農家としてのつきあいの出費

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 農家が農業経営から不動産経営に主軸を置くようになって以降も、つきあいのかかわり方は、かつての農家のつきあいがそのまま生きている。年間の出費のなかで、まず考えておかなければならないのが菩提寺(ぼだいじ)への寄付や、冠婚葬祭といった出費である。とくにつきあいにかかる出費の額は、そのつながり方による。つながりが近ければ近いほど出費の額は大きい。小平では例えばある家の娘が嫁に行き、亡くなった場合は香典の額は嫁の実家の親元が一番多く出す形になる。だから農家の跡をつぐ長男は大きな出費を覚悟しなければならない。それに初七日、納骨、法事が続いていく。仮に五人姉妹がいて、みな嫁にいったとすれば、結婚式、そして出産、こどものお祝いごとなどそうしたことに皆、嫁の実家が対応することになる。嫁入り先に見合う対応を嫁の親元はしなければならない。それができなければ嫁いだ娘が一生肩身の狭い思いをすると親は心配する。昔から格が違う家とは姻戚関係を結ぶものではない、といわれていた。
 家計を預かる者は、そうしたつきあいに出費しなければいけない額を念頭に置いてのやりくりが必要になる。農家とは、自分たちが食べなくてもしなくてはいけないつきあいがあるという。ここでいうつきあいとは、村内でのつながりのある家々とのことである。「両どなり、向かい」がわを、とくに近隣の中でも大切にしていて、冠婚葬祭は町の長老と共に、とくに世話になる。他に組ごとに何軒がずつサシバと呼ばれる関係があり、互いに支えあうことになる。組の中で大切に守ってきている関係であり、本家が継いでいく習わしだ。それが現在も続いている。しかし、その家の長男が勤め人の場合は割り切って農家とは違ったつきあいになるという。それでも組のなかのつきあいのシステムは変わらない。
「昔は畑のなかに熊野様がぽつんと建っていただけ。今は建物ばかり。ここに嫁に来て六十五年、こんなに変わるとは夢にも思わなかった」と彼女は昔を振り返った。