味噌作りの季節は五月か六月、作った味噌が暑い夏を通り、酵母菌が発酵促進することが大事で、冬の季節には仕込みは行わない。味付けは塩だけである。味噌、醤油を仕込む日が決まると、その日は一家総出の仕事で、午前四時頃から起きて準備を始める。直径一メートルもある大きな味噌樽にいっぱいになるまで蒸した大豆を臼で潰していれるのだが、味噌樽いっぱいにするには、十~十五臼分くらい搗いた。
この蒸した大豆を臼で搗くのがとにかく大変であった。杵で潰す作業の間、一方ではムシロの上で味噌の仕込みの麹作りである。麹は一時間もしないうちになじんでくる。オオガマ(大釜)に大きな羽釜をかけて湯を沸かす。その上に三段のセイロを載せ、そこに大豆を入れて蒸す。蒸しあがると臼に入れて杵で荒搗きをし、そこに小麦の種麹を入れてすっかり混ざるまで搗く。蒸した大豆は餅つきと違って糯米のように粘らないが、餅を搗く方がはるかに楽だった。それほど大豆を搗く杵が引き上がらなかった。麹もよく混ざったところで最後に塩を入れる。ひと臼終わると臼から取り上げてバケツに入れ、大きな仕込み樽の中に仕込んでいく。それが一日続く。この工程を十回から十五回繰り返すと味噌樽いっぱいになる。そこでやっと終了である。仕込み樽に入れた味噌は半年から九か月はそのままにして発酵させた。
夏を通ると仕込み樽の味噌の表面はまるで板が載ったように厚いカビの層を作る。空気に触れたカビの層はやがて厚さ七、八センチほどにもなり、その厚いカビの層で密閉状態になった味噌樽のなかで味噌は発酵が進んでいく。仕込んだ味噌は三年経つと食べられるが、五年、十年たつとさらに美味しくなり、二十年、三十年と年数が経ったものはさらにまろやかな味になるという。なお、醤油は味噌つくり同様に仕込み、ひと夏通して次の年の春の三月か四月には昭島の業者に頼んで醤油に絞った。