13)
石灰3袋1円59銭(7 /13)
ホルマリン三封度60銭(7 /28)
蚕種代
3990
蚕種是政の大久保眞平より購入
春蚕種100g代(15円)、
初秋蚕種100g代(14円)
29円(9 / 3)
蚕種(同上)晩秋蚕種78g10円90銭(10/ 9)
用具
1060
折簇10把5円(5 /30)
蚕筵8把の内金1円(5 /24)
蚕筵80枚代8円(6 /24)
ハトロン紙蚕座用 200枚2円60銭(7 /13)
手間賃
1348
春蚕掻賃クラ、フミ2人分2円23銭(6 /28)
ヒキ拾い賃ヒキ拾い1人分60銭(6 /30)
繭の掻き賃セキ、ノブ2人分1円29銭(6 /30)
秋桑摘み賃及びヒキ拾い賃当間セキに支払
ヒキ拾い1人半分支払
2円23銭(8 /28)
ヒキ拾い賃ハツへ一日分60銭(8 /30)
桑繭の掻き賃タカに2円27銭(8 /30)
茶・繭の掻き賃寺前に茶・繭の掻賃共4円26銭(8 /30)
組合費
217
養蚕組合費組合費及郡時別組合費2円?2銭(10/18)
養蚕組合費15銭(10/ 9)
78円42銭
※?の箇所は読解不能のため推測で補った数字であり、ここの計はそれを前提としたものである。養蚕の収入は総額 821円33銭
養蚕の出費は総額 78円42銭
※蚕種代が3390銭と養蚕の経費の中では最も多い。

 養蚕は、年に春蚕、初秋蚕、晩秋蚕の三回飼育しており、そのなかでは春蚕の収量が一番多い。次いで初秋蚕で、最も収量の少ないのは晩秋蚕になる。春蚕は百貫強の収量で四百七十九円八十八銭の収益であった。初秋蚕は、六十九貫強で二百七十九円七十銭、春蚕の六割弱の収繭(しゅうけん)量になる。翌年分の準備のための蚕種の購入量は春蚕、初秋蚕の双方とも、百グラムである。同じ量の蚕種を掃きたてても、春蚕の収繭の量がはるかに多いし、質も春蚕の方が良かった。晩秋蚕は七十八グラムを準備していて、春蚕、初秋蚕よりもその掃きたての量は少ない。収量は約三十八貫で収益は六十一円七十五銭、春蚕の八分の一の収益であった。蚕のマユの出荷先は「東京社」という名前が記されている。