そして、一口に神社といっても、江戸時代の神社は今の私たちが思い浮かべるものとは少し様子が異なることにも注意したい。江戸時代に創建された神社のなかには、もともと寺院境内のなかに建てられ、寺院なのか神社なのかはっきりしなかったものが結構あった。そして、明治時代に政府の方針で神社と寺院を明確に区別するようになってから、現在のような姿になったものも多いのである。
表6-1は、戦前の神社行政の資料をもとに、明治から戦前までの小平市域の神社をまとめたものである。それによると、この資料が作成された明治十年代には三十五社あったことがわかるが、そのなかには今ではもう見られなくなった神社も含まれている。神社の数が減った理由は、明治末年に実施された神社政策の影響である。当時、維持運営に困難な神社は近隣の神社に合祀することが奨励されており、このとき小平ではNo.9の天神社がNo.1の神明宮へ、No.12の稲荷神社がNo.11の金刀比羅神社へ、No.19の庚申社がNo.13の熊野宮へ、No.21の諏訪神社がNo.20の武蔵野神社へ、No.27の稲荷神社がNo.23の稲荷神社へと合祀された。また、No.1神明宮では、境内にあったNo.2~8の小社を合同の社殿にまとめた合社の例もある。このように、小平市域の神社は時代を経ていろいろなかたちで祀られてきたのである。
表6-1 小平市内の神社一覧 |
No. | 神社名 | 鎮座地 | 社格 | 祭神 | 由緒 | 社殿間数・建物 | 境内坪数 | 備考 (合祀等) | 氏子戸数 |
1 | 神明宮 | 小川村 上宿北側2573 | 村社→郷社 (明17・2・8) | 大日霊女貴命 | 当社は其先当国西多摩郡殿ヶ谷村鎮座式社阿豆佐味天神社の摂社として当郡岸村之内字神明ヶ谷に鎮座せり、然るに故有りて小川村に遷し、寛文元年辛丑歳目今の地を距ること200間北に創建し、同村の鎮守とす、後22年を経、天和元辛酉年9月、現今の地に再遷す、蓋し参拝の便を謀ると云ふ、尓来沿革なし、明治6年5月村社に列す、同17年2月郷社に列す。 | 本社(間口8尺、奥行1丈) 拝殿(間口5間4尺、奥行3間3尺) 華表1 狛狗1 燈篭5 | 900坪 | ― | 230戸 |
2 | 八雲神社 | 同上 | (境内社) | 健素佐雄命 | 天和元辛酉年9月創建 | 間口6尺・奥行9尺 狛狗1 | ― | 八雲神社・八幡神社・春日神社で合社(明41・7・17許可、明41・9・1届) | |
3 | 八幡神社 | 同上 | (境内社) | 品田別命 | 天和元辛酉年9月創建 | 間口3尺5寸、奥行4尺5寸 | ― | 合社同上 | |
4 | 春日神社 | 同上 | (境内社) | 武甕槌命 経津主命 | 天和元辛酉年9月創建 | 間口3尺8寸、奥行4尺8寸 | ― | 合社同上 | |
5 | 秋葉神社 | 同上 | (境内社) | 不審 | 不審 | 間口4尺、奥行6尺 狛狗1 | ― | 稲荷神社・秋葉神社・白山神社・熊野神社で合社(明41・7・17許可、明41・9・1届) | |
6 | 白山神社 | 同上 | (境内社) | 菊理姫命 | 不審 | 間口2尺5寸、奥行2尺8寸 | ― | 合社同上 | |
7 | 熊野神社 | 同上 | (境内社) | 伊弉諾命・伊弉冉命・倉稲魂命(別殿) | 不審 | 間口2尺5寸、奥行2尺8寸 | ― | 合社同上 | |
8 | 稲荷神社 | 同上 | (境内社) | 大山祇命 倉稲魂命 埴安姫命 | 天和元辛酉年9月創建 | 間口2尺5寸、奥行3尺5寸 | ― | 合社同上 | |
