苗床

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 戦前から戦後にかけての農家のさつまいもの栽培技術から収穫までを、回田の農家の昭和二年生まれの男性の方の聞書きを中心に述べる。苗床の温度管理から畑の土質の設計、栽培技術の作付時期、その方法、また出荷までの保存貯蔵、そうした技術体系はすべて体験で把握され、その実践は実際に携わる人の勘によってすべて行われてきた。そしてそれは各家固有に伝承されてきたものである。
 さつまいも作りは苗床作りから始まる。当時の品種は金時だけで、現在のような紅小町や紅あずまといった品種はなかった。苗は前の年に収穫したさつまいものなかから種いもを選んでおく。その種いもを発芽させるには、三十度から三十五度の温度が必要である。発芽時期を三月のお彼岸の頃を目安にさつまいもの苗床を作る。三月のお彼岸の時期といえばまだ寒い。現在は苗床を温めるのに電気を使う。そうしたものがなかった時代は、苗床はワラで囲いこみ、そのなかに庭の落ち葉をかき集めて踏み込む。その落ち葉が発酵して出す熱を利用して苗床を作った。そのワラ囲いの苗床の深さは五十センチから七十センチ。ワラ囲いをした空洞の深さの倍ほどの量の落ち葉を入れ込み、山のように積み上がった落ち葉の上から次々に足で踏みこむ。そこに米糠や水やワラなどをかけ、それらが落ち葉と混じり合うようにさらに足で踏み込む。苗床が温もってくる。米糠は二十五、六度位の低い温度で発酵する。その米糠の熱で落ち葉も発酵が進む。苗床に入れる米糠は落ち葉の量の一割五分から二割くらいである。多すぎると熱が高くなり過ぎ、それもまた良くない。米糠を入れた後に下肥をかける。糞尿に含まれているタンパクが発酵するため、人糞も発酵源になる。