奉公と仕着せ

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 他家に住込みで奉公する話は大正生まれの方々の時代の話の中に出てきたが、もうひとつ、見習い奉公というのがあって、大きい農家の娘が嫁入り前に上流家庭で女性としての教養を身につけるというもので、普通の奉公と違って「お屋敷にいく」といういい方をしていた。そこで針仕事なども身につけた。
 「仕着せ」という言葉がある。主人から奉公人に季節に応じて与えられる着物のことをいう。かつて雇われて奉公に行く際の雇人契約書のなかには、奉公する契約期間、賃金の額、払い方などの他にお仕着せの衣類が何かを記したものが少なくない。お仕着せには着物、股引、半天、前掛、足袋、帯、手拭、ワラジなどの名前が記されている。その家の主婦は家の者だけではなく奉公人の着物の心配りもした。帯や足袋は買って与えたが着物はその家の主婦が縫うこと多かったであろう。正月には新調した着物をお仕着せに渡したので、その家の主婦は秋から冬場にかけては仕事の合間をぬって針仕事に専念した。大きな農家では着物の仕立てを頼むこともあり、女性は着物の仕立てで手間賃を稼ぐこともできた。お仕着せの条件は雇われる側にとっては魅力であった。
 
表4-2 奉公と仕着せ(「廻り回新田 斉藤家奉公人請状一覧」より作成)
廻り田新田斉藤家奉公人請状一覧
請状年奉公人・被雇人(年齢)雇用期間給金(給料)仕着せ外
天明2野中新田 藤助(不明)1年1両3分(3分前渡し)夏単物1、冬木綿袷1、股引1、草鞋掛1
天明2奈良橋村 半六(不明)1年1両1分木綿袷1、股引1、草鞋掛1
文化7鈴木新田 源次郎(不明)1年3両夏単物1、冬木綿袷1、股引1、草鞋懸1
文政6鈴木新田 なみ(不明)1年1両3分2朱夏単物1、冬青梅縞袷1、帯1、前懸2、ゆもし、足袋 等
文政9小川新田 ちよ(不明)1年2両夏単物2、冬木綿1、前掛ケ2、ゆもち、足袋、手拭 等
文政9拝島村 源次郎(不明)半季1両2分木綿袷1、股引1、草鞋懸1
文政10小金井村 馬の助(不明)延長1年(欠)(欠)
文政11上連雀村? ちよ(不明)1年2両2朱夏もふか木綿単物1、冬地織木綿袷1、前掛ケ2、帯1、ゆもし、足袋、手拭 等
文政12小金井村 ちよ(不明)1年2両夏もふか木綿単物1、冬残留袖袷1、前掛ケ2、帯1、足袋、手拭
文政12鈴木新田 文蔵(不明)1年3両ト5匁「御仕着ハ無之御約束」、草鞋1
文政12鈴木新田 たみ(不明)約4ヶ月1両木綿袷1、帯1、前懸2、ゆもし1、足袋1、手ぬぐい等
文政13小川村? とめ(不明)1年1両3分2朱夏単物1、冬木綿袷1、足袋1、前懸ケ2、帯1、ゆもし1、手懸ひ(ママ)等
文政13小川村? 房次郎(不明)1年2両2分「御仕着ハ無之御約束」
天保2小川新田 房次郎(不明)1年3両2分「御仕着通りハ不残可被下御約束」
天保3二本木村 太吉(不明)1年3両夏単物1、冬木綿袷1、股引1、草鞋懸ケ1
天保5大沼田新田 とめ(不明)1年2両カ夏単物1、冬木綿袷1、足袋、手拭 等
安政2廻り田新田 いき(不明)1年1両1分夏単物1、冬袷1、そのほか小物 等
安政3廻り田新田 伊三郎(不明)1年4両夏単物1、冬袷1、そのほか小物 等
安政6宅部村 松(直カ)吉(不明)1年5両(記載なし)
安政7小川新田 市五郎(不明)1年4両2分「単物計り三つ。其他小物等一切無御座御約束」
万延2秋津村 ひで(不明)1年2両夏単物1、冬袷1、そのほか小物 等
文久3鈴木新田 よね(不明)1年2両2分夏単物1、冬袷1、そのほか古手衣類、帯1、小物などは前掛2・足袋・手拭・下帯
明治7堀之内村 大野幸吉(21)1年13円(10円前渡し)(記載なし)
明治11深大寺村 斉藤初五郎(15)2年10円[給料借用]年々、木綿単物2、木綿袷1、木綿半天1、もゝ引・足袋1づつ
明治11戸倉新田 清水庄五郎(48)1年[水車方出稼]30円(記載なし)
明治12鈴木新田 荒畑辰五郎(25)1年[水車男]30円(記載なし)
明治12溝口村 中村きち(14)3年8円木綿縞単物2、木綿縞袷1、そのほか賄ひ
