かつての主婦にとって裁縫(さいほう)といえば、着物の新調よりもその多くが縫(ぬ)い直しと繕(つくろ)いものであった。それは往時は着物や布が貴重であったという理由のほかに、頻繁に縫い直しを行える着物の仕立て方にあったことが大きい。人の体型に合わせた立体裁断でミシン縫いした洋服に比べ、和服は、反物の布を直線に裁断して身頃(みごろ)や袖部分の大部分を直線で縫い合わせて仕立てられた。縫い目を解(ほど)き身頃や袖などを解いて洗濯板で洗いハリイタ(張板)に干す。これを洗(あら)い張(は)りというが、手縫いの糸なので簡単に解くことができ、解くと布は方形のあつまりになる。その方形の布を洗ってフノリをつけてハリイタに張って干した。この洗い張りで干す方法はその後のアイロンもいらず、洗濯機で洗うよりは、はるかに布地は傷まず長持ちした。そのため布は和服のほうが徹底して使いこなされた。二枚一組のハリイタは裁縫の裁ち板と合わせて持参する女性の嫁入り道具のひとつであった。嫁ぎ先には先代、先々代の分の少なくとも五、六枚のハリイタはあったし、その裏表に干せたのでたいていの洗い張りはそれで間に合った。薄物(うすもの)は伸子張(しんしば)りを使って干した。また農閑期は布団の綿も打ち直さねばならず、布団側も同様に洗い張りをして縫い直した。畑仕事が一段落する冬場は洗い張りに精を出した。こうした洗い張りをして縫い直すことは、洋服が一般化するまでは日常的なことであった。