はじめに試作したキュウリは、大きく育つ品種のものを大きくならないうちに収穫し出荷したのだが、それではキュウリが軟らかすぎ、モロキュウリの品質とは全く別の物だった。品種が全く違ったのである。周囲にモロキュウリ栽培をやる人がいなくて教えてもらえるところがなかった。埼玉県三郷市早稲田のある農家では、この特殊な品種のモロキュウリを作っていた。そこに出かけ収穫が済んで、商品にならない曲がって放っておかれた何本かのうらなりのキュウリをいただいてきた。普通一本のキュウリに四十個くらいの種が入っている。この曲がって使いものにならないキュウリには一本に二つか三つくらいしか種が入っていない。大事に持って帰ったポケットの中の何本かのうらなりキュウリから全部で二十三粒くらいの種が取れた。その種を蒔いて、大事に育てた。その種から最初の年には六本の芽が出たという。これで種の準備ができた。モロキュウリはビニールハウスの苗床に一月十四日に種を蒔き、蒔いて一か月で苗を移植した。苗を育てたら、四月には収穫ができる。年間、三回か四回の種の蒔きつけができ、季節的には九月中は栽培できた。収穫したモロキュウリは築地市場へ出荷した。モロキュウリ栽培は彼が従来の農業から一歩ふみだし模索したはじめての仕事だった。それから彼のモロキュウリの右に出るものはいないといわれるまでに十年かかった。市場で彼のモロキュウリは千二百円の最高値がついた。