9 | 天神社 | 小川村 下宿南側 | 無格社 | 軻遇槌命 菅原道真公 大巳貴命 | 寛文7丁未年の創建にして旧来同郡芋久保村神職石井氏なるところ、明治元辰年以来より本村神職宮崎氏になる。 | 本社(間口6尺、奥行9尺) 拝殿(間口2間、奥行9尺) 華表1 | 158坪 | 神明宮に合祀(明42・1・27許可、明42・4・15届) | 信徒28戸 |
10 | 日枝神社 | 小川村 上宿中嶋303 | 無格社 | 大山咋命 | 当社は東京府下麹町日枝神社の御分霊にして往昔当郡小川村開発の際故有て遷座し、万治2己亥年目今の地を距ること55間西に鎮座し、一村の鎮守同様崇敬致来候処、其後94年を経て宝暦元年未年8月大風にて神殿破損致し、同5乙亥年12月現今の地に再建、以来今に至て村民帰依の神社にて万延元庚申より永代神楽資本金を供へ、年々祭典懈怠無く執行致来り候。 | 間口2間、奥行2間半 花表1 燈篭1 | 283坪 | ― | 120戸 |
11 | 金刀比羅大神→ 金刀比羅神社 (明37・6・7) | 同上 | (境内社) | 金山彦命 | 天保元年庚寅年10月創建 | 間口3尺、奥行3尺5寸 | ― | ― | |
12 | 稲荷神社 | 同上 | (境内社) | 倉稲魂命 埴安姫命 | 宝暦5己亥年12月創建 | 間口2尺5寸、奥行3尺 | ― | 金刀比羅神社に合祀(明42・1・21許可、明42・1・29届) | |
13 | 熊野宮 | 小川新田 下組南側361 | 村社 | 伊弉諾尊 伊弉冉尊 事坂男命 早玉男命 | 当社の儀は宝永甲申年9月創建にして従前西多摩郡殿ヶ谷村式社阿豆佐味天神社ノ摂社として当郡岸村字岸組某の地に鎮座の所、故有て当村に遷霊し、当村の鎮守と定め、自来沿革なし、明治6年5月村社に定めらる。 | 本社(間口8尺、奥行1丈) 拝殿(間口5間、奥行3間3尺) 石鳥居1門 石燈籠3 | 168坪 | ― | 83戸 |
14 | 一本榎神社 | 同上 | (境内社) | 不審 | 不審、古老の口碑云ふ、武蔵野広漠たるに唯此の榎の中天に聳るありて従来の標準を為せり、当村開闢の後、猶蕃茂し日光を遮ること200間余、村民為に農事を妨けらるること不断と云ふ、寛保甲申年無故して枯木となる、由て祭て一本榎神社と云ふ。 | 記載なし | ― | ― | |
15 | 八幡宮 | 同上 | (境内社) | 応神天皇 | 不審 | 間口1尺5寸、奥行2尺 | ― | ― | |
16 | 稲荷社 | 同上 | (境内社) | 倉稲魂大神 | 文久酉年9月勧請 | 間口1尺2寸、奥行1尺8寸 | ― | ― | |
17 | 白山社 | 同上 | (境内社) | 白山比咩命 | 不審 | 間口1尺5寸、奥行2尺 | ― | ― | |
18 | 天神社 | 同上 | (境内社) | 菅原道真公 | 不審 | 間口1尺、奥行1尺5寸 | ― | ― | |
19 | 庚申社 | 小川新田 下組南側 | 無格社 | 猿田彦命 | 当社の儀は享保15庚戌年勧請、但自来沿革なし。 | 間口6尺、奥行9尺 | 1.5坪 | 熊野宮に合祀 (明40・2・18許可、明40・3・18届) | 記載なし |
20 | 武蔵野神社 | 野中新田 中与右衛門 組善左衛門 組461 | 村社 | 猿田彦命 | 不詳、明治4年10月村社に列せらる。 | 本社(間口5尺、奥行5尺) 拝殿(間口4間、奥行3間) 華表1、石燈籠2 | 252坪 | ― | 90戸 |
