収穫後、出荷までの間は穴蔵に貯蔵した。さつまいもは冷たいところでの保存は適さない。貯蔵保存に適していたのが穴蔵である。地下四メートルくらいの穴蔵の地熱を利用した温度は年間を通してほぼ十六、七度。この温度がさつまいもの保存には最適の温度環境だという。さつまいもは、寒いところでも、暑いところでも腐りやすいという敏感な作物である。この穴蔵はさつまいもの貯蔵庫であるだけでなく養蚕時の桑の貯蔵にも使い、真夏になっても十六度の温度を維持しているので夏にスイカを入れて冷やした。この農家が戦前出荷したさつまいもの値は、一貫目(=約四キロ)十二から十四銭くらいだったという。同じ神田市場でよその家のさつまいもの値はそのほぼ半分で、それほど価格に差がついていた。さつまいもの質も良かったが、その上荷作りの仕方が良心的であることでも評価をされていた。出荷するさつまいもの容器にもひと工夫があった。丸い米俵を四角く折って立ち上げ箱型に作り替えて芋を入れ出荷した。箱型俵の包装容器を美しくして、付加価値を高めた。一つの箱型俵にはいもを八貫目、約三十二、三キロ入れた。その米俵は多摩川沿いの稲城村の稲作農家から買ってきた。芋の出荷用のビニール袋や麻袋もなく使ったのは米俵だった。運搬包装容器として、またさつまいもの苗床の発酵材としてもワラは必要だった。当時は米俵は近隣のむらのどこに行ってもあり余った状態で一枚五銭か十銭くらいで、入手できたという。