明治13関村 木下才次郎(不明)1年[水車男]20円50銭(記載なし)
明治20廻り田新田 山田仙蔵(19)1年[作男]16円木綿袷1、木綿単物2、股引1、わらんし掛1、足袋1、三尺帯1下タ帯、そのほか小物、賄ひ
明治21深大寺村 ゆき(20)1年[雇婦]10円糸入木綿袷1、木綿縞単物2、白太織1反、木綿半天1、上帯、下帯、足袋、手拭、ほか賄ひ
明治21廻り田新田 ふで(16)1年[雇婦]5円太織半天1、糸入単物1、木綿単物1、糸入袷1、木綿半天裏(?)1、下帯、そのほか賄ひ
明治22戸倉新田 坂本紋三郎(18)1年[雇男]14円木綿嶋袷口、木綿縞単物1、木綿縞長半天1、木綿半天1、股引1わらんじ掛・足袋1足つづ、三尺帯、下タ帯、そのほか小物通り
明治23深大寺村 ゆき(21)1年[雇女]10円木綿縞袷1(裏京花上等付ケ)、糸入単物1、木綿単物1、木綿縞半天1、下帯、前掛、下駄、足袋、そのほか小物通
明治23世田谷村 軽部音松(23)1年[作男]27円(記載なし)
明治23小金井村 鴨下奥次郎(17)1年[農業手伝]13円50銭(記載なし)
明治24車返シ村 その(18)1か月[養蚕手伝その他]2円50銭(記載なし)
明治24車返村 モシ(不明)1か月[養蚕手伝その他]2円50銭(記載なし)
明治24鈴木 細谷宇之助(不明)1か月[養蚕及び農業手伝等]4円20銭(記載なし)
明治24小金井村 ふじ1か月[養蚕手伝その他]2円30銭(記載なし)
明治25西府村本宿 関根つや2年金6円夏単物2、冬木綿袷1、ほか木綿上ハ帯・前掛・元結油等まで御賄下さる筈、26年度前同断、ほかに木綿半天1、小物等一切前同断
明治25車返村 ソノ・モン1か月各自金3円宛(記載なし)
明治27廻り田 チカ(18)1年[雇婦]8円白糸入万筋単物1、木綿并縞単物1、太織縞袷裏京花中等1(ただし半□繻子)、木綿竪縞半天1、帯片面皮削太織白1、ほか小物賄ひ
明治29大沼田 仙蔵(26)1年[作男]28円(記載なし)
明治30大沼田 仙蔵(27)1年[作男]33円50銭(記載なし)
明治30武蔵野村字新橋 トコ(18)2年[雇婦]30円仕着料1ケ年に4円ツヽ(□8/15渡しの約)
明治31廻り田新田 筆吉(16)1年[農業手伝]11円(記載なし)
明治33廻り田新田 春吉(16)1年[農業手伝]12円単物1、袷1、半天1、小物、マカナヘ
明治33府中村 (記載なし)1年[農業手伝]12円単物*、袷1
明治34調布町下布田 とき1年[雇婦]18円袷1、単物2、半天1、上下帯1ツ宛1ツ、小物、マカナイ
明治34廻り田新田 筆吉(20)1年[作男]40円(記載なし)
明治34廻り田 富蔵(15)1年[農業手伝]10円単物2、袷1、股引1、ワラジガケ1、ほか小物、マカナイ
明治35廻り田 春吉(18)1年[作男]33円ワラジガケ1
明治36稲城村字百村 キヌ(13)2年12円単物2、袷1、上下帯、小物、賄ひ
明治36堀野中 リウ(17)1年[雇婦]22円単物2、袷1、上帯(ただし片側唐縮緬)、ほか小物、賄ひ
明治36小平村字回り田 富蔵(16)1年[農業手伝]17円単物2、袷1、股引1、ワラジガケ1、ほか小物、賄ひ
明治36府中町本町 朝次郎(19)1年[作男]23円単物1、袷1、股引2、ワラジガケ1、ほか小物、賄ひ、髪結とも
明治37廻り田 冨蔵(17)1年[農業手伝]25円(記載なし)
明治37廻り田 重平(19)1年[一季作男]40円(記載なし)
明治38廻り田 金太郎(18)1年[作男]30円(記載なし)
明治38廻り田 冨蔵(18)1年[作男]30円股引1、わらしかけ1
明治39廻り田 冨蔵(19)1年[作男]35円モヽシキ・ワラジカケ1足ツヽ
明治40小金井村貫井 イシ(19)1年22円合仕着、賄ひ
注1)改元年であっても、年号表記は史料記載に従った。
 2)人主・請人等の村名は、奉公人・雇われ人と異なる場合に限り記入した。
 3)[雇用期間(年季)「給金(給料)」[仕着ほか]の記載は、史料上の表現を尊重した。
ただし、[壱季]を「一季」などのように一般的な表現に改めたり、意訳して記載した部分もある。また仕着の単位は基本的に省略した。