21 | 諏訪神社 | 野中新田南 | 無格社 | 健御名方命 | 不詳 | 間口4尺奥行5尺 拝殿(間口9尺奥行2間) | 113坪 | 武蔵野神社に合祀 (明41・12・17許可、明42・5・8届) | 58戸 |
22 | 稲荷神社 | 野中新田 善左衛門組 御上水南423 | 村社 | 倉稲魂命 | 不詳、明治4年10月村社に列せらる。 | 本社(間口7尺奥行5尺) 拝殿(間口2間3尺、奥行1間3尺) 華表1 石燈籠2 | 293坪 | ― | 24戸 |
23 | 稲荷神社 | 鈴木新田 下分382 | 村社 | 稲倉魂命・大巳貴命・太田命・大宮姫命・保食命 | 未詳 | 本社(間口1間半、奥行2間) 拝殿(間口4間、奥行3間) 木華表1(開1間半、高2間) 石燈籠1(座石3尺四方、高1間半) | 150坪 | ― | 90戸 |
24 | 白狐社 | 同上 | (境内社) | 未詳 | 未詳 | 梁間3尺、桁間2尺 | ― | ― | |
25 | 清神社 | 同上 | (境内社) | 速素戔鳴尊 | 未詳 | 間口3尺、奥行2尺 | ― | ― | |
26 | 金刀比羅神社 | 同上 | (境内社) | 金山彦命 | 未詳 | 本社(間口1間、奥行1間半) 拝殿(間口2間、奥行1間半) | ― | ― | |
27 | 稲荷神社 | 鈴木新田 上分 | 村社→無格社 (明38・3・2) | 稲倉魂命・大巳貴命・太田命・大宮姫命・保食命 | 未詳 | 本社(梁間1間、桁行1間) 拝殿(間口3間、奥行4間) 木華表1(開7尺5寸、高9尺) | 300坪 | 下分稲荷神社に合祀 (明42・10・27許可、明42・11・24届) | 16戸 |
28 | 白狐社 | 同上 | (境内社) | 未詳 | 未詳 | 梁間2尺、桁行2尺 | ― | 削除許可 (明38・3・2) | |
29 | 須賀神社 | 同上 | (境内社) | 速素戔鳴尊 | 未詳 | 間口2尺、奥行3尺 | ― | ― | |
30 | 稲荷神社 | 大沼田新田 東京道南134 | 村社 | 倉稲魂命 | 不詳 | 本社(間口4尺4寸、奥行3尺5寸5分) 拝殿(間口3間、奥行2間) | 406坪 | ― | 50戸 |
31 | 八坂神社 | 同上 | (境内社) | 素戔鳴尊 | 不詳 | 記載なし | ― | ― | |
32 | 秋葉神社 | 同上 | (境内社) | 不詳 | 不詳 | 無之 | ― | ― | |
33 | 氷川神社 | 回田新田 上水通136 | 村社 | 素戔鳴命 | 宝暦5乙亥年2月3日勧請、祭日毎年9月19日、明治4年村社に列せらる。 | 本社(間口1尺5寸、奥行1尺2寸) 拝殿(間口2間3尺、奥行2間) 手水屋(間口4尺、奥行2尺8寸) 華表1、水舎 | 176坪 | 貢税地貢地第三種、斉藤某私有地→山田某外19名共有地 (大11・7・28登録申請) | 19戸 |
34 | 稲荷社 | 同上 | (境内社) | 記載なし | 記載なし | 記載なし | ― | ― | |
35 | 根之山神 | 同上 | (境内社) | 記載なし | 記載なし | 記載なし | ― | ― | |
*『北多摩郡神社明細帳』より小平市域分の神社を掲載。表は明治12年6月30日時点のもの。 |
表6-2は、現在の小平市域の神社の祭りをまとめたものである。大まかに分類すると、小平市内の祭りは年末年始と春と秋の三期に集中してみられ、各地区のおもだった神社で元旦(歳旦)祭、祈年祭、例祭(例大祭)、新嘗祭が行われている。例祭とはその神社の由緒にかかわる祭りであり、祈年祭とは農作業を始めるに当たって五穀豊穣を祈る祭り、新嘗祭とは収穫を感謝する祭りである。これらの祭りのやり方自体はだいたいどこの神社でも基本的に似ている。各神社での祭りの違いを挙げれば、上記以外の祭りがあるかどうか、そして神輿を出す祭りかどうか、出すとすればどのようなかたちなのか、という点である。
表6-2 小平に鎮座する神社の祭日一覧 | |||||
年末年始 | 春 | 夏 | 秋 | 冬 | |
小平神明宮 | 大祓式 (12月31日) 除夜祭 (12月31日) 平安祭 (1月1日) 元旦祭 (1月1日) | 節分追儺祭 (2月3日) 初午祭 (2月11日) 祈年祭 (2月17日) 八雲祭・宵宮祭 (4月第4土曜日) 八雲祭・神幸祭 (4月第4日曜日) | 大祓式 (6月30日) | 例大祭奉祝行事 (9月15日) 例大祭 (9月17日) 学園西町氏子会祭礼 (11月第2土曜、日曜日*) 新嘗祭 (11月17日) | 星祭 (冬至の日) |
日枝神社 | 歳旦祭 (1月2日) | 例祭 (4月8日★) | |||
熊野宮 | 大祓式 (12月31日) 歳旦祭 (1月1日) | 紀元節祭 (2月11日) 初午祭 (2月11日) 祖霊社慰霊祭 (春分日の前日) 祈年祭 (4月2日) | 大祓式 (6月30日) | 例祭 (9月19日) 神幸祭 (9月19日★*) 新嘗祭 (11月20日) | |
武蔵野神社 | 年越大祓 (12月27日) 元旦祭 (1月1日) | 節分祭 (2月3日) 祈年祭 (4月13日) | 夏越大祭 (6月30日) | 例大祭 (10月2・3日) 新嘗祭 (11月20日) | |
稲荷神社 (上水南町) | 歳旦祭 (1月1日) | 祈年祭 (2月19日★) | 例祭 (9月22日★) 新嘗祭 (11月29日★) | ||
稲荷神社 (上水本町) | 歳旦祭 (1月1日) | 紀元節祭 (2月11日) 初午祭 (2月11日) 祈年祭 (4月15日★) 天王祭・神幸祭 (4月15日★) | 例祭 (9月22日) 新嘗祭 (11月22日) | ||
稲荷神社 (鈴木町) | 歳旦祭 (1月1日) | 祈年祭 (4月15日) 天王祭 (4月15日) | 神幸祭 (9月15日★*) 例祭 (9月22日) 新嘗祭 (11月22日) | ||
稲荷神社 (大沼田町) | 歳旦祭 (1月1日) | 祈年祭 (4月5日) | 例祭 (9月15日) 神幸祭 (9月15日★) 新嘗祭 (11月22日) | ||
氷川神社 | 歳旦祭 (1月1日) | 初午祭 (2月19日) 祈年祭 (2月19日) | 例祭 (9月15日★) 神幸祭 (9月16日★) 新嘗祭 (11月22日) 秋葉祭 (11月22日) | ||
小平駅前 稲荷神社 | 歳旦祭 (1月1日) | 例祭 (5月第3日曜日*) | |||
★印の祭事は、前後の土曜日または日曜日に変更の場合あり *隔年開催 |
神事を執り行うのは神主であるが、小平市域の神社で専任の神主がいるのは小平神明宮、日枝神社、熊野宮だけで、そのほかの神社は小平神明宮か熊野宮の神主のどちらかが兼務するかたちとなっている。
それでは以下、それぞれの神社の由緒と祭りの現状を紹介していくことにする。なお、ここで由緒というのは、基本的には民俗的伝承であるところの、神社側が伝える神様と人々との関係の物語を指しており、信頼できる史料によって十全に裏付けされている歴史的事実とは性格が異なるものである。したがって、ここでは神社発行の由緒書や境内に設置された看板から各神社の由緒を紹介することにする。